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スマホの中には魔女がいる  作者: 一宮 千秋
第一章 出会い編
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第11話 神前の想い

 家に帰って来た私はお風呂に入っている。蒸し暑い校舎の中で沢山汗をかいてしまったから早く汗を流したかったからだ。

 いつもは一人で入っているお風呂もエヴァレットと会話をしながら入った方が楽しいだろうと思って今日はスマホを持ってきたのだ。

 私は良くお風呂でスマホを弄る事があるので、防水ケースにスマホを入れての入浴だ。


 私はここ最近起きた事について思い返す。

 だが、そこで出てできたのは友達に教えてもらった魔女育成アプリを入れてからの事だった。アプリを入れただけでこんな事になるとは思わなかった。

 初めてエヴァレットを見た時はとても驚いたのを覚えている。アプリを入れたら起動もせず急に画面に出て来たのだから。


『私もびっくりしました。意識を取り戻したと思ったらスマホの中に居たのですから』


 エヴァレットとはメッセージアプリにメッセージを打ち込んで会話をしている。普通に音声で会話をしようとするとエヴァレットは緊張してしまって全く続かないのだ。

 最初はどうやってコミュニケーションをとって良いのか分からず困ったのを思い出し、少し面白くなってくる。


『私は口下手なので人との付き合いは苦手なのですが、メッセージだと不思議と自分の思ってる事が出せるんです』


 そう言う人はいるけどね。でも、エヴァレットが魔女になる前はどうだったんだろう。と言うか魔女になる前は人間だった……の?


『私は魔女になる前はちゃんとした人間でしたよ。生まれた時から魔女と言うのは『原初の魔女』だけではないでしょうか』


 最初っから魔女って人(?)も居るんだ。でも、どうやったら魔女になってしまうのでしょうか。


『禁忌を犯した者。大罪を犯した者。自ら魔女になるのを望んだ者といろいろですね』


 そうなんだ。結構いろいろな事で魔女になってしまうんだ。それじゃあ、エヴァレットは一体何をして魔女になったんでしょう。


『私は全部です。禁忌を犯し、大罪を犯し、そして自分から魔女になるのを望みました』


 ちょっと衝撃的だった。大人しい感じなので何か間違いを犯して魔女になったとかなら分かる気もするけど、全部だとは……自ら望んでだとは思わなかった。

 これはどうしてそうなったのか聞いても良いのかな? でも、流石にずけずけと人の心に踏み入る勇気は私にはない。


『それにしても礼華は紅凛に告白してしまって良かったのですか?』


 エヴァレットの方から話題を変えてきた。やっぱりその時の事を話すのは嫌なのかもしれない。

 そうそう。私は紅凛に告白をしたのだった。返事も貰えなかったので自分でも忘れていた。

 紅凛の事は確かに良いなと思い始めてはいたのだけど、あのタイミングで告白をするなんて自分でも思ってなかった。勢いとは怖い物だ。


『良いんじゃないかしら? 遅かれ早かれ告白するつもりだったんでしょ? それならいろいろ考えてしまう前に告白しちゃった事は良かったと思うわ』


 そう言ってもらえると気持ちが楽になる。それにしても紅凛は返事をくれる気はあるんでしょうか。もしかしてこのまま返事もなしってないでしょうね。


『どうなんでしょうね。紅凛をトラブルに引き込むために言ったって感じだから告白されたと思ってないんじゃないかしら? それに女性の事となると途端に鈍くなる所がある男性だしね』


 それはスクール水着を贈られたた事を言ってるんでしょうか。あれは私も「ないわ」って思うけど、そう言う男に告白してしまったんだなって思うと後悔してしまいそうになる。

 紅凛からの返事がもらえないなら落ち着いたら一度聞いてみるとして、串間は一体何がしたかったんでしょう。あんな絡まれ方すれば女性が気持ち悪がるって分からないのかしら。


