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スマホの中には魔女がいる  作者: 一宮 千秋
第三章 魔女教団
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第36話 お小遣い

 お母さんは紅凛がいる前ではニコニコと対応してしたけど、家の中に入ると態度が一変した。


「礼ちゃん何やってるの! 何度も朝帰りして! しかも男性の家よ! お母さんそんな事許してませんよ!」


 お母さんが怒るのは尤もだ。私は俯きつつ「ごめんなさい」とお母さんに謝る。

 二日前は友達の家としか言ってないので紅凛の家に泊まったと知らないだろうけど、昨日は紅凛のお母さんが電話しているので男性の家に泊まったのがバレてしまっている。

 これではお母さんが怒るのも無理はない。私に子供がいたとしても同じように怒るでしょう。


「今度こんな事をしたらお小遣いはなしですからね」


 これは厳しい条件を付きつけられてしまった。そんな事をされてしまったらバイトをしなくてはいけなくなってしまう。

 だけど、今、そのことに反抗できる立場に私はない。「はい」とだけ言って私は部屋に戻って行った。


 はぁ。怒られるとは思っていたけど、お小遣いなしまで言われるとは思っていなかった。

 これではもう遅くまで出歩くのは無理になってしまった。


「紅凛、殺す?」


 いやいや、紅凛には助けてもらったんだから。それに紅凛を殺した所でお小遣いの危機がなくなる訳でもない。

 本当はちょっとゆっくりしてから夕方ごろに出かけようと思ったのだけど、それでまた帰りが遅くなってしまったらと思うと、私は予定を早め、すぐに出かける事にする。


「何するの?」


 私はある人を探すために家を出たのだ。そう、世里を探すために。

 旗持さんの事で少し忘れてしまっていたのだけど、元々私たちは世里を探すためにいろいろ動いていたのだ。

 何度かスマホを確認したのだけど、世里からのメッセージの返信は一切なかった。

 紅凛が世里を見て殺人犯と言っていなかったので、殺人犯ではないだろうと思うのだけど、やっぱりメッセージがないのは怪しい気がする。


 ちゃんとした住所までは分からなかったけど、どこの駅から通学しているかは聞いていたので私はその駅まで移動する。

 世里の苗字は柳舘(やなぎだて)という苗字なので家の表札を見ながら世里の家がないか探していく。

 今日は一人なので倒れたら大変と言う事で、ペットボトルの水を持って日傘を差しての探索だ。

 一軒、一軒丁寧に表札を確認していくけど、柳舘という表札を掲げている家はなかなか見つからない。


 駅を使用するだろう範囲を探していくのだけど、一人で探すには広すぎる。

 陽が傾きかけてきたころ、遅くなってはおこ図解がなくなってしまうと思い、今日の探索は終了する事にする。元々、一日で探し当てれるとは思ってなかったので、仕方がないでしょう。

 自分の家の近くの駅まで戻って来て、家に向かって歩いている所で前から麗陽女子学園の制服を着た女性が歩いてきた。世里だ。

 世里も私に気付いたようで、少し驚いたような顔をしていたが、すぐに落ち着いた顔に変わってしまった。


「礼華、久しぶりね」


 今までの私の知っている世里の反応だ。

 ここまで普通の反応をされると、もしかして私の送ったメッセージが届いていなかったんじゃないかと思えてしまう。

 届いていたとしても世里が忙しかったらメッセージの返信ができなかったとも考える事ができるしね。

 私が世里に近づこうとすると、世里に手で制されてしまった。ん? 何だろう。


「話したい事があるの。ちょっと付いて来てくれない?」


 話したい事があるのは私も同じなのでその提案を拒否する事はないのだけど、急にどうしたんだろう。

 私が頷くと世里はどこかに向かって歩き始めた。付いて行くと言った以上私も世里の後に付いて行く。

 世里は後ろに目が付いているかのように私と一定の距離を空けて歩いている。たまに私が歩くスピードを上げてもその距離は変わらなかった。


 世里が立ち止まったのはビルの工事現場だった。

 作業員さんも全員帰ってしまっており、工事現場には剥き出しになった鉄骨がオレンジ色の光を浴びて暗くなってきた周囲をほんのりと照らしている。

 こんな所にきて世里は一体何の話をするつもりなのでしょう。


「礼華、ごめんなさいね。メッセージの返信していなくって。忙しくて返信できなかったのよ」


 世里は私の方に振り向くといきなり謝罪をしてきた。私の思った通り世里は忙しくてメッセージが返せなかったらしい。

 何の用事があったのか知らないのだけど忙しかったのなら仕方がないと思う。


「それでね。礼華にはお願いがあるの。聞いてくれる?」


 ん? いきなりお願い? 前はもうちょっと大人しい感じだったんだけど、少し変わったのかな?

