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翼ある者達  作者: 天野 月子
4/17

~永遠に想う~


6、


翌朝起きると、すでにお日さまは天頂をすぎていた。

「え?…えっ?!」

昨日の服のまま寝ていた私は、あわててシャワーを使い、大量に運び込まれたドレス類(うん。普段着は無かったね。)の中から、

薄いブルーの、上衣とパンツのセットを選んだ。

…なんと、下着もあった!しかもサイズぴったりの。

レト…オソロシイ眼力だわ。

上衣は、やはり胸元の開いたピタッとしたデザインで、下はさらっと揺れるスカンツと言う感じ。生地が滑らかなので、ふわりとしている割には身体に馴染み、動きやすかった。

上衣からスカンツに掛けて、アシンメトリーに蔦模と華、蝶の柄が薄く入っていて、腰からチェーンのベルトを緩く3重にかける。とても大人っぽいデザインだった。

身体をひねってあちこち動かしてみる。

「まぁ。…いいか。」

本当は、今日から彼等の"お母さん"業を始めようと思っていたのだ。

早起きしてご飯作って、優しく起こしてあげようと思ってたのに…。

だから、なるべく動きやすいデザインが良かった。

急いで食堂に行くと二人とも既にブランチを食べ終わったようで、(この国(セルトレーン)では、ブランチとディナーの、1日2食が基本らしい。)

中庭でユラン、ソランと遊んでいる。

レトが大きなブーメランのようなモノを、空に向かって()()()()()

と、ユランとソランがともに舞い上がり、追いかける。

ブーメランは、とても"人"が投げたとは思えない複雑な軌跡を描き、ユランとソランを翻弄しながらそうとう遠くまで飛んで行った。

「あ!サラサ、おはよう!体調はどう?」

レトが駆け寄って来て聞いてくれる。

「うん。体調は全然普通。…ごめんね。寝坊しちゃって。」

ちょっと決まり悪くかんじて謝ると、トーヤも走って来て

フォローしてくれた。

「サラサ、疲れてたんだよな。一昨日こっち来たばっかで、昨日はソランにも乗ったし、異世界・街探訪に、悪漢達との戦闘。いやぁ、なかなかこんな()()1日ってないぜ!」

「そうだサラサ。足とか痛くない?」

レトが心配してくれるが、別になんともなかった。

「うん。…別に大丈夫。毎朝サンドバッグ蹴ってたから。」

空手の練習で、毎朝蹴っていたのだ。

悪漢を蹴った時のケガを心配されたのかと思ったのだが、レトはぽかんとした表情をした。

「いや、そっちじゃなくて。ソランに乗ったでしょ?…多分、慣れない人は、普通筋肉痛になると思うんだけど…。」

「あー、そっちね!うん。…全然へーきみたい。」

バスケは足腰が重要なのだ。トレーニングは怠らない。

格闘技しかり。

体力にも、体幹にも、それなりに自信がある。

一泊置いて、トーヤが弾けるように笑いだした。

「アッハハハハハッ!サラサ、強ぇ!最高だぜ!」

「フフフッ…そうだね。僕達と居たらサラサが危険だとか、さんざん考えてたのに!」

10歳の少年なのに、狙われてるのは二人のほうじゃない。

「まったく…危険なのは、君らでしょ!出かける時は言ってよね!ついていってあげるから。」

レトが困ったように言う。

「サラサ、僕達、"力"があるって言ったでしょ?大丈夫だよ?」

「逆に、"力の暴走"が怖いくらいだもんな?」

「え?どう言うこと?」

昨日は、レトは戦わなかった。

「昨日は、サラサを巻き込めなかったからね。」

レトが悔しそうに言う。

「僕達、"力"を半分づつにしちゃってるから、実は制御が上手く出来ないんだ。二人揃わないとね。…昨日のカフェみたいな所で襲われて反撃したら、多分半径2メートルは巻き込んじゃう。」

なるほど。それで反撃出来ずに、逆に私から離れるしか無かったんだ。

「レトはまだマシだよ。俺なんか、半径10メートルは吹き飛んじまう。」

それは…たしかに巻き込まれたら危ない。

「多分。これは今までの傾向からの推測だけど。…僕は制御系の力をメインで引き継ぎ、トーヤが純粋なパワーを引き継いだんじゃないかな。それで、二人揃わないと正しく力を使えないんだと思うんだ。」

「………。」

"神の力"を半分づつに―――。

本当に、なぜこんなことになってしまったのだろう?

