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翼ある者達  作者: 天野 月子
5/17

~永遠に想う~


8、


「トーヤ…?」


自分が目にした物が信じられない。

目の前で、少年がゆらゆらと蒼く燃えている。

痛みなんて感覚からも、時間の感覚からも、切り離されてしまったようだ。

"人が焦げて、跡形もなく()()する"場面など…。

まるで現実感のないVRの世界か…。


青く燃えるトーヤから目を離せずにいると、フッと焔が掻き消え、トーヤがこちらに向かって歩いてくる。

わたしはそれを茫然と見ていた。


「サラサ…」


…あ。優しい声。

トーヤだ。

何か言葉を紡ごうとしたが、何一つ言葉にならなかった。


私の傍らに膝まづいたトーヤは、ケガをした左肩に手を当ててくる。

痛みが戻ってきた。

「くっ…ぅ…!」

焼けるような熱い痛みが、徐々に癒されて行くのを感じる。

身体の中を、透き通った優しい水が巡り、充たして行く感覚。


彼を、強く、強く感じる。

こんなにも純粋。

こんなにも優しい。


トーヤ。

トーヤ。

とにかく、彼を抱き締めたかった。

動く右腕を上げて彼を引き寄せようとすると、トーヤはビクッと震えて固まった。

彼には、表情が浮かんでいなかった。

「!!」

無理やりトーヤの左腕を引っ張って、私の上に横から被さるようにして抱き締めた。

片腕で、ありったけの力で。

「トーヤ。…大丈夫だよ!」


何が、とか、何で、とか、そんな事はわからなかった。

何もわからなかった。

ただ、彼を離してはいけないと、強く思った。

思ったのに…。

少年の身体は、私の片腕では捕まえておけなかった。


トーヤは再びフラりと立ち上がると、銀の笛を吹いた。

《ピィ―――――!!》

どこまでも高く澄んだ音を聞いた後、近付いて来た爆風が地面と私を叩く。

「待って!!」

私の言葉が彼に届いたかはわからない。

「トーヤ!!」


空中に音もなく浮かんで行ったトーヤは、上空に待機していたユランに手を触れた瞬間に、蒼いキラメキを残してユランと共に掻き消えた。


トーヤ…?

どこへ行ったの―――?


両頬を意図しない温かい滴が伝う。

それでも、彼らが消えた空を見つめ続けた。

目を凝らしても、次々に溢れだす涙が視界をゆらゆらとゆらし、不確かな物にしていく。


どれくらいの時間がたっただろう?