 それにしてもお願いって何だろう。こんな場所に連れてきたのもそれと関係しているんでしょうか。


「そうなの。良く分かったわね礼華」


 そんな感じがしただけなんだけどね。でも、こんな所でされるお願いって一体何なんでしょう。


「礼華には親友として死んでほしいの。体からぴゅぴゅって血を吹きながら」


 へっ? 止めてよ。こんな場所で冗談なんて。雰囲気からしても殺人犯が出て来ても不思議じゃないんだから。


「へぇー。礼華って殺人犯の事知っているんだ。その殺人犯ってどんな人かとかも知っているの?」


 うーん。私は紅凛から話を聞いただけだから、そんなに詳しくは知らない。言ってしまえばニュースでやっていたぐらいの情報より少し知っていると言った感じだ。


「そうなんだ。じゃあ、私が知っている事を教えてあげる。殺人犯ってね、女子高生なんだよ。しかも麗陽女子学園の」


 それは紅凛が言っていたから知っているけど、なんで世里がその事を知っているんでしょう。


「しかもね。その女子高生って大人しい性格の子で、一年生何だって」


 それは聞いた事がない。しかも性格まで知っているっておかしくない?

 世里に疑いの視線を向けるけど、世里は俯いてしまっていて表情が見れない。


「その子はね。血を見るのが凄く好きなの。大人しい性格の鬱憤を血を見る事で晴らしているの。だから。ね? 礼華は私のために死んでちょうだい」


 顔を上げた世里は私が知っている世里とは全く違う顔をしていた。

 目は吊り上がり、口は耳に届くかもと言うほど裂けている。その顔はとても世里の物とは思えない。

 紅凛が世里を見て殺人犯と思わなかったのもよく分かる。多少面影はあるけど、全く違う顔ですもの。


「アハハ! この状況になっても悲鳴を上げないのは怖いからかしら? それともただ鈍いだけなのかしら?」


 もう隠す必要がないのか世里だった女子高生は醜悪な笑みを浮かべてくる。確か紅凛が魔女の名前はレメイとか言っていたかな。


「良く私の名前を知っているじゃない。そう言えばあの花音とか言う男と一緒にいたわね」


 ようやく思い出したように紅凛の名前を出してきた。私の事はレメイからすればおまけ程度しか思ってなかったって事ね。


「そんな事ないわよ。私はあなたを初めて見た時から殺したくて殺したくてたまらなかったんですもの」


 嫌な告白だ。こんな告白をされるぐらいなら紅凛からちゃんとした返事がもらえた方がよっぽどいい。それがどういう結果であれ。


「それにしても呼び出された時は上手く誤魔化せるか大変だったのよ。でも、一緒に居た男が馬鹿で良かったわ。おかげで私の事はまだ広まってないし」


 確かに紅凛は馬鹿だけど、これは仕方ないかな。私も今の世里を見て同一人物と思えないもの。


「さて、こういう殺す前の雑談も乙な物だけど、そろそろ我慢できなくなってきたから死んでもらいましょうかね。死に方のリクエストがあれば聞くわよ」


 多分、レメイは私がエヴァレットを持っているって事を知らない。だからこんなにも余裕を持って話しかけて来てるんでしょう。

 だったらチャンスは最初の一撃。油断をしている所で一気に勝負を決めてしまった方が良い。

 私はポケットの中に入っているスマホを握り締める。エヴァレットならこれだけで私が何をしようとしているのか分かってくれるでしょう。


「何だい? 急に黙りこくって。そんなにどんな死に方が良いか悩んでいるのか?」


 そんな事で悩んだりはしていない。レメイが一歩前に出た所で先制攻撃をするんだ。


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