この子たちは何も悪くないのに。

あれ。でも…。

「二人揃った方がいいなら、なんで二人で出掛けないの?」

たしか、『トーヤばかりが出かけるから、僕が留守番に…』と、レトが言っていた。

「僕達、どちらかは日中仕事をしないといけないから。」

「白国に保護してもらう代償だよ。朝ユラン、ソランの散歩が終わって飯食ったら、お仕事。夕飯の前までな。今は休憩時間だ。」

「え…仕事?」

「そ。内容はヒミツね。」

レトが右手人差し指を唇に当てる。

クセなのかもしれないが、本当に様になっていて、ちょっと心臓に悪い。

「まだ10歳なのに…。」

子供は子供らしく遊んだり出来ないものか…。

あ、でも、学校は?

「ねぇ、二人は学校行ったりしないの?」

当たり前の事を聞いたつもりだったが、二人ともきょとんとしてしまった。

「…サラサだけだよ。僕達の事"子供"扱いするの。」

「なんせ、俺達"カミサマ"だぜ?"シア"の学問は、一通り頭ん中。生まれた時からな。」

「……。」

絶句してしまった。

確かに、とても大人っぽい言い回しをするし。仕草なんかも様になっていて『本当に10歳だよね?』と思う事はいくらでもあった。

けど…。

なんだか、彼等を子供扱いしていいのか、迷い始める。

昨日は、年相応の愛情が必要と思ったのだか、知識量も仕事も持っている彼等に、果たしてそれは必要か?

考えながらうつむいていると、レトが下から覗きこむように首をかしげ、聞いてくる。

「サーラサ。甘えていいんだよね?」

「え?…あ、うん。」

答えると、レトは私の両手を横に持ち上げて、脇の下から手を回して抱き締めて来た。

ポスンッ…勢いに押されて、私もレトの背中に手を回す。

あれ?レトってこんなに逞しかった?

いつも私がハグするときは、彼の腕ごと包み込む事が多かったので、あまり密着していなかったが、こうして抱きつかれると、身体の厚みが良く分かる。

やだ。ちっとも"少女" じゃない。

トーヤに負けない、()()()()してる…。

やだ!何なに?

いまの無し!こんなの、おかしいって!!

私が赤くなったり青くなったりしてるのを見て、なぜかレトは嬉しそうにしているし、トーヤは面白くなさそうにレトを引き剥がそうとしている。

「レト!長ぇよ、代われ!」

「昨日のトーヤの方が長かったでしょ!」

「お前の方が回数が多いだろ!」

「サラサを部屋に運ぶの、譲ったじゃん!何もしてないだろうね?」

「…してねぇよ。」

「あー!!なんかしたね?!何したの?おかしいと思ったんだよ!意識的に思考を閉じてたでしょ。何も伝わって来なかったもん!」

「なんもしてねーって!!サラサ落とさねえように集中してただけ!直ぐに戻ったろ?!」

なんと言うか…うん。

まだ"お母さん"必要みたいだね。

私は、レトをぎゅーっと抱きしめなおして、その額にキスを送った。

「え?」

レトの頬が即座に染まる。

「喧嘩しないの。言ったでしょ?ちゃんと甘やかしてあげる。レト、大好きだよ。」

そして

固まったレトを解放し、今度はトーヤを抱きしめる。

「トーヤも、大ー好き。ちゃんと順番ね。」

レトを抱きしめていたのと同じくらいかけて、ぎゅーっとして、額にキスをした。

トーヤも真っ赤になってしまった。

かわいい!

さて。じゃ、改めて"お母さん業"しますか!

「今日は、私が夕食作ろうと思います!ね、食材見せて?」

この世界に、私の世界と共通するようなスパイスなどはあるのだろうか?

