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760号室の病床より

 P.S.親愛なる読者の皆々様へ

 今、うt主はかなりピンチな状況におります。つきましては、是非皆様方になんとか売れる小説を書かせてもらいたく存じます。誠に拙い文であることはうt主自身、ひどく自覚している所存でありますが、皆様の卓越なるお星様ないしお気に入りがあればこの局面はきっと打開できるものと思われます。何卒、何卒、お願い申し上げます。

 うt主より。



  今思えば、なるべくしてなったのだと思う。


  うt主は幼少時から一人でいることが多かった。

 保育園、幼稚園、小学校、中学校、高校。席替えで教室の真ん真ん中を引き当てても、修学旅行で六人グループを編成することになっても、受験で同じ大学を目指すことになっても、気がつくと、いや気がつくまでもない、うt主は一人風にたつライオン(笑)になっていた。


  時はたち、うt主18回目の春。

  これが人生ターニングポイントになろうとは、このときのうt主は知るよしもなかった。


  話は少し変わるが、皆様は陰キャと陽キャについては知っているだろうか?まあ、この小説を読んでいるってことは、言うまでもなくうt主と同じ側の種別ってわかるんだが。ん?私は陽キャですよ?バーカ、陽キャ陰キャ分けてる時点で陰キャってわかる。陰キャをなめるな。


  ・・・それで話を元に戻すが、とある出来事から陰キャが陽キャに覚醒することは決して珍しいことではない。例えば、陰に照らす一筋の光(陽キャのお友達を作ることである)。例えば闇を理解する定めを受けしもの(その進化過程からリア獣化と呼ばれる)。また、特定のイベントも闇の世界の住民に這い上がる機会を与える。賢明な読者の皆様はもうおわかりいただけただろう。そう、大学デビューのことである。


  うt主にもそれがやって・・・・・・・・・・・こなかった。残念。それはしょうがない。自然の摂理に抗ってはいけない。


  で、問題はその後。

 うt主はこともあろうか、スルーしてしまったのである。そう、新歓を。一応説明すると、新歓は通称新入生歓迎会のことである。これは大学デビューとは少し異なり、陰キャの友達を作る唯一無二のイベントなのである(これによって、光に照らされることのない真の陰属性を手に入れることにはなるが)。ここでがんばっておけば今の・・・。


 さて、そんな友達作りを失敗し、桜の花びらとともに大きなチャンスを散らしてしまったうt主にとっての不幸中の幸いは、A氏という“ともだち”ができたことである。春風の吹く4月、おそらくデビュー戦の開幕一周目に車体が大クラッシュを起こしたのだろう、桜並木のかげに一台の壊れたマシンを見たとき、うt主は同じ属性を感じた。その車体には、うt主の調べたワードがいくつも刻まれていた。「大学デビュー やり方」「友達 作り方」「友達 定義」「友達 ともだち 違い」



 結果的に、大学での4年間は、そんな唯一の話せる“ともだち”とともに過ぎ去っていった。A氏とうt主は、おそらく人生において最初で最後の“せいしゅん”を送ったのだった。

 そして、そんな大学生活はあっという間に過ぎ去る。せいしゅんよさらば。うt主は会社に向かうのであった。




 そこから先は、断片的な記憶しか残っていない。


 とある会社が、大学の暗い教室にあるひとつまみのほこりを、踏み潰した。


 そんな断片的な記憶。最後の、記憶。




「くそこんにゃろ。会社なんて辞めたるーーーー!」

 居酒屋、一人、お酒、飲んだ。泣いた、わめいた。

「まぢでクソ。何でウチこんなクソなの?めっちゃ忙しいし、なにより・・・・」

 酔ってた。叫んでた。毒づいてた。

「P課長、Q部長まぢ怖い。あれ、人間か?まぢで。」

 馬鹿だった。うかつだった。遅かった。

「うーーつーーみーーくーーーーーーーーーーーーん」

 課長、部長、隣で、呑んでた。目が、合った。

 うt主、しんだ。社会的に、しんだ。



 というわけで会社を辞めた。しばらくは家の中で過ごした。気楽だった。


 しばらしてたら、一年経ってた。病院に行ったら、鬱主に認定された。うれしくない。

 最近読書をするようになった事以外は、特に生活の変化はなかった。


 というわけで、一ヶ月前の話になる。

 その日はいいネットサーフィン日和だった。普段なら朝からニュースみたり、いつもの新着ニュースをみたり、新たな一押しニュースを見たり・・・・。


 突然だが、鬱主には趣味がなかった。強いていうのなら、哲学。この無趣味属性は以前新歓に行かなかった最たる理由だが、だからこそこの空白の二年間は本来なら真の空白になるはずだった。

