せっかくのお時間
翌日のことである。うt主とA氏の二人、いつもの病室。
うt主は昨日の戦利品のをいただきつつ、その隣で黒ノート一号を読んでいるA氏の反応を見ていた。
「うーん。」
そのA氏は、表情一つ変えることなくノートをめくる。序盤の数ページに少しだけ反応して以降は、案の定、感触はよろしくなさそうだ。
「だめかな?A氏。」
「うーん。」
そのノートを読み切り終わったA氏は、ため息一つをこぼした後、ノートを返しながら本音を漏らした。
「こりゃ、ひどいな。」
知ってた。第一、書いてるうt主本人が面白く感じない作品だ。いくら人が変わろうが、手応えが変わるわけでも、できばえが変わるわけでもない。
「うt主、これは正直重傷だぜ。」
「お、おう。」
だが、ここまでボロクソにたたかれるのは予想外である。
「正直がっかりだ。」
「ご、ごめん。」
「ゴメンだが、期待外れだ。2年間仕事もせずに読み専していたお前がこのレベルとは。」
「悪かった。」
「いや、謝るなって、うt主。ただこの小説がゴミカスなだけだ。」
「・・・・・・。」
そこまで言う?一応努力はしたぞ?
「いやあ、改めてこれはひどいわw」
「具体的にどこら辺?」
少しいらついたので、うt主の口調も荒くなっているのが自分でもわかる。
「キャラ構成。」
「
「やっぱりな、道理で面白くないわけだ。」
「はぃ。」
やはり読んでいてわかるのであろう。A氏はうt主の
「キャラ自体は悪くない。が、正直これは売れる売れないのはなしじゃねえな。」
「と、いいますと?」
「第一、面白くない。老人が、異世界行って、無双する。これだけで終わりの作品。キャラとか全然出てきそうにないし、てかヒロインいないってどういう事だよ。今まで売れた小説でヒロインいねえ作品なんてなかっただろ?つながりも悪いし、肝心のギャグも味気ない。」
言われてみればそうである。正直
「そんなにゆったりしていいのか?うt主」
「ん?どうして?」
「いやどうしてもなにも、うt主の難病、医学では解決しないんだろ?」
「そんなことわかってるよ、何も今更言わなくてもいいじゃないか。」
「バカだな。」
「え?」
A氏はため息をついた。
「うt主突然悪化する可能性とか変異する可能性とか考えてないだろ。」
「あっ。」
部屋に飾ってあるカレンダーを見る。あっという間にもう入院二週間である。
心臓が少しバクバクし始める。
「おい、そんな悲観的になるなって、うt主。」
はと現実世界に復帰するうt主。少し冷や汗をかいていた。
「ほら、もうアイス食い終わったんだろ。さっさとアイデア練り直すぞ。」
A氏は呆れながらうt主の背中を叩いた。
そうだ、これはうt主自身の問題だ。
自分が頑張らなくて、何が起こる。
自分自身に言い返したうt主は、目の前のA氏の目を見る。
「ありがとうA氏。自分、頑張るよ。」
「わかった。」
うなずいたA氏は、バッグの中から大学の先生が持っていそうな教鞭を取り出す。
「今から俺が授業を行ってやる。うt主は耳の穴かっぽじって聞いとけよ。」
そう履き捨て、A氏は生徒一人にみっちり補講を始めたのだった。
時刻は午後4時を示したと思うと、空がいつの間にか夕焼け小焼けを歌っていた。
「お、もうこんな時間か。」
ここまで6時間近くA氏とアイデアを練り直した。A氏が帰る準備を始めたので、早くも二号に入った黒ノートを一旦畳む。A氏が部屋を出ようと立ち上がると同時にうt主も立ち上がる。
「今日の授業、良かっただろ。俺からいい話聞けて。」
「お、おう。」
そのA氏は、西日に照らされながら部屋のドアノブに手をかける。
「頑張れよ、うt主。」
「ありがとう、A氏。」
6時間も教鞭を振るったA氏は、少し声をからしていた。しかし、喉のあたりをなでたA氏は少しうれしそうだった。
「うt主、今日のアイデアを生かすも殺すもお前次第だからな。」
「おう。」
そう格好つけて言いつつ、A氏はドアを開けてその姿を消した。今部屋に残るのはうt主一人である。
充実した授業を過ごしたはずの生徒うt主は、机の上のノートやらペンやらを片付ける。
「今日の、・・・・・・、だったなあ。」
生徒の意思とは関係なく、素の感想が本心を打ち明けた。
確かに、そうだった。
今日の授業。
あんま意味なかった。