まずは調査しなければ。

「それなら、サンガに言って貯蔵庫を見て来たら…」

と、レトが話し始めた時、トーヤが私の腕をつかんで言った。

「遅くなったけど、今日は俺と出かける約束だろ?…たしか、昨日はスパイス買えなかったんだよな?」

「あ、そっか。」

私は納得しかけたが、レトはちょっと不機嫌だった。

「…スパイスならまだ足りる。昨日襲われたばっかりだし、今日だって危ないんじゃない?」

それもそうか。

昨日はたまたま上手く撃退出来たが、今日も勝てるとは限らない。

私がやっていたのは"ルール"のあるスポーツ格闘技であって、実践でやくに立つのかはわからないのだ。

「何言ってんだよ。だから行くんだろ?どこの組織のヤツかハッキリさせてやるよ。来るって分かってりゃ、ヤリようはある。」

「…え。…半径10メートルは…?私も入っちゃうんだけど。」

「俺は反撃しない。コレを連れていく。」

そう言ってトーヤが手を出すと、その上に突然、青い火の玉のような物が出現した。

「ひ…!」

今は昼間なのだが、見た目の形が()()()()なソレに、ちょっと驚いた。

「な…なに。それ?」

()()()…?

『初めましてェ♪アタクシぃは"レーイモンド"と、申しますっ♪』

「ひっ!火の玉!しゃべった…!」

ボゥボゥと燃焼音と共に、機械の合成音のような声。

『"火の玉"じゃぁありませんよぅ♪"レイモンド"でぇす♪お見知りおきをっ。美しきマドモァゼル♪』

「レイ、でしゃばんな。サラサが脅えてる。」

つい、トーヤの後ろに隠れてしまったが、そんな私の腰をトーヤが優しく支える。

「サラサ、こいつは"レイ"。俺の護衛を任されてる"モノノケ"だよ。」

「モノノケ…が、護衛?!」

「うん。まぁ、おいおい、な。」

うん。聞きたいような…、いや、そーいうのはあまり聞きたくない。

いや…"彼等をありのまま受け入れる"と、決めたばかりだ。

彼等が話すタイミングで、話を聞こう。

「うん。…じゃ、トーヤ。出かけよっか。」

若干、怯えた声になってしまったのは否めないが、トーヤの護衛と言うなら、害はないはずだ。

《キュルルー…》

あ。

情けない音がなる。私の胃のあたりから。

振り替えって食堂の時計を見ると、時刻は既に14:00だった。

こちらの世界は1日2食。ブランチを食べ損ねたら次はディナーだ。

うぅ。ひもじぃ…

うつむいておなかをさすっていると、レトが優しく教えてくれる。

「サラサの分、サンドイッチにしてあるよ。食べてから出かけたら?」

「…でも、街まで一時間半もかかるのに…すぐ行かないと、帰りも遅くなっちゃう…。」

サンガさんのお料理は本当に美味しいのだ。後ろ髪を引かれる思いでそう言うと、トーヤがまだ腰に手を回したまま食堂へ上がってきた。

「あ!靴は?」

とっさに足元を見ると、トーヤはスリッパを履いている。

「トーヤ!」

レトが外から睨むと、トーヤが答える。

「サラサには、もう全部話したんだ。いいだろ?」

…"力"を使ったのかな…。

そして、そのままテーブルまでエスコートして椅子を引き、用意されていたサンドイッチの皿を勧めてくれた。

「ありがとう。でも時間はいいの?」

「あぁ。それな…」

トーヤが紅茶をサーブしながら口を開こうとすると、ついてきた火の玉、いや"レイモンド"が先にはなし始めた。

『ご心配にーは及びませぇん♪ワタクシが、おりますればぁ、時間などぉ。如何様ぉ~にも、都合つけて差し上げまぁす♪』

「時を戻すことは出来ないが、"任意の対象物"の時を止めたり、緩めたり、進めたりする"モノノケ"だ。移動時間を短く出来る。」

…そうか。

疑問は…置いておこう。

もう、そういう世界なのだと認識して行くしかないのだ。

私は覚悟を決めて、サンドイッチにかぶりついた。


7、


「サラサ、これ着けて。」

トーヤが渡して来たのは、細かい金細工に、青い猫目石(?)とレースのついたバレッタ。

「髪色を変えてくれる。」

「あ、そっか。」

昨日は"姫"風にブェール(フードつきマント)で隠したっけ。

今日のはまた、全体を覆いもしないので気になったが、()()()()()なんだろう。


移動はホントに速かった。

"レイモンド"がぐるぐると縦長に渦を巻いて創ったトンネルのような空間へ、トーヤにしがみつきながら踏み出すと、マジョーラカラーのトンネル壁が生き物のようにうねっていた。

