第十夜 紅
白羽が目を覚ましたのは、次の日の昼だった。
「・・・っは!?もうこんな時間!?
いっけない・・・私としたことが・・・。」
慌しく椅子から離れると、次に机の上の薬を抱えた。
(散々苦労して作ったものだ。慎重に持っていかなければ・・・。)
そんなことを考えていたはずの白羽だが、
やっぱりお決まりとして、抱えた直後に本につまずき、
ズテーンッと、大きな音と共に、ほこりの中に突っ込んだ。
宙に舞う薬の入った小瓶。
もちろん止められる術が、今の白羽に有るわけ無かった。
落ちる直前、
誰かが白羽の部屋に入ってきた。
「・・・馬鹿!
薬の材料集めに苦労した、あいつ等のみにもなってみろ!!」
麗斗がとっさに薬を救ったおかげで、薬は無事となったが、
白羽はこの後、散々怒鳴られることになった。
説教(?)の時間が終わると、麗斗は薬を持って出て行った。
どうやら、長じきじきに来なければならないほどの、急ぎだったようだ。
そんなことはさも知れず、白羽は怒鳴られたことにションボリとしていた。
髪を結い直し、さて何か食べようとした時、
外で大きな地響きが起こった。
地響きと同時に、火花が舞い散ってくる。
立ち直ったばかりの村は、あっという間に火に飲み込まれたみたいだった。
家の外から、細く叫び声が聞こえる。
子供が泣く声、逃げ走る音、家が崩れる音・・・
全てがよくない兆しのように聞こえ、白羽を怯えさせた。
「空襲・・・だと!?
こっちは戦力もまともに備わっていないのにっ!!」
「長!村の大半が空襲により焼失!
もう逃げるしか道はありませんっ!!」
「・・・クソッ!!
皆、村の者々をつれて、山下の隠れ家へ!」
山を二つ程越えた、大きな国からの攻撃のようだった。
次々に放り込まれる鉄の塊。
それにより、近くは炎の海になり、逃げる人を迷わせた。
白羽もそうだった。
家が焼けて、崩れる音がしたと同時に出てきた白羽は、
涙目になりながら、行く先のない、あの細い道を歩いていた。
大好きだった草原も、今回は赤く燃え、白羽を受け入れてはくれなかった。
そして今の白羽の瞳には、薄く紅い光が差し込んでいた。
そして一人、子供が転び、火に囲まれそうになったのを見、
「あぶないっ!」
と、叫んだ。
青白い光が、白羽の周辺を包み込んだ。
髪留めのゴムに、少しひびが入る。
次の瞬間には、世界は灰色に染まり、ピタリと動かなかった。
揺れる炎の先まで、熱を帯びずに固まった。
もちろん、その場に居た子供も、叫ぶ声も。
時が、止まった。




