04.異世界へ
俺達が玄関に着くと、そこには遥の言う通り女が立っていた。
それも透き通るような銀髪に切れ長の眉、濡れて光る青い瞳、加えて触れれば溶けそうな白い柔肌だ。
うーん、俺の推測では、上から95・54・88の166cmと言ったところだろうか。
俺はイッキに生唾を飲み込んだ。
「君は?」
俺には珍しく、何とも間の抜けた問いを発してしまった。
その時の俺は、それほど慌てていたらしい。
後になって考えてみれば、この女に会ったばかりにそれからの俺の人生は、180度、転回することになった。
兎にも角にも、俺のこの問いに対して女は何一つ答えることなく、いきなり俺達の眼前に光る石を差し出した。
石の大きさは小指の先に乗るくらいだが、その光は青堂家の玄関をあまねく光で満たした。
俺はその一瞬で意識を失い、その場に頽れた。
だいぶ時間がたってから、俺の意識は戻ったようだ。
気がついて周囲を見てみると、かなりシンプルな部屋に寝ていた。
誰が運んだんだ
それにここは、どこだ?
俺はベッドから起き上がると部屋の中に立った。
途端、窓が開いているわけでもないのに、部屋の中に突風が起こった。
なんだぁー。
どうなってるんだ?
俺は疑問符をいっぱい出して、風が吹いてきた方を見た。
そこには、ギリシャ風の衣装を着たおっさんがいた。
「気がついたか、竜?」
「誰だ?」
「おやおや、薄情な 孫だな。」
「孫!」
俺は、そこに立っているおっさんを穴が空くほど見つめた。
馬鹿な、なんでこんなことが起こっているんだ。
あの人は何十年も前に死んだはずだ。
「残念だけど死んじゃいないよ。」
「そう見たいだよ!」
おっさんの背中からひょっこりと子供が現れた。
「遥。なんでお前がここにいる?」
「知らないよ。気がついたらこのおじぃちゃんの上に、落っこちちゃったんだ。」
竜は顔を覆った。
「あんたは何がしたいんだ、爺さん。」
おっさんは困ったような顔で、自分の孫とひ孫をみると二人を食事に招いた。
二人は、なにはともあれお腹が空いていたので、自分たちと血のつながった爺さんの後について、テーブルに着くと、出された食事を食べ始めた。
「どうだ。上手いか、遥?」
「うん、美味しいよ。おじいちゃん。」
遥は何の疑いも抱かず、爺さんに笑顔を返した。
俺はと言えば、無言で食事をしながらも、何がどうなっているのか状況を把握するために、周囲に目を配った。
この食卓には、俺に光る石を見せてこの状況を招いた原因と考えられる銀髪の女性が、甲斐甲斐しく俺たちの為に食事を運んで来ては、給仕をした。
それ以外の人間は、見た限りいないようだ。
俺達が食事をしているテーブルも周囲の家具もかなり凝った作りで、お金がかかっていると一目でわかる代物がそこらじゅうに溢れていた。
どうやら爺さんは、ここでお金に困っている様子はないようだ。
俺がそんなことを考えているうちに、食事は終わっていた。
先程の銀髪の女性が食後の飲み物を持って現れた。
俺はそれを飲みながら、爺さんに声をかけた。
「もうそろそろ、なんで俺達をここに呼んだのか教えてくれ。」
爺さんは、飲み物を一口飲んでから俺を見た。
「知りたいか?」
当然、俺は頷いた。
「詳細に?」
もちろんだ。
爺さんは長くなるがと前置きして、俺達をここに呼んだ理由を話始めた。
「さて、どこから話そうかのぉ。」
おい、どうでもいいから早く話せ!
俺は、なかなか話を始めない爺さんに心の中で突っ込みをいれた。