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オリエンテーション②-4 水龍の半世紀

 ミコットちゃんアニメ、又は、その原作をご覧になった方々はご存知のことですが、このアニメーションには、主人公たちの前世にあたる世界観があります。京都のアニメーション・スタジオからのアニメ化にあたり、前世にあたるストーリーの原作者の先生からも公式スピンオフの許諾をいただいたことも有名なところかと思います。

 前世では、右手に何体もの龍を宿したツンツン頭の主人公がいましたが、ミコットちゃんアニメの方には彼は夭折ようせつして、もうその世界におりません。それどころか、ミコットちゃんも、前世ではミコットちゃんの恋のライバルであったお目々がスターマークの子も、彼女たちの知人も皆、彼の記憶は持っていません。ただ、ミコットちゃんと、かつてのその恋のライバルは、神代の記憶を色濃く残した異世界の京都に、水龍の巫女として転生したのです。

 その水龍は、おそらくは彼女たちの想い人が何らかの形で顕現したものです。アニメ第一期の段階では、彼女たちの想い人は現れることはありませんでした。現在製作が進んでいる第二期ではどうなるのか。

 ええと、私は今度の第二期ではオープニング曲の方の振り付けの一部を支援している関係上、アニメオリジナルとなるストーリー展開を少し知ってしまっているのですが、ここでは、そのことを語ることは禁則事項です、とだけ言っておきますね。


 ☆

 

 ミカは、京都のアニメーション・スタジオが送り出したその名セリフのポーズを壇上で再現してみせた。

 

 ☆

 

 少し話がそれちゃいましたね。ここでお話したいことは、第一期の『Burning Love』というテーマ曲名は、水龍というモチーフと関わりがあるということです。このアニメの世界観では、水龍は時間軸を超えた万能の力を有している可能性があります。異世界人かそれを超えた存在が振るう、万能の力。それは、京都のアニメーション・スタジオが生み出したキャラクターの中で最も有名なキャラクターが有している力に近しい万能さです。

 

 そうした万能の力がある異世界に転生すれば、確かにかつての失われた日常生活を取り戻すことは可能かもしれません。もちろん、アニメーションを生み出した京都のスタジオの人々のかつての生活そのものも。

 しかし、この世界には、そうした万能者はいません。正確を期した言い方をあえて言えば、私たちはまだ時空を改変できるような万能者を観測できていない。ということになりますが。

 ミコットちゃんアニメの監督さんのイメージする『Burning』とは、かつての世界を恋い焦がれつつも叶わない悲愛(burning Love)、あるいは、悲哀(sorrow)となります。もちろん、異世界の水龍様には、煙に巻かれる中苦しんで亡くなられた皆様があの世でも苦しまないよう、皆さんでお祈りもしているとのことですが。

 

 私が精神分析に携わる神職であることを聞きつけたらしい監督さんから相談を受けた時、私は、曲の振り付け担当者として、数多くの悲愛と悲哀を経験したかつての名ダンサーを推薦させていただきました。今からほぼ半世紀前の1980年代半ばに、Burning Loveを扱った元祖のヒットソングで魅惑的ファンタスティックな踊りを披露してくださったダンサーさんです。

 アニメを楽しんでくださった人の中には、神代じんだいの地で巫女姿のミコットちゃんたちが踊るBurning Loveの原曲がその曲であることをご存知である人もいることでしょう。今風のアレンジが加わったことで、何といいますかだいぶ萌えを感じさせるものに変化してはいますが。

 

 ☆

 

 「さて、こちらも本日までは、禁則事項とさせていただいていたのですが。」

 と、ミカは、もう一度例のポーズを取る素振りをして、笑う。

 

 「今回のミコットちゃんアニメのエンディングテーマ曲Burning Loveの振り付けをメインで担当してくださったのは、私が診させていただいている患者さんです。私よりも随分と年上の彼女、、そうですね、仮の名前をUさんと呼んでおくことにしましょうか。今年でめでたく70歳を迎えられましたUさんは、リアリテス治験への最高齢参加者でもあります。ここでUさんからも一言を頂きたかったのですが、それよりもダンサーとして踊りでご挨拶したいとのことでしたので、ここでは彼女にダンスを披露していただきましょう。」