気味悪く感じながら3歩ほど歩くと…街だった。


目も口も、ぽかんと開いてしまう。

いや。…だから…。

そういう世界なんだ。

無理繰り納得しようと、ゴクリと生唾を飲む。

「サラサ、大丈夫か?」

「う、うん。だいじょうぶ。慣れ、だよね。ははは…」

「じゃ、サラサは今日は、俺の()な。」

「えっ?!」

「昨日はレトの()だったんだろ?今日は俺の番!」

「いや…。昨日のは、身分証のいる所だったからでしょう?」

街歩きには、()とか()なんて肩書きは、いらないのではないか。

歩いていると、昨日とは違う通りらしい。

昨日は、いかにも王都の正規商店街といった堂々たる風情だったが、こちらは、服屋、雑貨屋、本屋、アクセサリー、バッグなどの店がそんなに広くない通りの両端にズラリと並び、馬車の通る隙間などないくらいに人が、若者がひしめいている。

食べ歩きするカップルや、女の子どうし、店名のロゴの入った肩掛けの紙袋を持っていたり、行列の出来ている店もあった。

"竹下通り"かな?日本でいう。

「俺も、サラサの服選びたいな。」

「いや、…もう十分だよ!あんないっぱい…」

「量じゃなく、質の問題!レトは、女らしーのが好きだからな。ヒラヒラばっかだったろ?でも、俺達を()()()()()()んなら、動きやすい服、必要じゃね?」

確かに…昨日は下がヒラヒラしてはいたが、一応パンツスタイルだったので、思い切り蹴りを放つことが出来た。

だが、昨夜着たドレスのような服では闘えない。

今日もパンツスタイルを選んで着たのは、"動きやすさ"を重視した結果だ。

「それに、俺達"仕事"して報酬もらってるからね。金の面は心配ない。サラサは"用心棒代"として、服を受け取ってくれればいいだけだ!」

「トーヤ…口上手いね。」

語りはレト任せかと思っていたが、彼もまた口が達者だ。

「う。じゃ、お願いします。」

「おぅ!任せろ!」

レトは人混みの中慣れたように、奥まった服屋に連れて来た。

「セロ!いるかー?」

店は、現代でいうデニムにそっくりのパンツがたくさん積み上がっていて、ハンガーラックに見慣れたデザインのシャツやワンピース、パーカーまで並んでいる。

木製のログハウス風の店内に、バンダナのようなカラフルな柄のタペストリーやら、観葉植物やらが置かれている。

現代にも在りそうな店に、逆に珍しさを感じた。

「うわ!デニム?…まじコレ。でも、すごいストレッチ!!」

見た目はデニムなのだが、ゴムのように伸びる。

○ニクロも真っ青の感動ストレッチだ。

「私!コレ!…ねぇ、トーヤ。これがいい!」

現代服のようなショップに購買意欲が高まって、ついおねだりしてしまった。

「へーぃ。お呼びですかぁ?」

やる気のなさそうな声と共に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を着こなした、店員さんが出て来た。

前髪だけ少し長め。ワックスで散らしたかんじ。片耳にリングピアス。顎にチョビヒゲ。

「いらっしゃい。」

「うわぁ。」

あまりの"現代感"に、つい感嘆の声を洩らしてしまった。

「よう!セロ。うちの嫁さんに、なんか見繕ってよ。」

え?!トーヤ…さっきの"嫁"って、本気だったの?

