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時精物語  作者: 暁 瑚珀
4/12

第三夜 猫

「ここ・・・か。」


麗斗は息をついた。

何しろ、村の端から端までを、猛スピードで走ってきたのだから。


この家は、山の一番近くにあり、火が燃え移った、最初の家だった。

・・・すでに、家の形は残ってはいないが・・・。

赤い炎と、飛び散る火花。

近くにいるだけでも、呼吸が難しいほどの場所で、その声は聞こえた。


「・・・・・・赤子の鳴き声・・・っ!」


火の中から、小さく、か細い声が麗斗の耳に入った。


(まだ生きている・・・。)


麗斗は、近くの井戸から水をかぶると、

火の森へと、足を走らせた。





















「・・・・・・。」


白羽はしばらくすると、立ち上がった。

いつもの白羽なら、倒れた時につぶしてしまった草花に、侘びの一言がでているはずだった。

が、『今の』白羽から、そのような優しい言葉は聞こえなかった。


猫が白羽の代わりに、草原に倒れていた。


白い、美しい毛並みに、楕円形の水晶のような首飾りをつけている。

長い尻尾はバラの蔦のようにしなやかで、耳はピンと立っている。

まるで、雪のような純白の猫だった。

『白羽』が言った。



「・・・。私の力は、まだ半分も回復していない。

 力が戻っていれば、こんな火事、すぐに元に戻せるのに・・・。」



その声は、悲しみと・・・怒りに染まっていた。



「でも・・・皆は私を裏切った。

 ・・・信じてくれなかった。」



涙声なのに、怒りの声。

とても悲しい色。



立っている『白羽』のは、

村の炎よりも深い、あか

怒りと憎しみに染まった色だった。

その目には、薄っすらと涙が溜まっていた。

















だんだんと小さくなっていく、赤子の声。

時に大きさを増しては、次の声は消えるほどに薄くなっていった。


「・・・いたぁ!!」


麗斗が声を上げる。

ふすまを開け、骨組みしか残っていない障子を突き破り、

奥へ奥へと進んだ先に、赤子はいた。

赤子が寝ているベットは、下の布まで火が移りかかり、

肌は、黒く焦げているところが、所狭しとあった。


その中で、赤子は一人、泣いていた。

親が迎えに来ることだけを、それだけを願って。


麗斗は迷う事無く、自分のローブを外し、それで赤子を包んだ。

赤子の息が、少しずつ、落ち着いてきたのを確認すると、

真っ先に出口へと急いだ。


が、行く手は、崩れた大黒柱によって、塞がれていた。


「マジかよっ!こんな時に!」



パチッ・・・パチッ



火花が、麗斗の頭の上で散る。

家の木が、火に燃えつくされかけていた。

麗斗の頭の上の木も、そうだった。


やがて、ガラガラッ! と、音を立てて、木が降ってきた。



「クソッ!一か八かだ!!」



口を押さえていた手を離し、左右のバランスをとる。

そして、体制を前重心に変えると、大黒柱を飛び越えた。
















「もう、時間が無いや。」


『白羽』が呟いた。

死んでいたような猫の耳が、ピクッと動く。


もう一人の白羽は、そのまま草に寝転んだ。


.


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