おそらく、直ぐに、もう一つの爆風が迫って来た。


「サラサ!!」


上空をホバリングするソランからレトが飛び降りて、私に駆け寄って来た。

直ぐ様私を抱き起こし、傷を確認する。

「…処置済みか。トーヤが?」

「…。」

声にならなくて、うなずきで示した。

「…どこへ…。」

「わからな…。っ。」

やっと、嗚咽が漏れた。

トーヤが行ってしまった。

引き留められなかった。

「…ふ…ぅっ…」

心の堰を切って、得体のしれない感情が溢れだしてくる。

私を介抱してくれたトーヤ。

一緒に空中散歩したトーヤ。

私を"嫁"だと言って嬉しそうにしていたトーヤ。

10歳の、やんちゃ盛りのトーヤ。


…人を、怒りに任せて焼き付くしたトーヤ。


レトは何も言わず、私の肩に顔を埋めて、強く抱き締めていてくれた。


レトの守護"モノノケ"の"オズワルド"は、緑の火の玉だった。

『けっ。レイとは別もんだからな。一括りにするんじゃねーっての!ケッタクソわりぃ!』

"オズ"のトンネルで、私達はセルストイ邸へ帰還した。

やはり、トーヤは帰っていなかった。

レトは無言で、私を部屋まで抱き上げて運んでくれる。

壊れ物を扱うかのように、丁寧に。

一頻り泣いた私は、悪い物を全て追い出したかのようで、若干の余裕が戻ってきた。


レトは私をベッドに寝かせると、そのまま立ち上がって部屋を出ようとする。

私はレトの服の裾を掴んで引き留めた。

左肩はまだ痛んだ。


「レト。話をしよう?」


私は何をしていたんだろう。

私がトーヤと過ごしたのはたったの3日弱。

誰も頼りようのない世界で、彼を心底慕っていたのは事実だ。

だが、トーヤはレトの双子の弟。

小さい頃から、大人を頼むことも出来ず、迫害といっていい待遇を受けてきた同士。

"神の力"なんてとんでもないものを分けあった半身だ。

失ってはいけない存在だったはずだ。

そんな彼にすがって泣いてしまうなんて。

そんな事をしては、レトが泣けなくなってしまう。


硬い表情を崩さないレトは、

それでも私に笑みを見せようとする。

その瞳には、光なんて失くなっているくせに。

「サラサ、疲れているでしょう?傷も、トーヤが処置したから痕は残らないハズだけど。まだ癒えきってない。睡眠が必要だよ。」


なによ。なんでなの?

我慢なんてしなくていいのに。

10歳だよ?子供なんだよ?

今泣けないこの子達は、いつ、誰の前なら泣けるの?

神様の力なんて、関係ない。

だれが、こんなところに二人を閉じ込めているの?!

言い様のない怒りが、私の心の在り処を教えてくれた。


私は両手でレトの両頬をしっかり包んで、瞳を覗きこんだ。

「泣いて。レト。…貴方が何者でも、どんな"力"があろうと、関係ないの。」


「…サラサ、傷が痛むよ。」

レトは刹那瞳を揺らしたが、私から離れようとする。

私は離さない。

「そんなことも関係ない!レト、お願い…!ちゃんと泣いて!!」


涙は、心を洗ってくれる。

悲しみを、やるせなさを、後悔を溜めたまま。

濁った心では、最善は掴み取れないんだ。


「ちゃんと泣いて、迷いを晴らして。明日からトーヤを探しに行こう。」


レトの瞳に一筋の光が走った瞬間、私はそれが見えないように、彼の頭を胸に抱き込んだ。

レトは声を出さなかった。

ただ、温かい水分が服を濡らして行く感触に安心して、私はレトの背中を長い時間擦り続けた。


涙の止まったレトと順番にシャワーを使い、遅くなったが、サンガさんの用意したリゾットのような軽食を頂く。

レトは食べたくないと言ったが、食は生活の基本だ。

食堂に連れてきて、レトのすぐ隣に陣取る。

スプーンを持って一口でも食べさせようとする私に、レトは折れた。

「本当に、調子狂うよね。僕達にこんなおせっかい焼くの、サラサが初めてだ。」

「…今までは食べさせてもらったことないの?病気の時とか。…"神様"は、病気しない?」

「僕達は"神様"じゃないよ。"力"があるだけ。普通の人間だ。…病気だって、ケガだってする。死ぬ事もある。」

やっぱり。普通の子供じゃない。

「…それなら、今までは病気の時、どうしてたの?」

「僕達、本当に繋がりが深いみたいで、だいたい一緒に病気になるんだ。サンガはいろいろ用意はしてくれるけど、僕達が"したくない事"はしない。無理にご飯食べろとも言わないし。基本的には、治るまで寝てるかな。」

そんなの…さみしい。

ウチは私が熱を出すと、母はアイス枕やお粥を用意するし、父は果物やらバニラアイスやらを買ってくる。妹は冷ピタをすぐに交換しようとするし、祖父母(近くに暮らしているので)まで見舞いにくるのだ。

"愛されている"と感じるし、家族っていいなと思う。

やっぱり、レトとトーヤに足りないものは、"愛情"だ。

「私、二人のお母さんだもん。ほっとかないよ!

