オリエンテーション②-5 ミコットちゃんと異世界のバイオリニストたち
『はじめまして、皆さん。ミコットちゃんの声優を担当させていただいております、みさかみあかね、と、申します。本日はアニメ関係者を代表して、ミコットちゃんに素敵なダンスを踊らせたくれた、Uさんこと、一途なおばあちゃんに感謝を申し上げにまいりました。』
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そこからは、今もしたたかな京都のアニメーション・スタジオさんの本領を発揮して、テレビカメラが回る前でのミコットちゃんアニメ第二期のPRも行われつつ、みさかみちゃんがホログラフィ姿のミコットちゃんと抱き合ってUさんへの感謝を伝えるシーンなどが撮影された。
本日のオリエンテーションが半日に及ぶこと、テレビカメラが入ることを聞いていた学生さんたちも展開にあっけに取られているようだった。理工学部の男子学生の一部はみさかみちゃん御本尊の登場に大興奮のようだったが。
みさかみちゃんと、京都のアニメーション・スタジオのスタッフをお見送りした後、午前の部を締めるのが、本日のミカの最後の役割である。
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「さて、オリエンテーションの方も大分長くなってきました。聞いてきてくれている学生さんたちもいろいろな話がありすぎて、ちょっとお疲れかもしれませんね。
ここで、午前の部の最後の話といたします。さて、リアリテス治験に参加していただいているUさんは、本年時点では私たちの精神科の患者さんではありません。彼女は3年ほど前に脳梗塞を患ってしまいまして、半身不随に近い状態でして、今は当院のリハビリテーション科に通院されています。すなわち、彼女はリハビリテーション科に通いながらリアリテスによる脳機能活性化を行い、仮想空間内でのバーチャルなモーションによってのダンスを行えるようになったのです。その腕前は、今お見せした通りです。
今年で、昨年で齢70歳になられたUさんにとって、仮想空間でのダンスを踊るなどといった新しいことをマスターすることは容易ではありませんでした。
でも、彼女はそれを成し遂げました。それは彼女の前に、王子様が現れたからです。」
そういって、ミカは視線を大講義室の扉の方に送ると、そこから、バイオリンを抱えた若い男女が、それぞれ執事とメイド服の姿で入ってきた。凛々しい顔つきの男性は水色のカツラ、を細身でたおやかな女性はピンク色のカツラをつけている。
「あら、王子様だけと思っていたら、男子学生に配慮してかお姫様まで入ってきてしまいましたね。カツラの方は、おふたが生まれた頃の異世界もののコスプレだそうです。執事服はUさんの仮想空間ダンスリハビリの際にも使用されたのだとか。さて、2人はせっかくバイオリンを持ってきてくださったので、披露していただきましょうか。」
とミカは少しわざとらしくおどけてみせた。
水色のカツラの男性は左手に弦を手に、ピンク色のカツラの女性は右手に弦を手に、それぞれがバイオリンを構えた。そして、Uさんのホログラフィがダンスのポーズを取った。
バイオリンの演奏が始まる中で再度踊りだしたUさんのホログラフィを前に、ミカが解説を始める。
「さて、種明かしをしちゃいましょう。私の身はにはけっこう上手な音色に聞こえますが、おふた方はプロのバイオリニストというわけではありません。水色のカツラの男性は、当院のリハビリテーション科で作業療法士をしている仁宮院マサト先生、ピンク色のカツラの女性は、リアリテスの物理工学面を担当している牧野葵先生となります。ここでは、Uさんと関係が深い仁宮院先生の方を軽く紹介しておきましょう。」