07.どこにいるの?(ミヤちゃん、混乱中)
ミヤはいなくなった幼馴染を捜した。
なんで誰も憶えていないの?
なんで。
なんで。
なんで。
なんでなの?
昨日、大好きな幼馴染の家に遊びに行った。
幼馴染は、すぐに戻って来ると言って玄関に向かうと、それっきりいなくなってしまった。
それも彼の甥っ子と一緒に・・・。
それなのに、いなくなった二人のことをなんでか誰も憶えていなかった。
学校に行けば机があるにも関わらず、彼の事を覚えている人は誰もいない。
彼の家に行って彼の義姉さんに尋ねれば、彼のことだけでなく自分が生んだはずの子供のことも憶えていなかった。
どうなってるの?
自分の両親に聞くが知らないという。
縋るような思いで家にあったアルバムを開けば、そこには、彼の位置だけ空白の写真が・・・。
なに、何が起こっているの?
もしかして、私、頭がおかしくなった?
空想癖なんてなかったはずよ。
気になって食事も喉を通らなくなった頃、田舎から祖母が尋ねて来た。
珍しい。
あまりこっちには来ないのに。
「おばあちゃん、こんにちは。」
私をよく可愛がってくれた祖母に挨拶すると、祖母はニッコリ笑って、こう言った。
「リュウ君は元気かい?」
「おばあちゃん!」
ミヤは涙が止まらくなった。
ここに竜を憶えていた人がいた。
私の空想じゃなかったんだ。
祖母は泣き出した私に驚いて、じっくりと話を聞いてくれた。
そして、いきなり拳を振り上げるとなんでか怒りを顕わに立ち上がった。
「どうしたのおばあちゃん。」
祖母は、慌てて怒った顔を笑顔に変えると、どこから出したのか黒く光る杖を私に差し出した。
「いいかい、ミヤ。これを受け取るには覚悟がいるよ。」
「覚悟?」
祖母は頷くと、本当に竜を取り戻したいならこれを受け取ればいいが、なんとなく会いたいだけなら彼の事を忘れた方がいいと言ってきた。
竜を忘れることなんて出来る訳ないのに。
ミヤは迷わず黒い杖を手にした。
途端、物凄い量の知識が頭になだれ込み、杖を持ったまま気絶しそうになった。
なにこれ。
何なの、この知識の量!
ミヤは流れ込む知識をなんとか整理しようとしたが、量の多さに圧倒された。
しばらく呆けたようにあふれる知識を素直に受け入れていると、竜がみんなの記憶からいなくなった理由が自然と頭に浮かんだ。
”異世界”に行ったのね。
なんて突拍子もないことを考えているの、わたし。
ミヤがそう思って傍にいた祖母を見ると、彼女は笑ってミヤに手を差し出した。
「おばあちゃん?」
「どうやら、杖を従えたみたいだね。さすが私の孫だ。」
「杖を従えた?」
「そうだよ。お前は異世界最強と言われている黒い杖の主になったんだ。これならすぐに、向こうの世界にお前を連れて行ける。」
おばあちゃんはそう言うと、いつの間にかおばあちゃんも手に握られていた白い杖を床にトンとついた。
ミヤが立っている床がぐにゃりと歪むとフワッとした感覚の後、視界が部屋の中から緑の森になった。
なにこれ?
私、夢を見てる。
混乱しているミヤの手を誰かが掴むと、緑の木々の間から空に浮かび上がった。
ミヤは空中に浮いていた。
うっそぉー飛んでる。
「さあ、行くよ。」
祖母はそう言うと、彼女の手を離した。
やだぁー、お・・・落ちる!
おちるぅー!
落ちちゃ・・・。
あれ、落ちない?
ミヤは空中に浮いていた。
「ほら、王都に向かうよ。」
祖母はそうミヤに声だけかけると、サッと風を斬るように彼女を置いて飛んで行ってしまった。
「まっ・・・まってぇー。」
置いて行かれないようにミヤも慌てて彼女の後を追った。