はい。食べて!」

リゾットをすくい口元へ運ぶと、レトはしぶしぶと言った感じに口を開けた。

「あつっ…」

「あ!ごめん。」

湯気がそんなに立っていなかったので油断した。

まだ熱かったようだ。

《フーッフーッ》

息を吹きかけて冷ました。

「はい。今度は大丈夫!」

今度は素直に口を開けてくれたレトは、それを咀嚼して飲み込んだ。

『…どう?羨ましいでしょ。…早くかえっておいで。トーヤ。』

レトが小さな声で何かを呟いた。

「え?なに?」

「ううん。なんでもない。サラサ、もっと。」

ようやく食欲が出てきたようだ。

その後はレトにねだられ、次々にスプーンを運んだ。

と言っても、レトのいつもの食事量からすればほんの少し。

私と同じ皿の量で終えてしまった。

ソランには、いつもの半分量(1羽分)が用意されたようだが、こちらも半分近く食べ残したと、サンガさんは言っていた。

片割れと離れてしまって、やはり心細いのかもしれない。


「ごちそうさまでした。」

レトはお行儀良く左胸に手を当てた。

この国の礼なのだろう。

「ねぇ、サラサ。お願いがあるんだけど…。」

レトは少しモジモジしながら、言いずらそうに言った。

…かわいい!

「ん?なーに?」

内容を聞く前から、聞いてあげたくなっちゃうかわいさ。

「今日は…一緒に寝て?」

え…?

今日、"妹には思えない身体の厚み"に気づいたところだ。

まだまだ幼さは残るものの、"男の子"。

でも、だけど。

私は"お母さん"として、愛情を注ごうと…。

「僕達…、今まで一度も離れたことがないんだ。僕にはトーヤしかいなかったし、トーヤにも僕だけだった。…不安なんだ。」

レトを見ると少し唇が青いようで、握り締めた拳は小刻みに振るえていた。

「うん。一緒に寝よう。」


レトが私の手を引いて、彼等の部屋へ向かった。

彼等は同じ部屋、同じベッドで眠っていたようだ。

中へ入ると、そこは()()()()()ではなかった。

部屋へ入ると同時に扉は掻き消え、窓や壁、床、天井などは、()()()()

足元が浮くわけではないのだが、()()という枠が失くなっている。

球体の中心部分に、とても広いベッドが浮かんでいるように見える。

周囲は、淡いブルーの海の底のようでもあり、空の藍色を集めたようでもある。果てしないようであるし、狭くも感じた。

「………。」

観察し、驚きはあるが、なぜだか違和感は少なかった。

彼等が"神様の子供"であることを、理解し始めたのかもしれない。

「ビックリした?」

「うん。…少し。」

「僕達、寝ているときは無防備だからね。この部屋は強力な"結界"なんだよ。」

こんな風に、いつでも備えて生活しなければならないこの子達。

その身の内に"神力"をやどし、"神"に祈ることすら出来ない。

今頃トーヤは…。

「サラサ。来て。」

レトと共に、中心のベッドへ横たわる。

空間内は温かく調えられているようで、上掛けは必要なかった。

「今頃…トーヤは眠れているのかな。」

"この部屋"は無いのに。

彼には、無理やり食事を与えてくれる人もいないだろう。

「トーヤと僕は繋がっている。…今は、感情は伝わってこないけど、ケガをしたり、弱ったりはしていないようだ。」

「そっか。」

今日あったこと。レトは、どこまで知っているのだろう。

「ねぇ、レト。今日の事。…私に聞きたい事はないの?」

「だいたいは、トーヤから伝わってる。…けど、サラサが撃たれてからは…意識が真っ赤に混濁したようで…。慌ててユランとソランを連れて、近くまで"オズ"で飛んだんだけど…。」

「じゃあ…。」

トーヤが"人を焼いた"所は知らない…?