「うわちゃぁ…。トーヤ、いつの間に"嫁取り"したん?…あー。コレはナリア達泣くね。いっちょ呟いてイー?」

セロさんはやる気無さそうにスタッフルームから出て来て、迷いもせずに、ハンガーごと服をいくつか手にして行く。

「ハイ。奥さん、コレ着てみ。」「え?ちょ…」

そう言って、私を試着室のような所に閉じ込める。

カーテンが閉まると、トーヤとセロさんの話し声がする。

「トーヤのファンクラブ、最近お前さん街に出て来ないってさわいでたんよね。」

「あぁ。ま、ね。」

「お前さんらの素性しってんねは、上級のおじょーだけやし。一部だけね。まぁ、ちょいと騒げばおさまろー…ョ。」

「…セロ、鏡が最近映ったのはいつだった?」

「あぁ。例の…。5日前から今朝までね。半年ぶりだったね。」

「周期は?」

「定期的とはー言えないんよね。前は2年空いてますヨっと。」

何の話かわからないが、とりあえず服を着てみよう。

身体の線を拾うトップスにはもう慣れた。ラベンダーのシャーベットカラーのそれは、前も後ろもVカットになっており、ウエストから下がペプラムというか、長いフリルのようになっていて、後ろにはリボンが付いている。

袖はシースルーの()()()()。しかも、リボンフリル付き!

パンツは、ハイウエストのインディゴスキニーデニム!

あぁ!お気に入りのショップのマネキンがこの間着ていたの、ほぼそのまんま!!!

あとは、キャップがあればなー。

と思いつつ、カーテンを開けると…。

「おぅ!ファンタスティック!」

セロさんが大袈裟にリアクションし、拍手してくれる。

トーヤは目と口を開けたまま、こちらを凝視してくる。

「あとは、コレなー。」

セロさんが、黒いキャップを被せて、銀色の小さなショルダーバッグを掛けてくれる。

「やだ!完璧!」

まんま、マネキンのヤツ!!

なんで?

試験終わりに買いに行こうと思ってたまんまのが、異世界に?

でも嬉しい!

女って、服は戦闘服。テンションが全然違うんだよねー!

「トーヤ、これ、どお?」

「…え。うん。すげぇ、似合ってる。」

顔を赤くして誉めてくれるトーヤ、かわいい!

「ありがとー!!」

もう、テンションMAXな私は、まだ買って貰ってもいないのに、トーヤにフライングで抱き付いた。

「仲良し夫婦やんねー。イイねぇ!で、奥サン、他のも着る?」

「ううん!セロさんの趣味、信じる!これドストライクなの!」

「うんうん。ウチもねー。奥サンに着て貰えて、コレ!ってかんじ。うちのマネキンやらへん?奥さん着たら、売れるワー。」

「きゃー!ショップ店員、やってみたかったよー!」

「うん。うん。仲良しはイイけどね。そろそろダンナ放したって?トーヤいろいろ限界やんね?」

あ。

トーヤは、顔を最高潮に赤くして、石像のように固まっていた。

それをみたセロさんが、やれやれと首を掻きながら言う。

「ダンナのくせにウブじゃんねぇ。奥さんが()()()()教えたってなぁ。」

「え…はいっ?!」

イロイロ…色々?

