ナックルボーラー 希崎舞
0対0のまま、試合は投手戦となり、七回表エンペラーズの攻撃は3番のトーマスJr.からという好打順だ。
エンペラーズ高峰は六回を投げて被安打1 奪三振4 無四球という素晴らしい内容。
ガンズの先発真中も、被安打2
奪三振2 、1四球という好投だ。
トーマスJr.は三回目のバッターボックスに立つ。前の打席は真中のシンカーにタイミングが合わず、セカンドゴロに終わった。
真中の投球術に成す術なく終わるのか。
初球はアウトコースわずかに外れてボール。
(軌道だ。球の軌道をよく見るんだ)
トーマスJr.は自分に言い聞かせながらバッターボックスを外した。
一呼吸置いてから打席に入る。
二球目を真中は投げた。
インコースギリギリに入るスライダーが決まりワンストライク。
(ストレートを狙おう)
ガンズバッテリーはトーマスがまだ真中の球にタイミングが合ってないと思っている。
三球目。チェンジアップを投げた。
トーマスJr.は見送る。
「ボール!」
カウントはツーボール、ワンストライク。
(次はストライクに入れてくるだろう。となると変化球ではなくストレートに違いない)
トーマスJr.はバットを構え直した。
真中が四球目を投げた。
(きたっ!)
インコースやや低めのストレートだ!
トーマスJr.は上手く腕を畳んで素早く振り抜いた。
鋭い打球はレフトフェンス直撃。
トーマスJr.は一塁を駆け抜け二塁へ。
ノーアウトランナー二塁で打席は昨年真中から3本のホームランを記録した4番の高梨だ。
ここでガンズベンチは動いた。
「ガンズ、選手の交代をお知らせします。ピッチャー真中に代わり希崎。背番号77」
ガンズはここで真中を交代させ、初の女性プロ野球選手、希崎 舞を投入。
球場内は一斉に沸き上がる。
ガンズ一番人気の希崎がマウンドに登場した。
女性ながら、日本球界ではお目にかからないナックルボールの投手として、リリーフ投手して起用されている。
そしてキャッチャーはナックルボール用の一回り大きいミットに代える。
ナックルボールとはナックル(拳)のようにボールを握り投げる事により、無回転で空気抵抗を受け、変化を起こす。揺れながら落ちたり曲がったりするので軌道が読めない。
希崎はナックルを武器に今シーズンは防御利率0.62 3ホールドという素晴らしい成績をあげている。
希崎は高校生の頃から女子野球でナックルボールの使い手として脚光を浴びた。
かつて野球協約第83条第1項に「医学上、男子でない者は支配下選手になれない」という条文があったが、近年はこの条文は削除されている。
そしてガンズは希崎ドラフト4位で指名した。
投球練習が終わりプレイが再開した。




