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スマホの中には魔女がいる  作者: 一宮 千秋
第四章 それぞれの魔女
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第53話 妹の誘拐

 僕が自分の部屋でゆっくりしているとスマホから音が聞こえてきた。


「コーリン! 何かメッセージが入って来たみたいよ。私は忙しいから勝手に見ておいて」


 フォルテュナが忙しいだって? 絶対に何か良からぬことをやっている気がするが、スマホを見ても姿が見えないので何をやっているのか分からない。

 まあ良い。それよりもメッセージだ。神前から何か連絡か? そう思ってメッセージを見ると千景からのメッセージだった。

 千景からメッセージが入るなんて珍しいなと思いながらそのメッセージを見た僕は体が固まってしまった。


「ちょっとどういう事よ!」


 作業が終わったのだろうか。フォルテュナが上げた声に僕はやっと我を取り戻した。


『妹は預かった。今日の十九時に繁華街の外れの倉庫にまで魔女を持ってこい』


 それがメッセージの内容だった。

 千景の身に何があったんだ? 文章の内容からするとただの誘拐と言う訳ではなさそうだ。

 身代金を要求している訳ではないし、何より魔女を持ってこいと書いてあるのがその証拠だ。

 クソッ! こんな事になるなら喧嘩をしてでも千景の魔女を削除しておけば良かった。これは完全に僕の判断ミスだ。

 それに相手は千景が僕の妹だってことも、僕が魔女を持っている事を知っているらしい。


「その考えはちょっと早計よ。相手はスマホを持っているんでしょ? メッセージアプリを見れば今の情報ぐらいすぐわかるわよ」


 フォルテュナは意外と冷静だった。確かにこの内容だけでは僕の事を知っているとは限らない。

 すぐに飛び出そうとしていた僕は一旦落ち着くために大きく深呼吸をする。

 だが、ゆっくりしてる時間もない。場所からすればもう行かなかければ時間に間に合わなくなってしまう。

 神前に連絡はどうするかな。相手は千景を誘拐するような奴だ。あんまり来てほしくはないんだけど連絡しておかないと後で何か言われるだろうからなぁ。


「それなら誘拐とかは言わずに倉庫に行くとだけ伝えておけば?」


 どうしたんだフォルテュナ。冴えてるじゃないか。


「私を誰だと思っているの? 魔女業界一可愛い魔女よ」


 はいはい。分かった、分かった。

 僕は神前にメッセージを送っておくと素早く着替えを済ませ、家を出た。

 玄関を出た所で膝に手を付いて息を切らしている女性がいるのに気が付いた。

 そこまでかがむんなら後ろを向いていて欲しかった。


「妹が大変な事になっているかもしれないって言うのに変わらないわね」


 嘆息するフォルテュナだが、こればっかりは僕の性なので仕方がない。


「ここの家の人? 大変なの花音さんが知らない男に連れ去られちゃった」


 この制服は西中の制服か? 千景に西中の友達がいたんだ。初めて知った。

 でも、この女性はどうして千景がさらわれた事を知っているんだ?


