表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スマホの中には魔女がいる  作者: 一宮 千秋
第四章 それぞれの魔女
42/67

第42話 ノーパン店員

 喫茶店を出た僕は家とは違う方向の角を曲がり、電柱にもたれかかるように座り込み、蹲った。

 勢いで魔女を消す事を提案したのだが、本当に良かったのだろうか。


「良いんじゃない? コーリンがそれが一番良いって思った訳だから」


 でも、そのせいでフォルテュナも消さなくてはいけなくなってしまった。


「さっきも言ったと思うけど、魔女はこの世界に固執している訳ではないからね。今が楽しければいいし、削除って言っても死ぬわけじゃあないもの。邪魔だと思われれば大人しく消えるだけよ」


 邪魔だなんて思ってないさ。ただ、時代に合わないだけだ。


「同じ事よ。時代に合ってないから邪魔だから消される。それはとても自然な事だと思うわ。まあ、あとどれぐらいここに居られるか分からないけどいる間は十分に楽しませてもらうわ」


 そう言うとフォルテュナは後ろを向いてアプリで遊び始めてしまった。

 できればフォルテュナを残してあげたい。でも、その願いは僕自身によって叶わないだろう。

 クソッ! 何で僕がこんな苦しい思いをしなくちゃいけないんだ。

 僕は電柱にもたれかかったまま立ち上がり、フラフラと歩きだした。その方向はやはり家の方向とは違っている。どうしても家に帰りたいとは思わなかったのだ。


 そんな気の抜けたような感じで歩いていると、前から見知った顔の人物がスマホを操作しながら歩いてきた。喫茶店のノーパンウエイトレスさんだ。

 こんな所で会うなんて珍しい。確かに帰る時に姿を見なかったから喫茶店のバイトの帰りだろうか。


「あっ。変態君じゃない。どうしたの? こんな所で」


 ちょっと待て。僕はバックヤードとかでそんな呼ばれ方をされているのか? 仮にも喫茶店ではお客さんだぞ。

 少し沈んでいた気分が一気に吹き飛んでしまった。


「名前なんて知らないんだもの。それに聞こえないように話してるんだから平気でしょ? あだ名の付いているお客さんなんて沢山いるし」


 そんなに沢山あだ名の付いている人がいるのか? ってそれとは別だろ。

 なんだか納得がいかないが、僕の方もノーパン店員さんとか呼んでいるしお互い様か。


「なっ! そんな恥ずかしい呼び方は止めてよ。ちゃんと本池(もといけ) 安未(あみ)って名前があるんだから」


 頬を膨らましながら自分の名前を僕に覚えてもらおうと何度もリフレインする。そんな何度も言わなくても覚えたよ。多分。

 しかし、相手に名乗らせるだけで自分は名前を名乗らないと言うのも失礼なので僕も自分の名前を本池さんに教えておく。変態君と言われないためにも。


「へぇー。紅凛君って言うんだ。私の事は安未で良いわよ。そっちの方が呼びやすいでしょ」


 女性を下の名前で呼ぶなんてあんまりないのだが、確かに安未さんの方が呼びやすそうだ。


「それで? 紅凛君はこんな所でどうしたの? 喫茶店の帰りだとしても家ってこっちだったっけ?」


 こっちに家がある訳じゃないけど、何となく歩いていたら安未さんに会ってしまったのだ。


「何だ。てっきり喫茶店から出る時に私に会わなかったから探し回っているのかと思っちゃった」


 ケラケラと笑う安未さんだが、そんな訳あるか。なぜ僕が良く知らない安未さんを探して歩き回らなければいけないんだ。


「良く知らないだなんて嫌だなぁ。私がパンツを履いているかどうかも知っているくせに」


 思わずドキッとしてしまう事を平気で言ってくる。しかし、あれは不可抗力であってそこまで知りたかった訳ではない。


「良く言うわよ。散々私の事をいやらしい目で見つめて来てたのに」


 ちょっと待て! 僕は安未さんの事をいやらしい目で見つめていた事なんて一度もないぞ。


「そうなの? 私は一度警察にストーカーの相談に行かなくちゃって思っていたんだけど」


 危うく僕は警察の厄介になる所だったんだ。それにしてもストーカーは酷いな。パンツ鑑定士としてのプライドが傷つけられた気がする。


「女性のパンツのことを店内で熱く語るなんて似たようなものじゃない」