 現れたホログラフィは、ミコットちゃんのものだった。

 「京都のアニメーション・スタジオさんから特別に許諾をいただきまして。ミコットちゃんのスキンを使わせていただいたホログラフィでUさんにダンスを披露していただきます。曲は、同じくBurning Love。ビジュアルイフェクトは変わらずTさん、です。」

 

 ☆

 

 オープニング曲も含めての∪さんのダンスが続く間、ミカは、半世紀前のBurning Loveをボーカルの背後で踊った4人のダンサーの1人であったUさんの半世紀を簡単に話した。

 

 その曲のメインボーカルの影武者のような踊りをする4名の中で、もっともキレた踊りができていたUさん(ご本人談)。毎週のようにテレビスタジオでそのダンスは収録され、地上波テレビから時代に恍惚エクスタシーを送り、男たちの欲望デザイアを集めることとなった。バブル景気に湧き始めていた当時の日本で、バックダンサーのUさんへの声掛けも多かった。仕事の依頼も多ければ、恋のお誘いも多かった。

 1990年代に入り世の景気が下り坂になる中、Uさんは最初の旦那さんと結婚した。しかし、二人は子宝に恵まれることなく破局。そこから先、30歳を過ぎたUさんには苦難の日々が続く。元々がアーティスト気質であったUさん。ご自身の怪我もあり体型が丸くなってしまったこともあり、かつてのようにキレのあるダンスを披露できなくなり、そこからは、多忙なダンサー時代にも行っていた過食とリストカットの癖が悪化。40歳になって、行きずりの男と入ったホテルの浴室リストカットをし、逃げ去った男に変わって、ホテル従業員が救急車を呼び救急搬送。失血が多く入院する中に、はじめて、精神科医より境界性人格障害の診断を受け、治療対象に。病院での規則正しい生活の中で体重が落ち、かつての美貌を取り戻した∪さんは、出会った50代の独身看護師と結婚。退院後はダンススクールの先生をしながら、15年近く、はじめて安定した送ることができていた。

 Uさんが60歳となった時に、それまでマメに彼女の生活を支えてくれていた、10歳ほど年上の旦那の看護師さんが、肝臓がんで他界。その後、先生をしていたダンススクールでの奇行が目立つように鳴り、同僚に連れられ二女医病院に通院。精神科医サイトウのチームでUさんを診てケアを行うようになり、境界例ボーダーの患者さんの心理療法を専門とするミカが事実上の主担当となった。

 

 ☆


 そうしたことをミカがプレゼンテーションの画面も交え簡潔に語ったところで、曲が終わり、Uさんのホログラフィも静止した。

 

 「見事なダンスでしたね。日本舞踊の方では流派の師範を名乗らせていただいている私から見てと、動作を止めた時のUさんの所作しょさは達人の域にあるのではないかと思います。

 今回、ダンス指導として加わっていただいた彼女のこと、京都のアニメーション・スタジオの皆さんは感謝してくれています。

 『禁則事項です。』、でも有名な彼らの名作アニメのエンディングテーマ曲では、今回のBurning Love以上に有名となった登場キャラクターたちの踊りがあります。その踊りの振りを一緒に考えたスタッフの中にも、スタジオを襲った凶行で亡くなられてしまった方がいらっしゃいます。事件の後、その踊りは、なんというか呪いがかかっでいるといわないまでも、精神医学的な言葉でいう悍禁忌アブジェクションといった状態になってしまっておりました。

 今回、Uさんの振り付けは、その有名な踊りのテイストも取り入れ、その悍禁忌アブジェクションはらうが如きものでしたので。

 ここで、京都のアニメーション・スタジオを代表して、彼女にご挨拶をしていただきます。」

 

 扉が開き、ミコットちゃんの声優さんが大講義室に入ってきた。

 

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