「余計なこと言ってんじゃねーよ!!」

突如復活したトーヤが、レジカウンターを叩きながら喚いた。

「セロ、服は着ていく。残りは送ってくれ。あと…サラサは貸さねーから!」

早口に捲し立てると、私の手を引いて急いで店を出た。

「……。」

「……。」

どちらからともなく無言の時間が続く。

"嫁"なんて言い出したの、トーヤなのに。

照れちゃうんだから。

「ふふっ。」

「なんだよ。」

「んーん。服、ありがとうね。すごく動きやすい。」

「そっか。良かったな。」

そのまま、なんとなくトーヤに手を引かれたままスパイス屋へ向かうことになった。

昨日とは違う通りを歩いているので、まるっきり違う街のようだ。

「ここ、昨日レトと来た街だよね?本当に、通り一本違うと全然違う街だね。」

「今の通り、()()()()()サラサはハマるんじゃないかってね。」

「?そうなの?うん。まぁ、私の居た世界に似てたかな。特に、セロさんの店は。」

トーヤは、我が意を得たりといった表情で笑ったが、何も言わなかった。

しばらく歩くと、見覚えのあるカフェの通りに出た。

昨日の襲撃ポイントだ。

「トーヤ、ここ…。」

「喉渇いたろ?寄って行こうぜ!」

「え?でも…。」

戸惑ったが、トーヤは迷いもせずスタスタと入ってしまう。

仕方なく私も覚悟を決めて、周りを窺いつつ後に続いた。

「トーヤ、"レイモンド"出さないの?」

街に来るためのトンネルを作ったあと、姿が見えなかったのだ。

「レイは目立つからな。出しっぱなしだと、(あちら)さんも出て来てくんないだろ。」

やっぱり、トーヤは"襲撃を待っている"のだ。

「ねぇ、昨日は3人だったけど、もっとたくさん来たらどうするの?私だってそんなにたくさんとは闘えないし。」

トーヤは、昨日私が気に入った"カフェラテ"を2つ注文する。

「"奥さん"は護られてればいいんだよ。サラサには指一本触れさせないから、安心しろ。」

そう言うと、またテラス席に向かった。

もう!こんなにあからさまに昨日と同じにするなんて、本当に来ちゃうからね!

しぶしぶ私も席に付き、カフェラテを飲む。

うん。やっぱり美味しい。

この世界"食の好み"が合う世界で良かった。

食べる事は生きる事だ。

味が独特過ぎたりゲテモノだったりしたら、今こんなにも平然としていられなかったろう。

トーヤを見つめる。

彼が保護してくれていなければ、生きていなかった。

命の上でも、精神(ココロ)の上でも、今の私があるのは彼等のおかげだ。

まだ少年に見える彼に、こんなにも助けられている…。

視線に、少し熱がこもってしまっただろうか。

トーヤが少し赤い顔で言う。

「なに。サラサ。俺に見とれてんの?」

「…うん。そう。」

トーヤは自分で言ったくせに更に赤くなり、所在無さげに目を泳がせている。

完璧な顔の造形(つくり)だけじゃない。

私を気遣う瞳。優しく触れる手。寄り添ってくれる心。

この感情に名前をつけることは、今はまだ出来ないけれど…。

《カツン、カツン》

こちらに向かう靴音。

また背後から"殺気"を感じた。

《カタンッ》

油断なく立ち上がって振り向くと、10台半ばから後半の5人の女子グループが、明らかな敵意を()に向けて立っていた。

「え?」

「トーヤ!結婚したって?!本当なの?」

トーヤの方を見ると、予想外だったのか、面食らった顔をしている。

「ナリア…。どした?」

「セロが、知らせて来たのよ!"祝福してやれ"って。」

あぁー…。なんか、"呟く"とか、言ってたわ。確かに。

この世界の"呟き"って、何媒体なんだろう。

ありがちな女の嫉妬の構図に、つい思考が逃避してしまった。

すると、"ナリア"の隣のぽっちゃり女子も言葉を被せる。

「しかも、昨日図書館を"レト様"が借りきっていたときに一緒にいたのも、その女よね?!レト様も、その女を"妻"とおっしゃっていたわ!!」

わぉ。

どの世界でも、女子の興味対象に対する情報収集力はハンパナイわ。

取り巻き女子達も(一人一人形容する気もおきないので、割愛させて頂く)口々に喚き始める。

「どういうことなの?!」

「この女がお二人を誑かしたのね?!」

自分の預り知らぬ所で、勝手に重婚疑惑だ。

勘弁してほしい。

「トーヤ様、目をお覚ましになって!!」

「この、卑しい女が!!あなたなんて、貴族会に入っていない、庶民でしょ!!見たこと無いもの!」

「レト様とトーヤと結婚出来るのは、貴族だけよ!」

「分をわきまえなさいな!!」

わーわー。ぎゃーぎゃー。

あまりのテンプレ展開に、セリフが雑音に聞こえてくる。

トーヤは完全に女子軍団の勢いに飲まれてしまっている。

「な、ナリア!サラサは俺の奥さんで、レトは関係な…」

「うそよ!お二方の結婚式は、大聖堂で行われるって決まっているもの!ここ一年、使われていないわ!」

「別の場所で、内密に式を上げたんだよ。事情があって…。」

「だとしても、私の父がソレを知らないなんてあり得ないわ!」

「それに、候補になっている貴族女性には通達があるはずよ!」

「だから…えっと…。」

しっかりしてても、まだ10歳。女軍団の縦断爆撃トークは捌けないよね。

私は仕方なく、トーヤを庇って前へ出た。

ある考えを実行するために。

「初めまして。"サラサ"と言います。お嬢様方、大変な勘違いをなさっておられます。私は、レト様とトーヤ様の"ボディガード"。常にお側におります関係上"妻"ということにいたしました。なお、それには"相応しくない女性"が寄ってくるのを防ぐ"害虫(むし)避け"の意味もございます。レト様、トーヤ様のお立場なれば、やむを得ない事とお察し下さい。」