「さてと・・・・・」


 某小説サイトにアクセス。一年半前からだろうか、気がつくと毎日の講読が日課になっていた。最初は暇つぶしで一日2~3時間程度読むぐらいだったが、最近は、本を読まないと気が済まない感じになってきている。いわゆる熱中というやつだが、鬱主の父親は熱中している主を見て、初めて物事に興味を開いたのかと安堵し、母親はネットのしすぎだと少し心配をしてくれた。




 最近何かがおかしい。

 何か小説を書かないといけないという使命感が鬱主を襲う。


 最近何かおかしい。

 小説の事しか頭に入ってこない。


 最近何かおかしい。

 日課のニュースチェックもできていない。


 最近何かおかしい。

 夢にまで小説を書く自分がでてくる。




 病気だった。

 ナロウ病。


 知ってる。ごくまれに発症すると近頃ネットで噂になっていたヤマイ。先生曰く、正式名称は、突発性小説投稿症候群。ネット上の某小説投稿サイトの小説を読んでいると発症する病気で、新型ナロウウイルスによって感染するらしい。発症するとなんか「小説を書かなきゃ」という指名感に駆られるらしく(これは初期症状である)、また症状が重篤化すると、小説を書かないと死ぬらしい。対処法は、今の医療にないらしい。


 軽度だといいが・・・・


「内海さんの場合ですと、現状検査でも体に悪いところは特に見つかっていません。しかし、以前発症したうつ病と相まってとても危険な状態です。正直、今すぐの入院が必要です。」

 どうやら、危ないらしい。

 隣に座る両親に目を向けられない。

「じ、、自分、、、、、、直んないんですか?」

「直らないわけではないのですが…」

「…ないと、だめなのですよね」

 父親はなにかを悟ったようだった。

「落ち着いてください、お父さん。確かに突発性小説投稿症候群は難病ですが、直らない病気ではありません。本人の努力次第では最低一週間で直ったりもします。ですが…」

「ど、どういう事ですか?」

「簡潔にまとめますと、突発性小説投稿症候群は現代の医療ではどうしようもないんです。」


「…。」


 自分が死ぬことを悟るわけでもなく、哲学をするでもなく、つかむ藁を探すわけでもない自分に先生がはっきりと答えを告げる。

「内海君。直す方法はたった一つです。」

「は、はい。」

「内海君、売れることです。」

「…?」

「小説を書いて、売れる作家になることです。」


 え?




 ということで、鬱主は今から国の管轄する病院で、懸命な闘病生活を送ることになったのだ。哲学よりも、何を考えるよりも、まずはパソコンを立ち上げる。




 とりあえず、ここまで一本書いてみた。拙い文章。少しだけ自分を呪った。けど、自分が書いた初めての小説だ。


 これを投稿するとともに、人生を賭けた大勝負が始まる。今は書くこと以外考えるなと、先生は言ってくれた。売れたら一番に本を買ってやるって、父親は言ってくれた。母親は、何も言わずに新しい真っ白なパソコンを買ってくれた。A氏からはメールで、止まらない限り、道は続く、といってくれた。周りが周りなりに、うt主を励ましてくれた。


 ここにいる皆に感謝。読んでくれる皆様に感謝。


 さて、頑張ってみますか。


 いざ、小説家になろう。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 斬新過ぎてもはや何を言えばいいのか分からない_(┐「ε:)_ [気になる点] ジャンルがローファンの意味とは、、 いやこの展開そのものがある意味ファンタジーか? [一言] うt主よ、ガンバ…
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