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時精物語  作者: 暁 瑚珀
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第十一夜 尻尾

「―――――・・・え?」



あたりは炎の海で、汗が止まることなく流れていた・・・はず。

子供が泣いて、逃げられなくなりそうになっていた・・・はず。



それは少し前、時が止まる前の「過去」に過ぎなかった。



空から雹のように堕ちてくる爆弾は、空中でピタリと止まり、

村が焼けていく、草が燃えていくにおいさえも無くなり、

すべての生けるもの、含め、炎、鉄、人の表情・・・


すべてが色を失い、灰色の世界と化していた。



混乱したのは、いうまでもなく白羽だった。




「・・・え?えっ!?

 なに?何が起こっているの!?」



慌てて辺りを見回してみるが、視界の隅から隅まで、灰色一色。

何が起ころうとも、動きそうに無かった。


と、足元に温もりを感じた白羽は、

多少怯えつつ、足元に目を移した。



「・・・え?

 猫ちゃん・・・?」




猫がいた。

どこにでもいそうな野良猫ではない。

真っ白な毛並みは、どの生き物よりも繊細で軽やかに見え、

暗闇にも負けないような紅い瞳を持ち、ガラス玉のように淡く光を発している。

ピンとした耳と、長い尻尾が微かに揺れ、

細くしなやかな首元には、水晶と似たような透明な石が、純白のリボンで留められている。


女神が猫の姿をとるなら、このような姿になるのではないか、と思うほどの猫だった。




何がおきたのかわからない白羽は、自分以外に動いているものを見つけたからか

それがたとえ猫であったとしても、抱きついてしまうほどだった。



「君・・・動けるの?

 どうしてこんな風になっちゃったんだろうね・・・」



猫が答えるはずが無い。

が、質問せずにはいられなかった。

問うことができる「人」がいただけで、十分だった。



が、猫はその言葉を耳にするなり、白羽の腕から抜け出した。


ポカンとして、座っている白羽の前でちょこんと座ると、

その優雅な尻尾で、炎に巻き込まれそうな少年を指した。


巻き込まれる、という恐怖で屈みこんでいる少年は、炎が動かないというのにまったく動かない。

灰色になったまま、一ミリも動かない。

白羽はますます混乱した。



「どういう意味・・・?

 世界が一時停止でもしたってことなの・・・?」



まだわからないのか、とでもいうかのように

猫は軽やかに立ち上がると、少年のもとに近づいた。

そして少しずつ、少年の体を押し、動かし始めた。

その行動を見て、白羽もはっとした。



「あ、いつ動き出すかわからないものね。一時停止だとしたら・・・だけど。

 そのこも安全なところに連れて行ってあげなきゃ・・・だよね?」



頷くことは無いが、猫は尻尾をゆらりと動かした。















「―――――は?」



村長ならぬ、麗斗。

彼までもが混乱していた。

混乱するな、というほうが不可能ではあるが。


彼は、村で逃げ残りを探し出しているところだった。

幸い、大事に至る寸前で村人は非難したそうだが、自分の目で見ないことには信じられず、

周りの意見を押し切って、村に戻ってきたのだった。



それが、だ。


自分の守ってきた村は、二回にわたって炎に飲み込まれた。

それだけではない。

現在の村は、炎どころか、色や生命、すべてを失っているようだった。




唖然として立ち尽くす麗斗の前に、黒い影が過ぎった。

気を取り戻し、一歩後に後退する。

影は小さく、麗斗の足元に来ると動かなくなった。



「・・・は?

 猫・・・?」



尻尾以外、何も動かさず、礼儀正しく座る猫。

夜の暗さに溶け込みそうな漆黒の猫。

耳の内側だけが、健康的なピンク色だった。

黒い鼻と、すらりとした目尻。

瞳は紅く、爛々(らんらん)と光っている。

短くとも、シルクのような艶を放つ毛は豊かで、

首元には、蒼く輝く透き通った石が、黒く細いリボンで付いていた。


世界中のどこを探しても、このような猫はいまい。


そう思わせるような、黒猫だ。




「・・・。

 お前、生きているみたいだけど・・・

 なんていうか、この状況、理解できるか?」



やはり麗斗も混乱しているようだった。


猫は依然として動かず、泣き声も発さず、沈黙を守り続けた。

気まずくなったのは麗斗だ。



「・・・・・・。

 猫に話したって、なにもわからないことくらい、わかってるさ。」



そのまま猫を通り過ぎ、村に一歩足を踏み入れようとした。

猫が鳴いた。


多少の時間をとり、麗斗は振り返る。

猫が立ち上がり、固まる麗斗を通り越し、先に村に立ち入ってしまった。

結局、なにがしたいのかわからない麗斗にとって、猫の行動は微妙なものだった。

硬直する麗斗を待つように、猫は頭を回転させ、真っ直ぐに麗斗を見た。



「・・・わかったよ。

 ついて行けばいいんだろ?」



猫に続いて、麗斗の足は村に踏み入った。




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