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スマホの中には魔女がいる  作者: 一宮 千秋
第三章 魔女教団
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第33話 執行者

 神前を家に送っていき、無事に神前の母親に紙袋を渡す事ができた。

 凄く丁寧な口調でとても神前の親とは思えないほどおっとりとした感じの母親だった。


「紅凛も寄り道せずに早く帰って腕を治すのよ。また連絡するわ」


 僕は手を振って元来た道を戻っていく。少なくとも今日一日は休みだろうな。僕も腕を治さなきゃいけないし。


「ちょっと腕を見せなさい」


 フォルテュナが声を掛けてきた。そうか。充電もしたし治癒魔法が使えるようになったのか。

 ん? それなら朝起きてすぐに治してくれても良かったんじゃないか?


「忘れてたのよ。私も可愛い所があるわね」


 治してくれる前では何も言えない。僕は喉まで出そうになった言葉をグッと飲み込み我慢する。



陽だまりの燐光(クラルト)!!』



 フォルテュナが魔法を唱えると腕の傷がみるみる無くなっていく。青黒かった腕は元の色に戻り腫れてパンパンだった腕が元の大きさに戻って行ったのだ。

 神前を治したのは知っていたのだが、実際に自分の傷がなくなっていくのを見ると改めて凄いなって思ってしまう。

 手を握り込んだり、腕を振ってみたが、痛みが襲ってくる事はない。

 今日は魔女探しを止めて家で休んでいようと思ったが、これなら十分に動ける。

 流石に神前を誘ってまた何かあったら神前のお母さんに申し訳ないから誘うのは無理だけど、僕一人でも魔女探しをしようかな。


「珍しい魔術を使うわね。そんな魔術は見た事ないわ」


 後ろから急に声が聞こえた。しまった。魔法を使っている所を見られた。

 何とか誤魔化そうと後ろを向くとそこには外国人風の女性が立っていた。腰まである長い髪が太陽に照らされ、キラキラと輝いている。

 修道服を着た女性はどう見ても宗教関係者で、僕の中に警戒心が生まれる。


「ん? どうしたの? あぁ、自己紹介もせずいきなり話しかけたから驚いちゃったかな。私は『リリー=アスタリータ』。リリーで良いわ」


 リリーさんは僕に笑顔を向けて手を差し出してくる。

 今の所、リリーさんは何かをしてくるような感じではない。まあ、宗教と言ってもいろいろな種類があるからあの男たちとは違う宗派かもしれないしな。

 リリーさんの差し出された手を握り返し自己紹介をするとリリーさんは僕にスマホを見せてきた。


「紅凛君って言うのね。それよりも私は今、人を探しているんだけどこの人知らないかしら?」


 スマホの中には見た事もない外国人さんが映し出されていた。生憎、僕は外国人さんに知り合いは居ないので、この写真の人も当然見覚えがない。


「そっか。知らないか。ハリン教の教祖なんだけどね」


 僕は一歩後退った。ハリン教って言えば神前を最初に襲ったのもそうだし、この前の公園の男もハリン教の信者だったはずだ。


「あら? 何か知ってそうね。良かったら教えてくれないかしら?」


 どうする? これでリリーさんがハリン教の関係者だったら僕の知っている事を教えるのは拙いような気がする。


「あの宗教は思想的に危ないのよ。協力してくれないかな?」


 必死にな手僕に迫ってくるリリーさんだが、言葉の内容からはハリン教の関係者と言うよりハリン教を探している人って感じがする。

 それなら僕の知っている情報を教えても良いかな。そこまで大した情報でもないし。


「良かった。ありがとう。こんな所じゃ話しにくいからどこかお店で話しましょう。良いお店知ってる?」


 良いお店は知らないが、良く行くお店なら知っている。そう。ノーパンウエイトレスさんがいる喫茶店だ。

 僕はリリーさんを連れていつもの喫茶店に入るとノーパンウエイトレスさんが迎えてくれた。


「いらっしゃいませー。今日は違った女性で二名ですね?」


 笑顔で接客をしていているが、そんな事言って良いのか? 僕じゃなかったら怒ってお店を出て行ってもおかしくないぞ。

 席に着き、メニューを見ているとリリーさんはホッとしたような表情を浮かべている。

 それはそうだろう。この炎天下の中、真っ黒な修道服を着ているんだ。服の中がどれぐらい暑いか想像もつかない。


「私は神に使える身です。神からの試練と思えば、これぐらい何ともないです」


 とてもそう思えない。リリーさんの額からは今も汗が噴き出しており、噴き出した汗が滝のように流れている。

