メリーさんの電話
※今回は、都市伝説の大御所・女性部門としてメリーさんにお越しいただきました。そして、おっさん二人の温泉回という非常に嬉しくない逆サービス回でもあります。なので先に謝っておきます。誠に、誠に申し訳ございません。
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メリーさんの電話?
知ってますよ、有名ですよね。
実在するという情報は既に掴んでいます。
だから、待っていてくださいねメリーさん。
必ず捕まえに行きますから。
《焼き鳥屋『とり将軍』の店長・戌神翔のひとりごと》
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よく晴れた日の夕方。
冴崎組の屋敷に造られた露天風呂に浸かりながら、善治郎とアシュレイは心行くままにリラックスしていました。
湯に浮かべた盆の上には、酒とつまみとスマホ。
もはや寛ぐ気しかない組み合わせです。
「……この海外ドラマ、アニメ化したらいいのになァ」
「このドラマ、元々はラノベ原作ダヨ」
アシュレイのスマホで海外のファンタジー系ドラマを観はじめて40分。
そろそろ風呂から上がりたいと思った頃、善治郎のスマホに電話がかかってきました。
「……もしもし、冴崎だが」
『もしもし、わたしメリーさん。今、ごみ捨て場にいるの』
メリーさん。
有名すぎるほど有名な、都市伝説の存在です。
あからさまなホラーの苦手な善治郎にとっては、天敵のような相手でした。
「……おい、アシュレイ。今メリーさんから電話が来た……」
酒と風呂で暖まっているはずの善治郎の顔は青ざめ、酔いも覚めてしまいました。
まだほろ酔いのアシュレイは、露天風呂から逃げようとする善治郎を引き留めます。
「大丈夫ダヨ。メリーさんも男湯には入ってこないヨ」
根拠なんてありません。
けれど、善治郎もなんとなくメリーさんは男湯には入ってこないような気がしてきました。
善治郎も、アルコールが回っていることには変わりないようです。
「……まァ、裸のオッサン二人しかいねェ露天風呂になんざ、入ってくるわけねェわな」
「そダヨ。続き観るヨ」
それから、海外ドラマの続きを観ようと再生ボタンをタップしたとき。
再び、善治郎のスマホが鳴りました。
「……もしもし」
『もしもし、わたしメリーさん。今、コンビニの前にいるの』
メリーさんは、冴崎組の屋敷に近づいてきています。
「……おい、アシュレイ。メリーさん今コンビニだとよ」
「この時間帯、ヤンキーたむろしてるヨ。大丈夫カナ?」
近づいてはきているのですが、善治郎ももうメリーさんを怖がってはいません。
酒の力とは恐ろしいものです。
しばらくするとまた、メリーさんから電話がかかってきました。
「……よォ」
『もしもし、わたしメリーさん。今、路地裏にいるの……たすけて』
まさか、メリーさんに助けを求められるなんて。
善治郎は少しだけ、メリーさんを哀れに思いました。
「……今、路地裏だとよ。ヤンキーに捕まったみてェだ」
「ウワー、メリーさんカツアゲされるカモ」
電話口の向こうからは、ヤンキーたちの声が聞こえてきます。
『なー、メリーさんだっけ?お前どこ目指して旅してんの?』
『連れてってやるよ』
『あの……わたし、冴崎組の屋敷に行きたいの……』
『冴崎組か……ヤベーとこ行きてえんだな……』
『でも、連れていくって言ったからには連れてくよ』
『お、おい、やめとけって!』
『いや、約束したからには連れてくよ。ここで約束を違えちゃ漢じゃねえ!』
『あ、あの……ありがとうございます』
どうやら、親切なヤンキーたちだったようです。
「……やめろよ……連れてくんなよ……ヤンキーなのに親切かよ……」
「ンー、親切なヤンキーといえば乱愚怒射の末裔カナ?」
「……末裔、か。そんな言葉知ってんのか。日本語上手くなったなァ」
「フフン、アニメで覚えたヨ」
さて。二人の酒はさらに進みます。
もう、飲むことに夢中で風呂から上がる気配すらありません。
そんなところに、また、メリーさんからの電話が。
「……うい」
『もしもし、わたしメリーさん。今、冴崎組の屋敷の前にいるの』
