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雷の禊(いかづちのみそぎ)  作者: ひさぎしぐれ
第一章 始まりはいつも突然
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或る真実

 俺は暫く言葉を失っていた。

 何故ならそれは、梢子によって見せられた映像があまりにも衝撃的だったせいだった。

 それこそずっと見続けていたあの不思議な夢だったから――。

「どう、この映像。私の考えが正しければきっと見覚えがあると思うわ」

 梢子さんは一段と低い声でそう言った。

 その表情は、いつになく真剣なものである。

「――ええ、夢で。ただ、最後は微妙に違いますけど」

 こんなものを見せられては、こちらも否応なく真剣な表情になってしまう。と、同時にあまりに意味不明な状況に頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。

「やっぱりね。で、いつからなの」

「物心ついた頃には、もう……」

「そう、そうなのね……」

 真剣な表情を崩さずに、何回も頷くだけの梢子さん。

「あの……この映像って――」

「この映像はね、当時の映像よ。あの事件の真実を映したものの一つね」

 紙の資料やデータの方が多いんだけど、と付け足す梢子さん。それはそうだろう、部屋の本棚には資料やら本やらが隙間無く並べられている。ただ、それがすべて関連資料とは限らないだろうが。

「これが……でも、これが現実にあったことですか。にわかには信じられないのですが」

「残念ながら事実なのよ。同時に今現在、存在を抹消された理由でもあるわ」

「でも、なんで梢子さんは夢のことを知っていたんですか?」

 どうにもそれが分からなかった。

 それより何より、初対面時からこの人には謎が多すぎるのだ。だってそうだろう、初対面から襤褸(ぼろ)のローブを纏って大きな槍を振り回す人間など怪しすぎる。

「いえ、知っていたわけじゃないの。可能性の一つとして、ね」

「知っているわけじゃなかったのか。そろそろ教えてくれませんか、俺のこの力について」

 梢子さんを正面に見据え、軽く手のひらに紫電を発生される。

 あの映像にも充分驚いたが、そろそろ核心に繋がる情報が欲しかった。

「そうね。じゃあ、話しましょうか真実を――」

 たっぷりと勿体振って見得を切る梢子さん。

 どうやらこのパターンが好きらしいんだな、と思ったが黙っておくことにした。というか、こんな所まで連れてきて結局語るんだなとも思ったがそこも黙っておくことにしたのだった。

 色々突っ込みたいところだったのだが、話の信憑性を高めるための一手間だと納得した。




「君はあの事件の元凶――氷見龍章(ひみりゅうしょう)のクローンの成功体なのよ」

 あの映像の仮面の男ね、と付け足して。

 何を言っているのか分からなかった。

 いや、もしもその言葉の意味を理解出来てもきっと理解したくない内容であるのは明らかだろう。

「氷見――って、それよりもクローンって! 成功体ってそれなんだよ!?」

「言葉通りの意味よ。君がクローンであるのも覆しがたい真実よ」

 梢子さんは尚も淡々と言葉を続ける。

 その淡々とした態度が、逆に焦りを募らせるようだった。

「だから成功体って!?」

 どうしても語気が強くなってしまう。

 だってそうだろう、こんなの青天の霹靂とかそういうレベルではない。

「一つだけ心当たりがあるでしょ」

「もしかして、この力って――」

 考えるまでも無く、それしかなかった。

「――そう、それも彼の力の残滓によるもの。他のクローンには発現しなかった力よ」

「なんでそんなクローンなんて造るんですか……」

「それはある目的のためよ。彼ら――氷見神聖会のね」

 俺の力ない問いにそう答えた後、一瞬考えて再び梢子さんは言葉を続ける。

「いえ、それは正確では無いわね。氷見神聖会の代表を中心とした勢力の目的ね」

 氷見神聖会の総意では無いのよ、と更に続けた。

「そんなの変わりませんよ……。で、それはどんな目的なんですか」

「それは氷見龍章の復活よ。君はその容れ物」

「何ですかそれは、意味が分からない!! そんなくだらない理由で! そんな!?」

 梢子さんのその言葉で脳みそが、全身が、一瞬にして燃え上がるような感覚に陥った。最早、脳みそが焼け焦げたような錯覚さえ覚える。

 あまりの怒りに我を忘れてあらん限りの力で全身から雷を迸らされているようだったが、こうなっては自分で制御することも出来ないだろう。

 そもそも制御なんて頭になかった。

「あらら、やっぱり真実を伝えるには早すぎたのかしらね」

 普通であれば、明らかにヤバイ状況であるのに梢子さんはあっけらかんとしていた。というか、この状況を全く意に介していないようだった。

 一言で言えば余裕。

「あなたはッ!! 何者なんだッ!!」

「私? 私は、ただの梢子よ」

 梢子さんのその飄々とした態度に、ついに俺は無意識に手が出た。

 がむしゃらに殴りかかるのだが、予想通り軽く身を躱され虚しく拳が空を切る。ただ、壁の本棚にはダメージがあったらしく梢子さんが困惑した声を上げる。

「ちょっと、大事な資料が――あー……!!」

 雷撃によって本棚の資料が黒焦げたり、燃えたりして舞い上がっていた。

「だからッ!! あなたは!!」

 拳を解いて手を振り下ろすと、無制限に溢れ出していたかのような雷撃が先鋭化する。その上、振り下ろした手から発生した雷撃が地面を切り裂いていた。

「流石にちょっとやり過ぎよ、君」

 そう言って梢子さんは、どこからか折り畳みの杖を取り出して構えた。その瞳は切れるような鋭さを宿している。

 普通であればやばいと思って止まったのだろうが、既にそんな状態ではなく思考をするよりも早く体は動いていた。

「ふざけるなァッ!!」

 瞬間、叫び、拳を叩き付けるように振り抜く。が、梢子さんの杖捌きによっていなされる。

 更に反転、再び拳を見舞うべく振りかぶった。

「――甘いわね」

 無情に勝負は決まった。

 杖が鳩尾に突き刺さっていたのだ。

 結果、息が詰まり目の前が真っ白になる。

 体から迸っていた雷が霧散し膝を突いてしまう。

 梢子さんはというと、構えを解いてこちらに背を向けていた。どうやら、もう勝利を確信しているようだった。

「――痛ッ! あら、頬から血が出てる。この子、素質はあるみたいね」

「……こ、この」

 なんとか立ち上がろうとするが、意識が朦朧として上手くいかない。半ば藻掻くようにしていると梢子さんはしゃがんでこちらに顔を寄せてきた。

 そうして、こう言ってきたのだった。

「健闘を讃えて教えてあげるわ。私の本当の名前は氷見透子(ひみとうこ)よ、よろしくね」

「氷見……透……子?」

 瞬間、急激に意識が遠のいていくのを感じた。

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