外野席の男
ハードパンチャーズの正捕手、朴は盗塁阻止率が0.349で、各球団の正捕手の盗塁阻止ランキングでは7位で決して強肩ではない。
しかしこのパンチャードームでの阻止率は実に5割を越える。
ビジターでの阻止率は2割そこそこだ。
この差は明らかにおかしい。
肩は強くないし、スローイングが速いという印象はない。
内野手のシフト変更も不自然なのだが、それ以前に朴の阻止率がかなり違和感がある。
故にビジターの試合では朴よりも控えの捕手、吉本を頻繁にスタメンで使う。
吉本はまだ若いが、かなりの強肩の持ち主だ。
ホームでは朴を使い、ビジターでは吉本を使う。
朴はハードパンチャーズの正捕手だ。
なのにビジターの試合では途中からマスクを被ったり、盗塁をあまりしないチームでスタメンに起用される事がある。
これもパンチャーズのカラクリの1つなのであろう。
ではどうやってサインを盗むのか。
珍太朗はしばし考え込んだ。
応援席からなのか、マスコットキャラクターのパンチ君が送っているのか?
しかしパンチ君は応援団の旗や太鼓に合わせて動く為、パンチ君がサインを盗むという事はないだろう。
あれは動きでカムフラージュしているのではないか。
二重三重の工作をして分かりにくくしているのじゃないのだろうか?
となると応援席か。
すると珍太朗のスマホからメールが届いた。
「 There is a person watching only a PC in a cheering section.
The man does not watch a game of a game at all.(応援席でパソコンばかり見てるヤツがいる。そいつは試合を全く観ていない)」
エージェントからの報告だ。
応援席で試合を観戦せずにパソコンばかりを眺める。
応援団だらけの席で試合を全く観ないのは不自然だ。
「 Watch him. We will monitor from various angles with several people(数名で手分けして監視するんだ)」
尻尾を掴んだような気がするが、まだ完全な証拠は掴めていない。