「そのあと…"殺してやる"って思念に支配されていた。そして…"悲しみ"と"決意"…もう、戻らないって。」

"戻らない"…やっぱり。

「でも、そんな事、私は認めないよ。絶対に連れ戻す。」

レトは暗い瞳を、少しだけ和らげた。

トーヤは嬉々としてソレをしたわけじゃない。

怒りに我を忘れてしまっただけだ。

言ってみれば、私が怪我をしたからだ。

彼の自爆スイッチを、私が押してしまった。

一人で苦しむなんて、許さない。

彼を、いろいろなしがらみから、解放してあげたい。

「サラサは、怖くはならないの。…トーヤの事。…僕の事。」

少し怯えたように聞いてくる。

怖がっているのは、彼の方だ。

きっと、トーヤも。

「怖いわけないでしょう?こんなにかわいいのに!」

わざと明るく言って、レトを抱き締める。

しばらくおとなく腕の中に収まっていたレトは、

《はぁっ》

『…分かってない。』

ため息と小さな呟きを一つ吐き出すと、体勢をクルリと入れ替えて、私に覆い被さって来た。

「え?!」

焦って起き上がろうとしたが、やはり男の子。

力が強い。

真上から瞳を覗き込まれる。

相変わらずキレイなブルーグリーンの瞳。

「ええっ?!」

レトは妖しくにやりと笑った。

「僕は、怖くないんでしょう?」

「レ…レト?」

そのままレトは右手を私の左肩に滑らし、耳のそば、低めの声で囁いた。

「…おとなしくして?」

「§ΦゐΒ仝%Ψ&θ?!」


レトの右手が熱を帯びる。

「う…んっ…」


あ…。

痛みが。…引いていく。


「トーヤが外側は治療してたけど、まだ内側はもう少し治療が必要だからね。明日からもしばらく、()()()()()()()()()()治療を受けてね。」


そう言って、今度は悔しいくらいに完璧な"エンジェルスマイル"を浮かべるのだった。


9、


翌朝起きると、私はレトを抱き締め、レトは私にすがりつくように眠っていた。

その寝顔は、歳なりの()()()()()寝顔だった。

あ、ヨダレでてる…。

「うふふっ…。」

いつも紳士然としたレトも…まだ子供だよね。

昨夜の妖しい微笑みも、すっかり払拭出来ちゃうわ。

まったく、困ったイタズラちゃんね!

鼻をツンとつついてみたが、レトは起きなかった。

意外。寝起き悪い方なのかな?


今、何時なんだろう。

時計もない青い球体状の部屋だが、なぜか出口がわかった。

レトを起こさないようにそーっと腕を抜いて、ベッドから降り、部屋へ戻って着替えを済ませる。

昨日セロさんが選んでくれた服は、なぜだか既にクローゼットに収まっていた。

「どんなテクノロジーなの…。」

てゆーか、魔法か。

動き易さで言ったら、昨日の"感動ストレッチ"デニム一択だ。

今日は薄いブルーのストーンウォッシュ。

トップスは、クリームイエローのオフショルフリル、盛り袖、裾レースの、前ボタンシャツ。裾は敢えて全部止めない。へそが見えるか見えないか…

ソコが萌えポイントですよね?!セロさん!


よし。

動き易さ良好!

昨日は食材もスパイスも選べなかった。

いっそ、"スパイス"は鬼門な気もする。いや、服屋か?

…うん?カフェだな!


とりあえず、部屋の時計でまだ朝の5:30だった。

サンガさんはもう厨房にいるだろうか?

とりあえず"お母さん業"を諦めていなかった私は、厨房へお邪魔した。

《コンコン…》

ノックをしてからドアを開ける。

「サンガさん。いますか?」

中では、コックコートを着こなしたサンガさんが、ブランチの仕込みをしているようだった。

「サラサ様。このような時間に、何かございましたでしょうか?」

そういえば、今までサンガさんについて特筆することはなかったが、彼は彼でスゴイ"イケメン"いや、若干歳はイッていそうなので"イケおじ"なのだ。

ただ、トーヤとレトの整い具合からしたら普通に見えてしまうだけ。

歳は40代前半くらいか。

クラスメイトの花ならば、間違いなく()()()()物件だ。

渋センなのだ。(渋谷センター街ではない)

クセの強い、肩まである黒髪(そう言えばセルトレーン人ぽくなく)深緑の瞳。ワイルド系アゴヒゲ。

背は高く、185はありそうだ。

体つきは細マッチョ。

あと15年若かったらな。

いや、それはいい!

