隠し球
ガンズバッテリーは櫻井を敬遠して3番のトーマスJr.で勝負をしようという考えらしい。
左対左とはいえ、櫻井はチャンスには強い。
対するトーマスJr.はスイッチヒッターだが、真中の下手から投げるタイミングに合っていない。
前の打席は空振りの三振に終わった。
メジャー広しと言えども、アンダースローはお目にかからないからだ。
櫻井を歩かせ、ツーアウト満塁となった。
「Son of a bitch! !(ナメやがって、くそヤローがっ!!)」
トーマスJr.がネクストバッターズサークルで吠えた。
ガンズの内野手が集まる。
そして一言、二言話し、守備についた。
「3番、ライト トーマス、背番号 44」
右打席に入り、マウンド上の真中を睨み付けるかのように視線を送るトーマスJr.。
対する真中は、やや余裕のある表情でトーマスJr.ではなく、キャッチャーのサインを見る。
セットポジションに入り、各ランナーを見る。
しかし中々投げない。
次の瞬間、「アウト!」
と審判の声が響いた。
トーマスJr.はキョトンとしている。
何でアウトなんだ?
アウトをコールしたのは、一塁の審判だった。
何と櫻井が隠し球に引っ掛かりタッチアウト!
してやったりのガンズナイン。
櫻井は隠し球を見抜けなかった。
呆然と一塁上に立ち尽くす櫻井。
(油断していたっ…!)
せっかくのチャンスを天才と呼ばれたプレイヤーが台無しにしてしまった。
うなだれながらベンチに戻った。
「せっかくのチャンスを潰してしまって申し訳ありません…」
蚊の鳴くような声で深々と頭を下げた。
「ヒロート!ネクストネ、ネクスト!」
スミスが櫻井の肩をパンパンと叩き、次がある、頑張れ!とばかりに励ます。
「I'm sorry…」
トーマスJr.にも深々と頭を下げ謝っている。
トーマスJr.は櫻井のグラブを差し出し
「 No biggie(大したことない)」
と櫻井に笑みを浮かべ、守備に向かう。
両軍共にチャンスが潰えた。
一点が遠い。




