悪王とピュア王女
王様は、画策していた。
この国の悪者を一人作る計画を。
集団というものは、悪者、敵を作ることで、
他の人間が一致団結できる特性を持つ。
現在王様の国では、食糧難、流行る病、干ばつと、
大変厳しい状況であった。
この厳しい時代だからこそ、国民は一致団結し、困難を乗り越えねばならない。
王様は、国民の団結力を築くため、婚約者を犠牲にすることに決めた。
全ての自然災害、病、食糧難の理由を彼女に押し付け、
処刑することにした。
これは、最小限の犠牲で国民の不安、怒りを解消し、
皆で手を取り合い前に進むことが出来る計画。
婚約者は、何も考えてない、お花畑のような頭を持っているので、
簡単に騙し罪を着せることが出来るだろう。
「この書類に、血判とサインをお願いできるか」
婚約者に、王族文字で書かれている書類を渡した。
もちろん彼女は読めない。
「全然読めないわ、何て書いてあるのですか?」
彼女は、コテンと頭を傾けた。
「別に知らなくても大丈夫だよ、
だけど必要なことなんだ」
俺は微笑をうかべ、彼女を安心させるよう話した。
「わかったわ、押せばいいのね!!」
彼女は、親指を軽く切り血判と、サインを書いた。
「はい、どうぞ」
彼女は、明るく笑っていた。
彼女はいつも笑っている、俺が悩んでるときも、楽しいときもいつも笑っている。
彼女と俺は、政略的な結婚だったはずだ。
そんなに楽しく過ごせていたとも思えない。
考えれば王女なのに、贅沢なこともさせてあげられ無かったし、彼女も求めて来なかった。
何故いつも笑っているのか?
最後に聞きたくなり言葉を紡ぐ。
「何故、君はいつも笑っているんだい?」
彼女は、少し考えてこう答えた。
「えっと、王様はいつも難しい顔をされていますでしょ。
だから私は、笑っていようと思って。
王様に、少しでも楽しい気分になってもらいたくて、ですかね。
ちょっと、恥ずかしいです」
彼女は、両手で顔を隠した。
俺はそんな彼女を見て要らぬことまで、口走ってしまう。
「何故、読めない文字の書類に簡単に血判を押したんだ?
普通内容が、わからないならば、血判は押さないだろう」
彼女は、腕をくみ、うーんと頭を悩ませ語りだした。
「私は、貴方をずっと見ていました。
貴方は国民の為に尽力し、頭をいつも悩ましていますね。
最近は特に思い詰められてたと思います。
そんな貴方が考えてやることが、間違っているはずありませんから。
だから私は、貴方が血判を押せと言えば喜んで押しますよ。
きっとそれが正しいって、信じてますから!!」
彼女は、花の咲いたような笑顔を浮かべた。
俺は全ての言葉を飲み込んだ。
彼女は、国を支配しようと企んでいた魔女と言うことで、
牢獄に閉じ込められた。
死刑執行は一週間後。
俺は、彼女に会いに行く。
階段を降り、鉄格子を通して彼女を見る。
彼女は、俺に気づきパッと笑った
「あら、王様、いらしてくださったのですね」
俺はいつもと変わらない彼女に、苛立ちさえ覚えた。
「何故笑顔なんだ」
「王様が来てくださって嬉しいからですよ」
「君を騙したんだぞ、俺は」
「私は、騙されてませんよ、王様」
「どういうことだ?」
「貴方が、考え抜いた決断なのでしょう。
ならばそれは、私のやりたいことでもあるんですよ」
「俺を恨んで良いんだ
罵倒してくれ」
俺は鉄格子を掴み、涙を流してしまう。
彼女は、俺の顔を優しく撫でながら、
「いいえ、恨みません。
むしろ、また一つ貴方を好きになりました」
そして鉄格子の合間から、軽くキスをした。
彼女の処刑の日が来た。
彼女は、魔女と罵られ、国民から罵倒を受けている。
石を投げられ傷が増えていく。
筋書き通りだった。
俺は間違ってない筈だ、俺は間違ってない。
きっと間違ってない。間違っていないんだ。
そう自分に言い聞かした。
処刑台に上がっていく彼女と目があった。
彼女は、俺を見るといつもの笑顔を浮かべた。
――俺は全てを投げだす、決意を固めた。
馬に乗り、彼女の元へ向かう。
こんなことをするのなら最初から計画するべきでなかった。
だが、もう感情を圧し殺すことは止めた。
彼女に繋がれた鎖を剣で切り、彼女を抱き走り出した。
そのまま逃げ切るつもりだったが、
我が国の兵士は甘くなく、意図も簡単に取り押さえられた。
処刑は延期になり、彼女と俺は、牢屋に入れられた。
俺は魔女に洗脳されていることになってしまっていた。
「なぜ、あんなことをなさったの?」
彼女は、怒った顔していた。
始めてみる顔だ。
「わからない。だが、動き出していた。」
「今すぐ、洗脳が解けたと言って、戻ってください」
「いやだ、今の方が俺はスッキリしている」
「国民のことはどうするんですか」
「もういいんだ、反乱でも何でも起こればいい」
「何てこと言うのですか、それで何人死ぬか貴方ならわかっているでしょう」
「そうだな」
「早く戻ってください」
「嫌だ」
「はぁー 貴方が、それでいいなら私も良いですけど
私達も死んで反乱が起きたら、何も得るものがないですよ。
死に損です」
「俺達は死なない、ここから出られるんだよ」
俺は秘密の抜け道を開ける。
俺たちは、牢獄から脱走した。
――十年後――
「お父さんとお母さんは昔、王様と王女様だったんだよ」
俺は、娘に話しかける。
「お父さん何で嘘つくの、面白くなーい」
娘が俺の膝の上でじたばたした。
「母さん、本当だよな」
俺は同意を求めた。
「バカなこと話してないで、夕食にしますよ」
自分が正しい選択をしたのかは、わからない。
だけど、今を見て間違っていたとは思いたくなかった。
過去は振り返らず、未来に繋ぐこの瞬間を大切に生きる。
END