 全然違う。パンツ鑑定士とストーカーを一緒にしないで欲しい。それにノーパンの安未さんにはパンツの素晴らしさが分からないのだ。


「ノーパンなんて嘘よ。働いてるのに履いてない訳ないじゃない。ただでさえ短いスカートなんだから履いてなかったらお尻とか見えちゃうでしょ」


 何だと!? 純真な高校生の心を弄んでいたのか。これが魔性の女と言う奴か。


「あんなパンツについて熱く語る高校生のどこが純真なのよ。……そうね。お詫びって訳じゃないけど、今度誰も見ていない所でなら見せてあげても良いわよ」


 頬に指を当てて少し考えると安未がそんな事を提案してきた。

 だが、それはお断りしておこう。僕はパンツを見るのが好きなんじゃないんだ。見てしまうのが好きなんだ。


「どんだけ変態なのよ。本当に高校生? 年齢偽ってる訳じゃないわよね?」


 偽ってるなんてあるはずがない。僕は前途洋々たる若者だ。


「何よ。それじゃあ、私がおばさんみたいじゃない。私だってまだ二十歳になったばかりのこれから美味しくなる女子大生よ」


 へぇー。安未さんってやっぱり大学生だったんだ。って事は喫茶店は就職している訳じゃなく、バイトって事なのか。


「あの喫茶店はチェーン店って訳じゃないからね。流石に就職までは考えてないわ」


 店の感じからしても個人経営の喫茶店っぽいからな。それよりも安未さんはどうしてこんな所にいるんだ?


「私? 私は病院帰りよ。お母さんが重い病気にかかちゃってね。そのお見舞い帰りって所」


 おっと。それは聞いてはいけない事を聞いてしまったな。それにしてもお母さんが病気か。大変だなぁ。


「別に良いのよ。大々的に公表しようとは思わないけど、別に隠している訳でもないから。それに治す方法も見つかったみたいだしね」


 治す方法があるのか。それは良かった。って事はあれだけ毎日のように喫茶店で働いているのも入院代とかを出すためって事なのか?


「そんな所ね。私、母子家庭だから家にお金に余裕がある訳じゃないからね。沢山働いてお母さんを治してあげなきゃ」


 そっか。意外と真面目な理由で働いていたんだな。僕はてっきり夏休みにガッツリ稼いで遊びまくるために働いていると思った。


「アハハ! それは良いわね。そんな自由にお金が使えるならパンツでもプレゼントしてあげられたのにね」


 いや結構です。新品のパンツに興味はありません。僕が興味があるのは誰かが履いているパンツだけです。


「うわぁ。本当に紅凛君は変態ね。お姉さん将来が心配だわ」


 本当に心配そうな顔をして僕の方を見てくるが心配してもらわなくても大丈夫。僕はすくすくと真っすぐ育っているから。


「真っすぐ違う方向に育ってるんじゃない? まだ若いんだから今ならいくらでも修正が効くわよ」


 馬鹿な事を。この僕のどこに修正する所があるって言うんだ。それよりも安未さんはこんな所で油を売っていて大丈夫なのか?


「あっ。もうこんな時間。紅凛君の話が面白くて話過ぎちゃった。バイトに遅れちゃうからそろそろ私は行くわね」


 さっきバイトをしていたのにもう次のバイト? 一体何個掛け持ちしているんだ?


「バイトは喫茶店のバイトだけよ。今は病院に行くために休憩って事にして貰っていてもうすぐ休憩時間が終わっちゃうのよ」


 それじゃあ、ほとんど朝から夜までバイトをやっているだ。大変だなぁ。


「目的があると意外と大変って思えないものよ。本当に遅れちゃうからもう行くね」


 そう言って安未さんは僕の横を通り過ぎる時に、「今度サービスしてあげる」と言って通り過ぎた。

 その言葉に変な期待を持ったとか、炎天下の中話していたとかではないのだが、急にクラッと来て僕は倒れそうになってしまった。


「危ない!」


 安未さんが僕の様子に気付いて体を支えてくれたため、僕は倒れる事はなかったのだが、僕は見てしまった。

 支えてくれた時にちょうど目に入った安未さんのスマホの中に魔女がいる所を。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気に入っていただけたなら ブックマーク評価感想 などをいただけると嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