第三夜 猫
「ここ・・・か。」
麗斗は息をついた。
何しろ、村の端から端までを、猛スピードで走ってきたのだから。
この家は、山の一番近くにあり、火が燃え移った、最初の家だった。
・・・すでに、家の形は残ってはいないが・・・。
赤い炎と、飛び散る火花。
近くにいるだけでも、呼吸が難しいほどの場所で、その声は聞こえた。
「・・・・・・赤子の鳴き声・・・っ!」
火の中から、小さく、か細い声が麗斗の耳に入った。
(まだ生きている・・・。)
麗斗は、近くの井戸から水をかぶると、
火の森へと、足を走らせた。
「・・・・・・。」
白羽はしばらくすると、立ち上がった。
いつもの白羽なら、倒れた時につぶしてしまった草花に、侘びの一言がでているはずだった。
が、『今の』白羽から、そのような優しい言葉は聞こえなかった。
猫が白羽の代わりに、草原に倒れていた。
白い、美しい毛並みに、楕円形の水晶のような首飾りをつけている。
長い尻尾はバラの蔦のようにしなやかで、耳はピンと立っている。
まるで、雪のような純白の猫だった。
『白羽』が言った。
「・・・。私の力は、まだ半分も回復していない。
力が戻っていれば、こんな火事、すぐに元に戻せるのに・・・。」
その声は、悲しみと・・・怒りに染まっていた。
「でも・・・皆は私を裏切った。
・・・信じてくれなかった。」
涙声なのに、怒りの声。
とても悲しい色。
立っている『白羽』の瞳は、
村の炎よりも深い、紅。
怒りと憎しみに染まった色だった。
その目には、薄っすらと涙が溜まっていた。
だんだんと小さくなっていく、赤子の声。
時に大きさを増しては、次の声は消えるほどに薄くなっていった。
「・・・いたぁ!!」
麗斗が声を上げる。
ふすまを開け、骨組みしか残っていない障子を突き破り、
奥へ奥へと進んだ先に、赤子はいた。
赤子が寝ているベットは、下の布まで火が移りかかり、
肌は、黒く焦げているところが、所狭しとあった。
その中で、赤子は一人、泣いていた。
親が迎えに来ることだけを、それだけを願って。
麗斗は迷う事無く、自分のローブを外し、それで赤子を包んだ。
赤子の息が、少しずつ、落ち着いてきたのを確認すると、
真っ先に出口へと急いだ。
が、行く手は、崩れた大黒柱によって、塞がれていた。
「マジかよっ!こんな時に!」
パチッ・・・パチッ
火花が、麗斗の頭の上で散る。
家の木が、火に燃えつくされかけていた。
麗斗の頭の上の木も、そうだった。
やがて、ガラガラッ! と、音を立てて、木が降ってきた。
「クソッ!一か八かだ!!」
口を押さえていた手を離し、左右のバランスをとる。
そして、体制を前重心に変えると、大黒柱を飛び越えた。
「もう、時間が無いや。」
『白羽』が呟いた。
死んでいたような猫の耳が、ピクッと動く。
もう一人の白羽は、そのまま草に寝転んだ。
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