最後はレトやトーヤを見習って、右手を左胸に当てて礼をして見せた。

これでどうだ?!

こめかみに汗が滲むのを感じながら、彼女達の次の動きを待つ。

「!!」

その時、彼女達の後方に、また、こちらに向いている光る物を見つけた。

軌道は…トーヤの前に彼女達に…

考えるより先に、私は彼女達を2つに分けるように分け入り腕で横に押し倒し、振り向き様、トーヤを椅子毎押し倒そうと身体を投げ出す。

《ガチャン!》「きゃっ!」「なにするの…!」

彼女達が悲鳴と罵声を上げながら周りのテーブルにぶつかる。

直後パシュッと何かの発射音がして、左肩に鋭い痛みを感じる。

「ぅっ…!」

トーヤは?無事?

私の身体を受け止めながら、スローモーションで一緒に倒れるトーヤは、驚きの表情を張り付けてはいたが、痛みは無いように見えた。

まだ、次の弾丸(たま)が来るかもしれない。

私の身体が、どうか次弾も防いでくれますように―――。

道に二人倒れこむ衝撃で、スローモーションは解除した。

《ガララァン!!》

「サラサっ!!!」

痛みで片目をつぶってしまっている私の下で、トーヤが顔に怒りを張り付けた。

初めて見る顔だ。

鋭い。尖った空気を纏っている。

「トー…ヤ?…"レイ"を…。」

早く逃げて。狙いはトーヤなんだから。

私をそうっと床に寝せて、トーヤはユラリと立ち上がる。

「だめ…ト ヤ、狙われる…。」

立ち上がっちゃダメ!早く"レイモンド"に道を創って貰って…。

《パシュッ》《パ、パシュッ》

「だめ!!」

確かに、発射音がした。

『キャーっ!!』『ナニっ?』ザワザワ

悲鳴、雑音。

トーヤは倒れない。

トーヤの周りを、青い焔のようなものが燃え盛るように包んでいる。

銃弾はソレを貫けなかったようで、焔の中、重力から解き放たれて舞い遊んでいた。

トーヤが左手を出すと、"レイ"が現れた。

良かった。これで帰れる。

そう思った時、レイの作る青い炎が"敵"と思われる、銃を握った男に巻き付いた。

「ヴギャアァアァッ!!あついぃイぃ!!止めっ!!やめてえぇ!!」

「え?」

目の前の光景を疑った。

トーヤは、自らが纏う焔で髪の毛を煽られ、背中には片方の羽根が出現している。

純白の片翼は青い焔とそれが造り出す影で、まるで黒く染まっているように見えた。

そのままゆらゆらと男の所まで歩いて行くと、のたうち回る男の頭を掴んで持ち上げる。

「何処の組織だ。誰に命令された。」

淡々と聞く声は、"トーヤ"のものではなかった。

瞳が…赤い?

「ひぃいやぁああぁっ!!!言えねええエ!言えば、殺され(ヤラレ)る!!」

「じゃ、死ね。」

「トーヤ!!!」

まさか!まさかでしょ?!

「ウガァ…あ…」

"レイ"の炎が油をかけたように燃え盛る。

「う…うそ…。」

男は、もう動いて居なかった。

急速に()()()小さくなりはじめる。

"レイモンド"が、回る速度を速めて、小さく小さく収縮していく。

既に男は居なくなっていた。

()()()()一つ遺さずに、"レイモンド"の中に消えてしまったのだ。


逃げ惑う人々。凶声。なぎ倒されるテーブルや椅子。

落ちて割れるカップ。

全ての音が、私には届かなかった。

ただ、静かに、燃えるトーヤを見詰め続けた―――。


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