 注文をし終えるとリリーさんは早速僕に質問をしてきた。


「それよりもハリン教の事です。知っている事を教えてもらえませんか?」


 僕は自分の知っている事を全部リリーさんに話した。最近この街で教団の人間が活動している事。神前が襲われた事。そして、魔術を使う事。

 知っている事は話したのだが、魔女の事だけは話す事はしなかった。


「やはりこの街で何か活動しているのですか。私は所属している所からの命令で執行者としてハリン教の教祖を捕まえに来たのです」


 捕まえに? ハリン教は何かしたんだろうか。でも、それなら警察の方が良いような……。


「国外逃亡してしまいましたからね。警察は無理でしょう。それに警察に渡すより、私たちの組織内で処理を行いたいので」


 あっ、これは絶対に捕まったらひどい目に遭う奴だ。僕としてはこの街から居なくなってくれた方が良いからハリン教の人が捕まった後にどうなろうと関係ないんだけど。


「そうだ! さっきの魔術。あれはどうやったの?」


 もう忘れているかと思ったけど、リリーさんはさっき治癒魔法を使った事をしっかりと覚えていたようだ。

 どうするかな。あんまり魔法の事を大っぴらにはしたくないんだけど。


「私も治癒魔術は多少扱えるけど、あれほど早く治る魔術は見た事ないのよ」


 リリーさんの目がキラキラしている。これはちゃんと言わない限り離してもらえなさそうだ。

 僕は覚悟を決めてさっきのは魔術じゃなく魔法だと言う事を伝える。

 一瞬、リリーさんの顔色が変わったような気がしたけど、僕の気のせいだろうか。


「魔法? そんなもの使えるの? 紅凛君は一体何者なの?」


 何者でもないです。どこにでもいる普通の高校生だから。


「普通の高校生は魔法なんて使えないでしょ。でも凄いわね。魔法が使えるなんて。もう一度見せてくれない?」


 うーん。それはちょっと嫌だなぁ。あんまり人に見せびらかしたい物でもないし。

 それに実際は僕が魔法を使っている訳じゃないんだよな。魔法を使うって事はフォルテュナの存在を教えてしまうて事になるしな。


「そんな事言わないでよ。一度で良いから。ね? お願い」


 両手を合わせて上目遣いで僕の方を見てくるリリーさんは可愛いけど、そればっかりはやっぱりできないなぁ。


「どうしても?」


「その子ならパンツ見せてあげれば何でもしてくれるわよ」


 なっ! ノーパンウエイトレスさん話を聞いていたのか突然余計な事言ってきた。こんな所で油を売ってないで仕事をしてくれ。


「失礼ね。飲み終わった飲み物を片付ける仕事をちゃんとしているでしょ」


 ノーパンウエイトレスさんは半分残っていた僕のアイスコーヒーを下げてしまった。代金半分しか払わないぞ。

 仕方がないので、水に口を付けるとリリーさんは凄く悩んでいた。


「わ、分かった。分かったわ。その条件飲みましょう」


 葛藤の末、リリーさんは欲望に負けてしまったようだ。僕にパンツを見せると言う羞恥と引き換えに。

 僕だって魔法なんて見せたくないよ。見せたくないけど、ここまでリリーさんに言われれば見せない方が失礼と言う物だ。これは決してパンツが見たいからではない。


「ここで魔法を使うのは目立つからどこか人気のない所に行きましょうか」


 確かに。喫茶店で魔法なんて使ったら騒ぎになるのは間違いない。

 しっかりとアイスコーヒー代を徴収されて僕はリリーさんを近場の公園に連れて行った。

 教団の男と戦った公園だが、教団の男はおらず、良い感じに他の人も居なかった。

 つんざくようなセミの鳴き声が響く中、僕はリリーさんから距離を取ると僕は気付かれないようにフォルテュナに話しかけた。


「パンツを見るために魔法を使うなんてサイテー」


 勘違いをしないで欲しい。これは魔法をリリーさんに見せる事によって、リリーさんが魔法を見た時に僕に連絡してくれるかもしれないと言う作戦のためなのだ。


「じゃあ、魔法を使ってもパンツを見せてもらわないのね?」


 それとこれとは話が別だ。報酬をくれると言うのに貰わないなんて相手に失礼だ。


「結局パンツが見たいだけじゃない」


 あぁ、そうだよ。修道服から覗くパンツが見たいんだよ。こんな機会、もうないかもしれないからな。


「はぁ。ここまで来ると病気ね。それで? どんな魔法を使うの?」


 呆れた感じのフォルテュナだが、やっと納得してくれた。手間かけさせやがって。


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