第五夜 贄
白い砂浜。
藍色に染まった夜空。
静かに、時を刻むように打ち寄せる波。
どんなに歩き回っても、その場に赤子の姿は見つからなかった。
海に沈んで藻屑となったか、
あるいは、時の力で過去に戻ったか。
村長達は、砂浜で話し合った。
災難が降りかかることも知らず。
しばらく話続けた時、
小さくなく、赤子の声がした。
駆け寄って見れば、白い髪の紅い瞳。
時精の赤子が泣いていた。
腹が空いているのだろう。
村人は、幸運に感謝した。
今の状態ならば、すぐにでも殺すことが出来る。
が、それを村長は止めた。
「その赤子は、神々の贄に出そう。」
村長は、冷たく言い放った。
赤子はその声と共に、ピタリと泣き止んだ。
村の人々は、村長の腕の中にいる赤子を見るたび、
眉間に皺を寄せ、赤子に冷たい視線を注いだ。
そのころは火山が活発的になり、村に被害が及ぶ為、
毎年、神に贄をささげて、火山活動を抑えていた。
贄を捧げるには、自らの力で火山に登り、
火山口まできたら、自分で、煮え来るマグマの中に、飛び込まなくてはならなかった。
そんなこと、立つことも出来ない赤子に、できるわけが無い。
ということで、村長直々に登ることになった。
数人の人を、連れてのことで。
やっとのことで登りついた場所。
代表として、長が赤子を投げることになった。
いくら時精としても、赤子を殺すのは、気が乗らないものだった。
(だが、これも村のためだ。)
自分にそう言い聞かせて、長は赤子を炎の中へ、投げ込んだ。
赤子は、眠っていた。
赤子が火の中に消え、
村に引き返そうと、人々が方向転換をしたときだった。
突如、目の前が真っ白に輝く。
もう一度目を開けた時は、先程いた、火山口の手前だった。
そして、その真ん中には、光に身を包む、一人の少女がいた。
長く、銀のように輝く白髪。
雪のように白い肌。
首には、銀のリボンと、水晶のような石を付け、
淡い青色の衣を纏う、紅い瞳の少女。
人々が、一声に口にした。
「と、時精・・・。」
時精は、細い腕を胸の前まで持ってくると、小さな手を握り締めた。
「・・・私を、それも小さな赤子を、殺そうとした?
私がいなければ、この世は動けないのに・・・。」
鈴を転がしたような、可憐な声。
長をむくめ、皆がその場から動けなくなっていた。
少女の紅い目は、悲しげな色になっていた。
が、すぐに怒りに染めると、腕を横に上げた。
火山の炎が、ピタリと凍る。
景色全体が、時精以外、固まる。
石の世界のように冷たく、冷え切った世界。
「・・・これが、私の小さな復讐の始まり。」
そうつぶやくと、手のひらを人々に向けた。
石の様に固まった人たちは、引き寄せられるように火山の中に落ちていく。
その瞬間に、時はまた、動き出す。
人々は、炎の中に落ちていく。
悲鳴が、虚しく空に響いた。
『駄目!止めて!』
時精の中で、もう一人の時精が叫ぶ。
瞬間的に、時はまた止まる。
「何故・・・?この人たちは貴女を、私を殺そうとしたのに?」
少女が自分に手を当て、呟く。
『それは・・・。』
もう一人の時精の力が緩む。
その時、再び時は動いた。
人々は、火の海に消えていった。
『あ・・・。』
もう一人の時精が、涙声を出す。
「自分のしたことが、自分に返ってきてしまっただけ。
なんて愚かなの。人間って。」
そういいながら、時精は空中に足を運ぶ。
やがて、岩だらけの地面に足を付くと、その姿を消した。
その後に残ったのが、短い白髪の、紅い瞳の赤子だった。
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