「私もその場所に居たの。私を助けるために花音さんが……」


 女性の手には千景の財布が握られている。どうやら財布の中に入っている学生証の住所を頼りに僕の家まで来たようだ。

 いろいろ話を聞きたい所だけど、その時間は今はない。

 だからと言って「もう帰って良いよ」と言うのは、千景と一緒に居た訳だから危険なような気がする。

 仕方がない。誰も居ないけど、僕の家で待っていてもらおう。


「嫌よ。私も一緒に行くわ。花音さんが連れさられたのは私のせいだし、私のスマホも取られちゃったもの」


 むっ。できれば家で大人しくしておいて欲しいのだが、説得している時間も惜しい。

 女性を一緒に連れていく事にして、倉庫に着くまでにどんな状況だったか聞く事にしよう。


 どうやら女性は澤水さんと言うらしく、魔女を持っていたようだ。

 千景から魔女を削除するように説得を受けている時に男に襲われてスマホを奪われてしまったと言う事らしい。

 千景もちゃんと魔女を削除してくれるように動いていたんだと思う反面、やらせるんじゃなかったと後悔してしまう。


「ごめんなさい。私が花音さんの話を聞かなかったから……」


 聞けば澤水さんは昔から千景の事を知っている訳ではなく、たまたま魔法を使っている所を千景に見られ、そこで知り合ったらしい。

 いきなり知り合った人から魔女を削除してくれと言われて分かりましたと言って削除できる人はなかなかいないだろう。

 そう考えると澤水さんが千景の説得を邪険にしていたのも納得がいく。


「あっ! 居た。 ちょっと! 何があったのよ!!」


 僕が澤水さんさんから話を聞いていると横道から声が聞こえてきた。神前だ。

 神前は僕のメッセージを見て僕の家に行く途中で上手い事、僕たちを見つけたようだ。

 澤水さんもそうだが、神前もできれば家で大人しくしておいて貰いたかったのだが、来てしまったものは仕方がない。


「仕方がないって何よ。人が心配してきてあげたのに」


 確かに「仕方がない」は拙いな。千景を心配してきてくれたんだ。


「どうしたの? 珍しく素直じゃない」


 珍しいは余計だ。千景が誘拐されてしまってそれほど僕にも余裕はないのだ。


「その割には澤水さんのパンツが見れなくて悔しがっていたけどね」


 余計な情報を神前に流すんじゃない! ほら、神前の顔がおかしくなっているし、澤水さんもスカートを抑えているじゃないか。


「紅凛の変態性は今始まったばかりじゃないから置いておいて。絶対にちーちゃんを助けましょう。それで? 誘拐犯は誰なの?」


 何か納得がいかないが、このまま口論を続けていても千景が戻ってくるわけではないので話を進める。

 男って事は澤水さんから聞いたけど、詳しい容姿までは聞いていない。そこまで話が進んでいなかったのだ。


「それじゃあちょうど良かった。澤水さんだったわよね? 教えてくれる?」


 澤水さんは男が夏なのにロングコートを着ていた事、魔法を軽々避けていた事など男の手掛かりとなる事を教えてくれた。


「私の予想が正しければハリンじゃないかしら?」


 僕もそんなような気がした。ハリンじゃないとしても教団の関係者の可能性は凄く高いと思える。

 だとすると厄介だな。フタミでさえあれほど強かったんだ。それが今度は千景を人質として取られてしまっている。


「時間がないんでしょ? 行きながら作戦を考えましょ」


 スマホを見ると結構ぎりぎりになってしまう時間だ。立ち止まって作戦会議をしている時間はないな。

 僕たちは倉庫に向かいながら作戦会議をする事にした。


「紅凛が前に出て行くのは確定として、私と澤水さんはどうしましょう」


 相手がハリンだとしても一人だとは限らない。もしかすると教団の人間を動員している可能性もある。

 最悪なのは隙を突かれて千景に危害を加えられたり、千景を連れされれてしまう事だ。一度逃がしてしまえば千景と再び無事で会える保証はない。


「確かにチャンスは今回だけだと思った方が良いわね。この状況をチャンスと言って良い物かは別として」


 だとすると二人にはどこかで隠れて様子を窺っていてもらった方が良い。

 他の教団が動員されているならタイミングを見て参戦してもらうのも良いし、もし逃げるような事があればその後を付けてもらってすぐに場所が分かるようにしてもらいたい。


「私はお兄さんと一緒に居たい。だって花音さんが捕まったのは私のせいだし、私のスマホも取り返したいから」


 うーん。気持ちは分かるんだけどなぁ。でも今回は遠慮してもらおう。千景を人質に取られている状態で他の人を守っていられる余裕はないと思う。

 僕だって自由に動けるか分からないから確実に魔女を使える神前の近くに居てもらった方が安全だろう。


「でも……」


「諦めなさい。紅凛だって余裕がある訳じゃないのよ。それに紅凛ならちゃんとちーちゃんとスマホを取り戻してくれるわよ」


 期待してくれるのは嬉しいし、そうなるように努力はするけど、今回ばかりは何とも言えない。


「分かった。必ず花音さんとスマホを取り戻してね」


 澤水さんは苦い表情で納得してくれた。ちゃんと自制できるって事は結構賢い子なのかもしれない。

 できれば期待に応えてあげたいけどね。


 倉庫が近づいてきた所で僕は神前たちと別れ、一人で倉庫に向かって行く。

 神前には絶対に見つからないようにと言ってあるので、上手いこと見つからないように隠れてくれるだろう。


 時間は十九時少し前。いくら夏とは言え、周囲に街灯があまりないこの辺りでは周囲はかなり見えずらくなっている。

 それでも何とかわかる倉庫の入り口に向かって歩いて行くと、そこに居たのはリリーさんだった。


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