第九夜 薬
「お腹すいた・・・。」
あまりの量に愚痴を言う白羽。
仕事(しかもかなり久しぶり)をやっていると、どうしてお腹が空くのか。
知っている人がいたらいいのに、と白羽はこっそり考えた。
・・・ちなみに今の時間は、日が暮れた、夕ご飯の時間であった。
図鑑を見なくても作り方を把握してしまうくらい、この作業は長かった。
いや、正しく言うと白羽にとって長く感じてたのかもしれない。
なんていったって、時計のない、4畳半くらいの切羽詰った部屋に篭りきっているのだ。
誰であっても、退屈になるのは明らかである。
麗斗が頼みに来て数時間。
彼によって手配された3人は、すぐに山に消えたかと思うと、
大量の草葉を抱えて戻ってきた。
それも、すべて解毒薬に必要なものばかりで、白羽はその速さに一瞬呆然とした。
3人のうち、一人は白羽でも話し相手になってくれる人だったので、
どう探しているのか、白羽が聞いてみたところ、
「慣れです、慣れ。」
と、微笑んで、また出かけていった。
後の二人は白羽を嫌っている、村人達の一員だったので、
話すことはもちろん、呼びかけられても無視という態度だった。
その冷たい態度に、白羽は一時切なる時もあったものの、
村長である麗斗の頼みごとを優先するあまり、そんな感情もどこかへ消えていた。
「・・・っ?!」
頭辺りに、なにか硬いものがぶつかった。
それは草だらけの机に転がり落ちると、コトンと音を立てて床に落ちた。
小石だった。
「出てけっ!化け物!」
小さな窓の外から、暗闇に混じって声が聞こえた。
幼い男の子の声だった。
白羽が窓の外をのぞくと、子供が数人、少し離れた草むらに隠れていた。
だいぶ暗かったが、白羽の目は、草の動きで人がいることを認識した。
子供達は、白羽が見ているのに気が付くと、また小石を投げつけてきた。
今度は家に入らなかったもの、少し脆い造りの白羽の家にゴッと音を立てた。
最初と同じ声の子供が、また言った。
「この前の火事も、お前のせいだろっ。
お前が山の神々を怒らせ、この村に火をつけたんだっ!」
はき捨てるようにいった声も、最後の辺りはかすれていた。
そしてまた、小石を投げつけると、周りの子供達をつれて闇に消えた。
白羽は、なんとなくその場から動けなかった。
自分に当たった石を拾うと、それを見つめた。
ごつごつしていて、灰色に染まった、大地の創りだした結晶。
それが、人を悲しくされるものにもなることを、白羽は初めて知った。
『化け物』
(あの男の子はそういったっけ。)
急にさっきまでの食欲は失せ、悲しい気持ちになった。
なにも、手につきそうにない状態と化した。
それから数時間後。
再び扉から、音が鳴った。
「白羽・・・?
入るぞ。」
麗斗だった。
反応がない家の中を、キシリと床が音を立てる。
扉の裏に回りこみ、一人が通れるような、かなり細い扉を開ける。
開けた途端、強烈な臭いが麗斗の鼻を刺した。
解毒薬の臭いだった。
「・・・白羽?」
白羽は、小さな部屋の奥隅で、机にふっつぷしていた。
寝ているようだった。
そして、白羽の周りは、
きっちり十個ずつ固められた瓶が、二十九個と一つ、置いてあった。
白羽の手には、最後と思われる小瓶が収まっていた。
麗斗は、ふぅとため息をついた。
「白羽らしいな、全く・・・。」
周りを見渡して、手ごろな毛布を白羽の上にかけてやると、
そのまま静かに出て行った。
「良くなる兆しがありません。長。」
「・・・わかってる。」
問題は相手の攻撃法だ。
と、麗斗は思った。
弓矢や特攻、騎馬での突破が普通なのだが、
この争いは違った。
自分たちは何もしていないというのに、何故か毒状態に陥る人がいるのである。
無論、向こう側も何もしていないはずなのだが・・・。
「解毒草も、現在では入手困難。
今の皆は、毒を恐れて出ようとしない。
・・・不味いな。」
項垂れ、悩む麗斗の姿を、
一人、影で見ている人がいた。
・・・人ではない。猫だった。
闇にまぎれるような黒猫が、麗斗の家の窓枠に座り、
鳴き声を立てずに、枠から飛び降りた。
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