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時精物語  作者: 暁 瑚珀
6/12

第五夜 贄

白い砂浜。

藍色に染まった夜空。

静かに、時を刻むように打ち寄せる波。


どんなに歩き回っても、その場に赤子の姿は見つからなかった。


海に沈んで藻屑となったか、

あるいは、時の力で過去に戻ったか。


村長達は、砂浜で話し合った。

災難が降りかかることも知らず。


しばらく話続けた時、

小さくなく、赤子の声がした。

駆け寄って見れば、白い髪の紅い瞳。

時精ときのせいの赤子が泣いていた。

腹が空いているのだろう。


村人は、幸運に感謝した。

今の状態ならば、すぐにでも殺すことが出来る。

が、それを村長は止めた。


「その赤子は、神々の贄に出そう。」


村長は、冷たく言い放った。

赤子はその声と共に、ピタリと泣き止んだ。








村の人々は、村長の腕の中にいる赤子を見るたび、

眉間に皺を寄せ、赤子に冷たい視線を注いだ。


そのころは火山が活発的になり、村に被害が及ぶ為、

毎年、神に贄をささげて、火山活動を抑えていた。


贄を捧げるには、自らの力で火山に登り、

火山口まできたら、自分で、煮え来るマグマの中に、飛び込まなくてはならなかった。

そんなこと、立つことも出来ない赤子に、できるわけが無い。


ということで、村長直々に登ることになった。

数人の人を、連れてのことで。













やっとのことで登りついた場所。

代表として、長が赤子を投げることになった。

いくら時精としても、赤子を殺すのは、気が乗らないものだった。

(だが、これも村のためだ。)

自分にそう言い聞かせて、長は赤子を炎の中へ、投げ込んだ。

赤子は、眠っていた。




赤子が火の中に消え、

村に引き返そうと、人々が方向転換をしたときだった。

突如、目の前が真っ白に輝く。

もう一度目を開けた時は、先程いた、火山口の手前だった。


そして、その真ん中には、光に身を包む、一人の少女がいた。


長く、銀のように輝く白髪。

雪のように白い肌。

首には、銀のリボンと、水晶のような石を付け、

淡い青色の衣を纏う、紅い瞳の少女。


人々が、一声に口にした。


「と、時精ときのせい・・・。」


時精は、細い腕を胸の前まで持ってくると、小さな手を握り締めた。


「・・・私を、それも小さな赤子を、殺そうとした?

 私がいなければ、この世は動けないのに・・・。」


鈴を転がしたような、可憐な声。

長をむくめ、皆がその場から動けなくなっていた。


少女の紅い目は、悲しげな色になっていた。

が、すぐに怒りに染めると、腕を横に上げた。

火山の炎が、ピタリと凍る。

景色全体が、時精以外、固まる。

石の世界のように冷たく、冷え切った世界。


「・・・これが、私の小さな復讐の始まり。」


そうつぶやくと、手のひらを人々に向けた。

石の様に固まった人たちは、引き寄せられるように火山の中に落ちていく。

その瞬間に、時はまた、動き出す。

人々は、炎の中に落ちていく。

悲鳴が、虚しく空に響いた。


『駄目!止めて!』


時精の中で、もう一人の時精が叫ぶ。

瞬間的に、時はまた止まる。


「何故・・・?この人たちは貴女を、私を殺そうとしたのに?」


少女が自分に手を当て、呟く。


『それは・・・。』


もう一人の時精の力が緩む。

その時、再び時は動いた。

人々は、火の海に消えていった。


『あ・・・。』


もう一人の時精が、涙声を出す。


「自分のしたことが、自分に返ってきてしまっただけ。

 なんて愚かなの。人間って。」


そういいながら、時精は空中に足を運ぶ。

やがて、岩だらけの地面に足を付くと、その姿を消した。


その後に残ったのが、短い白髪の、紅い瞳の赤子だった。



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