『その人だけしか目に入らなくなってしまうと他の人からは考えられない行動をとってしまう事があるんです』


 なんだか経験者は語るって感じだなぁ。エヴァレットも串間と同じような感じになった事があったのかな。


『ありましたよ。でも、私はこういう性格だから相手に積極的に行くって事はありませんでしたけど……』


 エヴァレットにも好きな人はいたんだ。どういった人だったか気になるなぁ。


『ただの幼馴染ですよ。小さいころから大きくなったら結婚するって約束してたんですけど、私が奥手だったせいで他の女性に結婚してしまって……』


 それはショックだなぁ。私だったら諦められないかもしれない。


『私も諦められませんでした。だから毎日祈りました。相手の女性が死んでしまうように……と』


 えっ!? それはちょっと違うって言うか……心情的には凄く分かるんだけど、そこまで行ってしまうとちょっと怖くなってくる。


『だけど祈るだけではだめだと思い、いろいろな本を読みました。呪いに関する物は勿論、黒魔術や妖術なども読んで私にできそうな事はすべて試しました』


 凄い執念。仮に私が紅凛に振り向いてもらえなかったとしてもそこまではしないと思う。


『祈りが通じたのか呪術が上手く行ったのか分からないのですが、その女性は結婚をしてから暫くして死んでしまいました』


『私はその知らせを聞いて喜びました。幼馴染が戻ってきてくれると。やっと私の所に来てくれるんだと。でも、幼馴染は戻って来てくれませんでした』


『幼馴染は女性の後を追ってしまったのです。私にはもう立ち上がる力もありませんでした。寝込んでしまった私は生きる気力もなくなり、本で読んだ魔女になる方法を試したんです』


 それがエヴァレットが魔女になった経緯。好きな人に告白できなかった事でエヴァレットはスマホの中に住む事になってしまった。


『次に目を開けた時、私は魔女になっていたのを自覚しました。やっと解放されたと思ったのですが、記憶は残ったままだったのです』


 それじゃあ解放された事にならない。魔女になり損って事?


『そうなりますね。魔女になってからも私は苦しみ続けました。どうして魔女になってまで苦しまなくちゃいけないんだとやりきれない気持ちになりました』


『今は魔女になってよかったと思っています。だって、礼華に会えたのですから。』


 嬉しい事を言ってくれる。私もエヴァレットに出会えたのは私の人生においても大切な事だと思っている。


『だから私は人に害をなす魔法に関しては誰にも負けないと思っています』


 それは心強いんだけど、ちょっと怖い。私も一度魔法を使ってみたいんだけど相手の迷惑になるような魔法を今は使う気にはなれない。


『そう言う魔術しか使えないと言う訳ではないので一度使ってみますか? いざという時に困らないように』


 うん。他人に迷惑をかける魔法じゃなければ一度使ってみたい。紅凛がやっていたみたいな氷とか出る魔法が良いかな。

 流石にお風呂に入ったまま魔法を使うと言う訳にはいかないので、私はお風呂を上がり、自分の部屋に戻った。部屋の窓を開けて魔法を使ってみる事にする。


『準備は良いですか? 魔法を出したい所に狙いを定めて手をかざしてください』


 隣の家に当たらないように空に向けて手をかざす。準備ができたと伝えるとエヴァレットの声が部屋に響いた。



湖の珠玉(ヴィテオ)!!』



 私の体に何か流れてくる感じがする。嫌な感じじゃない。それどころか少し気持ち良い感じすらある。

 流れてきた物が掌に集中し、一気に放出される。掌から出た氷の塊は拳ぐらいの大きさで一直線に夜空に向かって飛んでいき、消えてしまった。


 「やったー! できたー!」


 凄い。本当に魔法が使えた。初めて魔法が使えた事で私は年甲斐もなくはしゃいでしまった。


「可愛い」


 エヴァレットの一言で我に返った私は服を正して気持ちを落ち着ける。

 魔法を使うとあんなにテンションが上がってしまうんだ。自分でもちょっとびっくり。

 でも、今私の手から出た氷の塊は紅凛が出した物よりは小さかったな。


「お試し」


 そうか今のは私がちゃんと魔法を使えるかどうか試しただけだから威力は抑えていたんだ。


『威力を高める事はできるけど、苦手な魔法だと同じ充電量を使ったとしても得意な人よりは威力が弱くなるわ』


 メッセージを見ると充電量が十パーセントほど減っていた。なるほど。魔法を使うと十パーセント以上充電を使ってしまうのか。これはモバイルバッテリーを常に持っておいた方が良いかもしれない。

 紅凛が使っている所は見ていたけど、自分が使ってみて本当に魔法があるんだと実感できた。


『でも、あまり魔法を過信しない方が良い。当然、魔法を弾いたり防いだりする魔法もまた存在するから』


 そうでしょうね。攻撃オンリーの魔法なんて聞いた事がない。攻撃の魔法が充実していけばそれと同じように防御の魔法が充実していくのが当たり前だ。

 時計を見ると結構いい時間になってしまっていた。お風呂に入る前は宿題をしてから寝ようと思っていたのだけど、宿題をする感じでもなくなってしまったので大人しく寝る事にする事にした。


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