「ごめんなさい。お邪魔でなければ、レトに朝食、あ、いやブランチを作ろうと思ったんですけど…。」

サンガさんは、少し驚いたような顔をした。

いつもは、食事の給仕の時くらいしか見かけないが、表情を変えたところを見るのは初めてだ。

(ワタクシ)のお出しする食事に、なにか不備でもございましたか?」

「ううん!!とんでもない!サンガさんのご飯、凄く美味しい!!本当に、将来、お嫁さんに欲しいレベルで!」

慌てて否定した。

「では…?何か召し上がりたいお料理でも?」

「ううん…。そうじゃないの。」

彼の台所(テリトリー)をお借りするのだから、本当の理由を言おう。

「レト、家族にご飯作って貰った事無いのかなって…。私も、そんなに料理が上手いわけじゃないんだけど、でも、"彼の為に"作ってあげたいと思って。…本当は、トーヤにも食べて欲しかったけど…。」

しどろもどろに説明すると、

サンガさんはほんの一瞬()()()微笑みを作った。

が、直ぐに無表情に戻り『そう言う事でしたら。』と、快く厨房を案内してくれた。

とてもじゃないが、レトの食事量を一人で作れる気がしなかったので、サンガさんのお料理に加えて一品だけ作らせて貰うことにした。

スパイスもそんなに要らないソレなら、こちらの食材でも比較的再現しやすいと思ったのだ。

ざっと30を超えるスパイスを、少しずつ嗅いだり味見したりして行く。

「あ!コレって…。」

「"シナモン"でございます。」

びんご!現代と一致する風味に、"翻訳"も付いてきた。

「あと、"バター"と"ミルク""卵""砂糖""塩"を使っても良いですか。あと、コレも。」

「ご随意に。」

手早く卵液を作り、切り分けたパンを浸す。

バターを溶かしたフライパンでじっくり焼き色をつければ、フワフワじゅわーの、フレンチ・トーストの出来上がり。

こちらの世界にも"メープルシロップ""ジャム"などが有ることは、初日のブランチでわかっていたので、このメニューにした。

サンガさんは、自分の作業を確実かつ迅速にこなしながらも、こちらの料理が気になるようだ。

「良かったら、サンガさんも召し上がりますか?」

「…い、いえ…(ワタクシ)は…。」

珍しく、動揺している?

初めて見る料理に家令としての儀礼より、料理人の好奇心が勝ってしまったらしい。

「今焼いたのは、レトが起きる頃には冷めちゃうから、温かいうちに、味見してくれたら嬉しいです。」

そう言って勧めると、

「…ご相伴に預かります。」

と言って、こわごわとフォークを受け取ってくれた。

「"フレンチ・トースト"と言います。甘いのお嫌いでなければ、"ハニー"や"メープル""ホイップクリーム""ジャム"なんかと、果物を添えます。甘いの苦手な方は、溶かしたチーズや、フレッシュトマトのサラダなんかも合います。あとは、半熟のポーチドエッグ、カリカリベーコンなんかも!」

