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時精物語  作者: 暁 瑚珀
10/12

第九夜 薬

「お腹すいた・・・。」


あまりの量に愚痴を言う白羽。

仕事(しかもかなり久しぶり)をやっていると、どうしてお腹が空くのか。

知っている人がいたらいいのに、と白羽はこっそり考えた。


・・・ちなみに今の時間は、日が暮れた、夕ご飯の時間であった。


図鑑を見なくても作り方を把握してしまうくらい、この作業は長かった。

いや、正しく言うと白羽にとって長く感じてたのかもしれない。

なんていったって、時計のない、4畳半くらいの切羽詰った部屋に篭りきっているのだ。

誰であっても、退屈になるのは明らかである。


麗斗が頼みに来て数時間。

彼によって手配された3人は、すぐに山に消えたかと思うと、

大量の草葉を抱えて戻ってきた。

それも、すべて解毒薬に必要なものばかりで、白羽はその速さに一瞬呆然とした。

3人のうち、一人は白羽でも話し相手になってくれる人だったので、

どう探しているのか、白羽が聞いてみたところ、


「慣れです、慣れ。」


と、微笑んで、また出かけていった。

後の二人は白羽を嫌っている、村人達の一員だったので、

話すことはもちろん、呼びかけられても無視という態度だった。

その冷たい態度に、白羽は一時切なる時もあったものの、

村長である麗斗の頼みごとを優先するあまり、そんな感情もどこかへ消えていた。


「・・・っ?!」


頭辺りに、なにか硬いものがぶつかった。

それは草だらけの机に転がり落ちると、コトンと音を立てて床に落ちた。

小石だった。


「出てけっ!化け物!」


小さな窓の外から、暗闇に混じって声が聞こえた。

幼い男の子の声だった。


白羽が窓の外をのぞくと、子供が数人、少し離れた草むらに隠れていた。

だいぶ暗かったが、白羽の目は、草の動きで人がいることを認識した。

子供達は、白羽が見ているのに気が付くと、また小石を投げつけてきた。

今度は家に入らなかったもの、少し脆い造りの白羽の家にゴッと音を立てた。

最初と同じ声の子供が、また言った。


「この前の火事も、お前のせいだろっ。

 お前が山の神々を怒らせ、この村に火をつけたんだっ!」


はき捨てるようにいった声も、最後の辺りはかすれていた。

そしてまた、小石を投げつけると、周りの子供達をつれて闇に消えた。


白羽は、なんとなくその場から動けなかった。

自分に当たった石を拾うと、それを見つめた。

ごつごつしていて、灰色に染まった、大地の創りだした結晶。

それが、人を悲しくされるものにもなることを、白羽は初めて知った。


『化け物』


(あの男の子はそういったっけ。)

急にさっきまでの食欲は失せ、悲しい気持ちになった。

なにも、手につきそうにない状態と化した。





それから数時間後。

再び扉から、音が鳴った。


「白羽・・・?

 入るぞ。」


麗斗だった。

反応がない家の中を、キシリと床が音を立てる。

扉の裏に回りこみ、一人が通れるような、かなり細い扉を開ける。

開けた途端、強烈な臭いが麗斗の鼻を刺した。

解毒薬の臭いだった。


「・・・白羽?」


白羽は、小さな部屋の奥隅で、机にふっつぷしていた。

寝ているようだった。

そして、白羽の周りは、

きっちり十個ずつ固められた瓶が、二十九個と一つ、置いてあった。

白羽の手には、最後と思われる小瓶が収まっていた。

麗斗は、ふぅとため息をついた。


「白羽らしいな、全く・・・。」


周りを見渡して、手ごろな毛布を白羽の上にかけてやると、

そのまま静かに出て行った。
















「良くなる兆しがありません。長。」


「・・・わかってる。」


問題は相手の攻撃法だ。

と、麗斗は思った。


弓矢や特攻、騎馬での突破が普通なのだが、

この争いは違った。

自分たちは何もしていないというのに、何故か毒状態に陥る人がいるのである。

無論、向こう側も何もしていないはずなのだが・・・。


「解毒草も、現在では入手困難。

 今の皆は、毒を恐れて出ようとしない。

 ・・・不味いな。」


項垂れ、悩む麗斗の姿を、

一人、影で見ている人がいた。

・・・人ではない。猫だった。

闇にまぎれるような黒猫が、麗斗の家の窓枠に座り、

鳴き声を立てずに、枠から飛び降りた。




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