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序章 悪夢または終末

 雲一つ無い空が見える。

 ――あかね色か?

 いや、あれはそんな綺麗な色ではない。

 ――そう、血だ。

 それこそ何者とも知れぬ幾千幾万もの有象無象が垂れ流した血が、血液が、世界を覆わんと上空に渦巻いているのだ。

 いつからか俺は、地面に身を投げ出し空を見上げていたようだ。

「……ああ」

 確かめるように絞り出した声は、低く嗄れていて自分の声ではないようで。それでいて納得もいくような不思議な感覚があった。

 体を動かすのも億劫で。地面と自分の体が一体となっていると言われても信じてしまえるほどに、体も、頭も重くて。

 言うことを聞かない体に鞭打ち、やっとの思いで頭を起こして俺は独りごちた。

「いつもの、だな」

 ――そう、いつもの。

 わかってしまえばそれは至極簡単な話なのだ。これは夢、毎夜毎夜必ずと言って良いほどに見る夢なのである。

「うんざりするほど……だが、安心感を覚える悪夢なんてそうそう無いな」

 再び独りごちる。

 自分の夢の中なのだ、誰に遠慮するものでもないだろう。

 何もない地平線を確認するために起こしていた上体を再び地面に投げ出すと、不思議に綺麗に渦巻く血に覆われた空をぼうっと、眺めながら物思いにふける。

 これから起こることは、もう既に知っている。

 それこそ、うんざりするほどの回数をこの世界を繰り返しているのだ。嫌でも覚えてしまうほどの回数を、だ。

「そろそろか」

 ――その瞬間、大音声が世界を包んだ。

 空気が振動し、体に痺れがくるであろうほどの大音声である。同時に、砂埃が舞い上がり地面に巨大なクレーターを形作る。

 砂埃が晴れるとそこには、人間が向かい合わせで睨み合っているのだ。片や黒いもやを吹き出しぼろぼろの仮面の男、片やボロボロの白衣を纏った血まみれの背の低い女性。

 睨み合いを続ける両者は、両者とも狂ったような光を瞳に湛えてひび割れたのような笑顔を浮かべ微動だにしない。

 ――そう、そうなのだ。

 この世界は――毎夜毎夜繰り返されるこんな夢は、両者が全力で殺し合い続けるように戦い続けるまさに悪夢なのだ。

 無感情に視線を向けるその先には、いつの間にやら交戦が開始されていた。

 片や漆黒の槍ほどのサイズもある野立ちを構え、片や超熱量と極低温の歪な塊を武器にしている。

 終始優勢なのは、長大な野立ちを構えた仮面の男の方。むしろ比べるべくもなく、仮面の男の練度が異常なレベルだった。

 その男、そもそもが人間の域を超えている。

「やっぱりなのか」

 見慣れたはずのその光景なのに、俺は唇を噛み締めていた。と、同時に自分の無力を痛いほど実感することになる。

 夢だろうがなんだろうが一方的な虐殺を善しとは出来ない。してはいけないのだが、その気持ちがどうにもならないのは自分が一番わかっていた。

「わかってるさ」

 自分に言い聞かせるように呟く。

――わかっている。痛いほどに。

 何せ、嫌になるほど同じ展開を見てきたわけで最初からただ静観する訳じゃ無かった。身を挺してまでってのは格好つけた言い方だが、何とかしようと手を尽くしたが結局は夢なんだよこれは。

 何をしようが干渉なんて出来なかった。自分は、この場面に居合わせているようで、全然そうじゃないのだ。

「しっかり見ていろ、忘れるな」そんな風に言われているような気分だった。

 細い針で永遠と心を刺されるかのようなそんな時間。そこには既に諦めという罪も内包されているようにも思えた。

「ウォオオオオオオオ!」

 勝ち鬨が挙がった。

 いつものように、仮面の男が雄叫びを上げていた。そう、いつものようにどこか悲しげな喉を破かんばかりの悲鳴とも取れる雄叫びだ。

「――光が」

 仮面の男が消え入りそうな声で呟くと、世界は色を失いながらボロボロと崩壊していく。






 す  べて が光に   とけタ。









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