サンガさんは、一口大に切ったフレンチ・トーストに、シンプルに"メープル"をつけて食べた。

「!…これは。優しい味ですね。確かに様々な食材に合いそうだ。」

彼の敬語が一瞬取れた。

「!…失礼致しました。大変美味しゅうございます。」

私は良いものを見ちゃった気分で、少し笑った。

その時…

《バン!》

厨房のドアが勢い良く開け放たれた。

「サラサ!!」

「レト?おはよう。どうしてたの?慌てて…」

何も言わずに駆け寄ってきたレトは、そのまま私を抱きすくめた。

「何も言わずに居なくならないで!」

レトは必死だった。

「ごめん!…レト、ごめんね!」

間違った。

今日してあげなきゃいけなかったのは、ブランチを手作りすることじゃなかった。

起きたときに隣に居て"おはよう"を言ってあげる事だった。

「ごめん…。」

後悔しながらレトの背中を撫でていると、サンガさんが、私の作ったフレンチ・トーストの、フライパンに残っていた方を皿に乗せて持ってきた。

「レト様。サラサ様が、貴方様のためにお作りになられました。是非お召し上がり下さい。」

サンガさんの飾ってくれたフレンチ・トーストは、横にホイップクリームが美しく飾られ、ベリー系の果肉が残ったジャムと、生の果物が美しく並んで、本職のシェフ仕様に仕上がっていた。

さすが。私作なんて言えないレベルになっちゃってるよ?

レトは、まだ拗ねた顔をしつつも私から離れ、フォークを取ると、一口食べた。

とたんに眉間のシワが取れ、驚きを越えて笑顔になる。

「美味しい!!」

よかった…。

レトの笑顔。

これが見たかった。

それから、すっかりフレンチ・トーストを気に入ってしまったレトは、まだいつものブランチの時間ではないのにおかわりをし、食パン、おそらく一斤分近くぺろっと平らげた。

「それじゃ、ソランを待たしちゃってるから、とりあえず朝の散歩に行ってくる。」

そう言って、手綱(鞍に変わる紐)を持ってきた。

いつもはトーヤと二人で行く散歩だ。

「レト。大丈夫…?」

「うん。大丈夫だよ。帰ったら、これからの事を話そう。」

レトの表情には、もう"迷い"は無いように見えた。

もう、大丈夫。

あとは進むだけだ。


「じゃ、行ってくる、よ…?」

あれ?語尾が…?

「うん。気をつけて…ね?」

???


まさに、今。銀の笛を吹こうとしていたレトは、手にした笛を取り落とし(ネックレスでぶら下がっただけだが。)

私は、見送りに続こうとした足を止めた。


ガラス越しに見える庭に、すでにソランが居た。

ソレだけならばこんなにも驚かなかっただろう。

ソランは、もう一体の"ギザ"とじゃれあっていた。

その"ギザ"は、赤、紫、黄色がメインになっていて、ユランやソランよりも、少しだけ体が大きいようだった。

ソランは、もう一羽の"ギザ"にとても()()()いるように見える。

「ユーリー?!」

レトの口から初めての名前がこぼれた。

え?知っているの?

レトは大股で窓に近づくと、開け放ち、そのまま庭へ出て行く。

「あ!」

スリッパ、と言おうとしたら、すでに靴を履いている。

うーん。なれない。

ともかく、知り合いなのかな。

新しく来た"ユーリー"と呼ばれた"ギザ"を眺める。

ユランやソランより、()()()()()

「サラサ、来てごらん!"ユーリー"を紹介するよ!」

私はそのまま庭に出ようとしたが、靴を履き替えなければ、と思い直した。

ところが、何故か意図せず一歩踏み出し、スリッパは靴に変わっていた。

レトがやったらしい。

ま。そんなもんだよね。

慣れだ。慣れ。

近づくと、ユーリーは心得たように、優雅に深くお辞儀をしてくれる。

慌てて私も礼をした。

「は、はじめまして!サラサです!」

鳥(?)に向かって、自己紹介をしてしまった。

でも、なんてゆうか…とても神秘的な何かを感じる。

まつげが長くて、キレイだな。

つい見とれていると、レトがとんでもない事を言い出した。


「サラサ、ユーリーは、"現・メイルーア"のギザなんだよ。」

「え?」

「で、ユランとソランの"お母さん"だ。」

「…え?」


また何か、私達を取り囲む運命の輪が回った気がした――――。


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