善治郎は次の電話で言われるだろう言葉を知っています。
もしもし、わたしメリーさん。今、あなたの後ろにいるの。
そうなってしまえば、もうおしまいです。
メリーさんに背後を取られれば、あとは包丁で刺されて死ぬしかないのですから。
けれど、酒が回りに回った善治郎は、すでに対策を思い付いていました。
『じゃーな、メリーさん。ヤクザに気をつけろよー』
『腹へったらどっかの店でなんか食えよー』
『店のレビューは絶対見ろよー』
ヤンキーたちが帰っていくのが、電話越しにもわかります。
露天風呂の湯船の外に敷かれた石畳に、おもむろに寝そべった善治郎の耳にも、ヤンキーたちの声がわずかに届きました。
「……へへっ、アシュレイよォ……俺ァ天才かもしれねェ。メリーさんに背後を取られねェには、こーやって、床に、背中くっつけて寝りゃいい」
「ワー、古典的な方法ダネー」
言いながら、アシュレイも同じ方法を取ります。
酔っぱらいの考えなど、だいたいこのレベルが限界なのです。
ですから、酔っぱらいが横になればどうなるかを考えることも、酔っぱらいには難しいことでした。
横になった酔っぱらいこと、善治郎とアシュレイは眠くなり、ひんやりとした石畳の上で気持ちよさそうに眠ってしまいました。
その間、メリーさんの電話をスルーした回数約120回。
善治郎のスマホの着歴が、メリーさんだらけになりました。
ようやく二人が起きる頃、辺りは真っ暗になり、空には月見酒に相応しい満月が輝いていました。
「…………うっ、頭が」
「飲み過ぎたネ」
善治郎は石畳に置いたスマホを指で手繰り寄せ、画面を見ます。
未だかつてない数の着信数が、電話アプリの上に表示されていました。
「…………おいアシュレイ。これを見てくれ」
「…………ストーカーみたいな着信数になってるヨ」
善治郎とアシュレイは、今日一番の恐怖を感じました。
そして同時に、メリーさんの電話をスルーしてしまった罪悪感も。
「……仕方ねェ。俺からかけてやるか」
善治郎が、メリーさんに電話をかけます。
メリーさんは、一瞬で電話に出ました。
『もしもし、わたしメリーさん』
メリーさんの声は、疲れ果てていました。
「……メリーさんか。今、どこにいるんだ?」
もしかして、迷子になっているのかもしれません。
心配になった善治郎が、そう訊ねると。
『今、とり将軍っていう、焼き鳥屋に……きゃっ!』
『あはっ、メリーたん!つーかまえたっ!』
メリーさんは、絶対に居てはいけない場所にいたのです。
『いやぁぁあっ!離して!誰か助けてっ!』
『大丈夫ですよメリーたん、痛いことはしませんから。ただ、服の下を見せてほしいだけです』
『ひ……っ!いやっ、ヘンタイ!』
『なるほど、羞恥心というものがあるのですね。非常に興味深いです。余計に服の下を見たくなりました。メリーたんの服の下は精巧に作られているのでしょうか?それともデフォルメされているのでしょうか?デフォルメされているとしたらどれくらいの割合でデフォルメされているのでしょう?ふふふ楽しみです。さあメリーたん脱いでください。あ、もちろんパンツもですよ』
『きゃあああああっ!』
オバケ大好き、とり将軍の店長・戌神翔に捕まってしまったメリーさん。
善治郎の中で哀れみと、聞いてはいけないものを聞いてしまったような複雑な気持ちが渦巻きます。
どうする。
どうしたらいい。
そう、5秒ほど逡巡したのち。
善治郎は静かに、通話終了ボタンをタップしました。
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メリーたん、メリーたん。
焼き鳥、美味しいですか?
へぇ、レビューを見てここに来てくれたんですね。
あぁ……そんなに怖がらないでくださいよ。
僕が乱愚怒射の元総長だなんて、ウソですよ。
だから安心して食べてください。
え?違うって?
ああ、お代はいらないですよ。
だって、これから一緒に暮らすんですから。
《戌神翔とメリーさんの会話より抜粋》
今回はメリーさん自爆回でしたが、焼き鳥屋が出てくると……おっさん二人は何もすることがなくなるんや……




