まさかのノーヒットノーラン
球場内が異様な歓声に包まれる。
「おい、まさか達成すんじゃねぇだろなっ」
「んなワケねぇだろ、もうそろそろ打たれるに決まってんだろ」
「浅野だって打てねぇんだぜ!もしかしたらやるかも」
「いや、それはあり得ない。だって、おヅラだぜ」
「一応あのハゲだってエースだったじゃん」
八回を終わり、ゴールデンズはいまだノーヒット。
六回にフォアボールで出塁した以外はパーフェクトに抑えられている。
そして九回の表、ゴールデンズの攻撃は8番という下位打線からだ。
ゴールデンズは代打攻勢で何とかノーヒットだけは免れたいところだが、今日の小倉の投球に手も足も出ない。
ストレートのキレが良く、カーブ、フォークが冴え渡る。
小倉はストレートも変化球も同じ投げ方をするので、打者は見分けをつける事が難しい。
決して速くないストレートだが、奪三振率は高峰よりも上だ。
1試合の平均奪三振率は、高峰が8.52なのに対し小倉は8.73と三振を多く獲れるピッチャーなのだ。
大学時代は、【ドクターK】と言われ、ドラフトでは3球団が1位指名し、抽選でエンペラーズが獲得した程だ。
ドクターKとは、奪三振を多く獲るピッチャーの称号のようなもので、 【K】とは、ストライクを【K】で表す。最初は、ピッチャーが投げたボールがストライクだった場合、【STRUK】と書いていたが、面倒だったようで【STRUK】の最後の文字を取って【K】とした説があるようだ。
そのドクターKが後、アウトカウント3つでノーヒットノーランを達成する。
ここまで9個の三振を奪った。
ゴールデンズは左打者の代打を送るが、小倉の前では成す術がない。
簡単にツーアウトを獲り、最後のバッターをツーナッシングに追い込み、最後はスローカーブで10個目の三振を奪った。
ノーヒットノーラン達成の瞬間である。
湧き上がる球場内。しかしこの歓声は小倉を称える歓声ではなく、ブーイングによる歓声だった。
「おヅラ~、テメー真面目に投げてんじゃねぇよ、ハゲ!」
「お前何で打たれねぇんだよ、つまんねーじゃねぇかよ!」
「金返せ、バカヤローっ!」
いつしか球場内は、金返せコールとなっていた。
【金返せ!金返せ!】
鳴り止まない金返せコールの中、小倉はガッツポーズをしたが、ナインからも
「空気読め、バカっ!」
「何やってんだ、テメーは!」
「相変わらず使えねぇヤツだなっ!」
「土下座して毛、剃れ!」
「Fuck you!!(泣け、このクソヤロー!!)」
「お前が勝つのが許せない!」
等、いつもの罵声を浴び、ヒーローインタビューでは、アナウンサーに
「何で今日に限ってノーヒットノーランなんてやってんだよ!オメー空気読めよ、このハゲ!」
とまで言われ、いつものように号泣しながらベンチに引っ込んだ。
勝っても負けても、ホームだろうと、アウェイだろうと罵声を浴びる男、それが小倉なのであった…
「佐久間さん、交換相手はヤツでいいかな?」
「これなら向こうさんも納得するだろうさ」
ヤマオカと佐久間はトレードの交換相手を決めたようだ。




