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20.爺さんとシンイチ叔父さん

「アイリス、私と結婚して下さい。」


伸一しんいち。」


「ええい、何を言っている伸一。そんなことは儂が許さん。アイリスは儂の”魔法使い”だ。」


「いやなら魔法を使って。」

 伸一は隣で喚いている人物を無視して小さな声で呟くと、少し屈んでアイリスに口づけた。


 二人の顔が離れる。


 そこには見つめ合ったまま真っ赤になった二人と、それを阻止しようとして守備隊の隊長に押さえつけられている爺さんが真っ赤になって騒いでいた。


「良いの?私はあなたよりかなり年・・・。」


「アイリスが良いんです。あなたが・・・。」

 またもや二人の顔が近づいた。


「お前、いいかげんに離せ。」


「俺も色々あるんですよ、王子。」

押さえつけている隊長が辛そうな顔で爺さんを羽交い絞めにしていた。


「お前は首だぁー。」


 暴れる二人を背景にして微笑みを浮かべて招待をつげるシンイチ叔父さんとミヤの祖母の二人が映っていた。


 この手紙をミヤは部活が終わった帰り道で、俺に渡してきた。


 それには今の映像が手紙と一緒についていた。


「すごいな向こうの手紙は。」

 俺は思わず歩きながらも手紙をまた開いて、それを前後左右に動かしてみた。


 だが手紙に付けられている映像は同じものを何度も再生しているだけだった。


「でっ、竜はどうするの?」


「そりゃ、シンイチ叔父さんの結婚式だから出席するさ。」


「ふーん、でっ、守にぃは、どうするって言ってた?」


「聞くな。」

 そうなのだ。


 兄貴にも招待状がミヤより早くシンイチ叔父さんから来てたのだが、肝心の異世界の存在を全く信じてくれず、爺さんが生きてる話も信じてもらえなかった。


 それどころか俺と遥が今と同じ映像を何度も見せたのにトリックだと言って譲らない。


 結局、俺と遥は兄貴を説得してシンイチ叔父さんの結婚式に一緒に出席することを諦めた。


 それでも、どうしてもその結婚式に出席したいと言い張った遥は、俺が預かって結婚式に出席することで話は決まった。


 ちなみに義姉さんは信じてるっぽいが、兄貴の手前何も言わずにこっち側で留守番をすることになった。


 それにしても兄貴は現実主義者の母さんによく似てるなぁ。


 ちなみに母さんは数十年前にガンで亡くなっているから、これはシンイチ叔父さんに聞いた話でもある。


<仕方なかろう。信じないものは信じない。言うだけ時間の無駄だ。>


 そういうもんかな。


<そういうもんだ。ところで主は何をアイリスに贈るのだ?>


「そう言えばプレゼントなんて考えてなかったなぁ。どうする竜?」


「それを俺に振るか?」


「そうなんだけど、何送っていいかわからないんだもん。」


「確かにそうだけど、まだ時間があるんだし後でいいだろ。」


「それもそうだね。」

 俺達は考えるのをそこで止めると、その日はそれぞれの自宅に帰宅した。


 もっともそれから数日後には異世界からまた手紙が届いた。


 内容は長々とした買ってきてほしいものリストで俺とミヤ宛になっていた。


 あまりの量の買い出しにお金は向こう持ちとはいえ、この量の買い出し自体がもう苦行としか言いようがない。


 もうこれはある意味、無償のプレゼントだと俺とミヤの意見が一致した。


 ちなみに買い出す量が多すぎて、それが買い終わったのはちょうど招待された当日だった。


 当日は正装した俺と遥がミヤの自宅に向かい、ミヤと彼女の両親が一緒にクロの魔法でミヤの家から異世界に飛んだ。


「あら、良いお天気ね。」

 着いた場所は爺さんの屋敷から少し離れた教会の傍だ。


「いい結婚式になりそうだね、おかあさん。」


「そうね。じゃ、信夫さん。私たちはお義母さんの準備を手伝いに行きますね。」


「ああ、わかった。準備が整ったら知らせてくれ。」

 ミヤの父はそう言うと、教会の前で女性二人と別れ、俺と遥の三人で花婿になるシンイチ叔父さんの部屋に向かった。


 トントン。


 ノックをすると中からシンイチ叔父さんがドアを開けて出てきた。


「よく来てくれたな、竜に遥か。」

 シンイチ叔父さんが遥を抱き上げた。


「遥はまた大きくなったな。」


「叔父さん。僕もう子供じゃないからやめて。」


「ああ、そうか悪かったな。」

 遥を降ろしたシンイチ叔父さんは、僕らの後ろに立っていたミヤの父に気がついた。


「ノブ、来てくれたんだ。」


「なんだか複雑だがな、一応来たよ。」


「なんで複雑なんだよ。」

 シンイチ叔父さんがむくれた声で非難した。


「そりゃそうだろ。アイリスさんと結婚するんだ。俺はお前を”父さん”と呼ぶことになるんだぞ。」

 ミヤの父が本当にイヤそうな声で言ったので、俺はブッと吹き出してしまった。


「ああ、そう言えば。」

 笑いをこらえている俺の横でシンイチ叔父さんがしょんぼりと肩を落としている。


 何かあったのだろうか?


「どうかしたの、叔父さん?」

 遥が心配そうにシンイチ叔父さんに抱き付いた。


「ああ、ちょっと不安なんだ。」


「何が不安なんだ、シンイチ?」

 ミヤの父もしょげ返っているシンイチ叔父さんを気遣って、肩を軽く叩いた。


「最近よく言われるんだ。あなたはあの人みたいにやさしいのねって。それって俺がアイリスの前の夫に似てるってことじゃないのかって・・・。俺って彼の身代わりじゃないかって思って・・・。」

 あまりの告白に俺とミヤの父は固まった。


<いや、それはない。>

 俺の胸ポケットに収まっているクロがそう呟いた。


 なんでだよ。


<そりゃ似ておらんからだ。>


 なんで似てないってわかる?


<お前の祖父とお前は似ているか?>


 いや、似てないよ。


 むしろ兄貴の方が隔世遺伝かってほど似てるなぁ。


 俺はどちらかって言うと婆さん似だ。


<そういうことだ。>


 あっ、なるほど。


 ブッフフフ。


「それはないって。むしろお前の父親の方がまだ似てるよ。お前は母親似だろ。」

 ミヤの父が呆れ顔でシンイチ叔父さんに説明する。


「ああ?」


「まだ、わからないのか。」

 ミヤの父親はバコッとシンイチ叔父さんの頭を殴りつけた。


「俺にとってはどうでもいいが嫌なら今すぐこの結婚式を中止しろ。それが出来ないならもう考えるな!」


「ノブゥー。」

 シンイチ叔父さんがミヤの父に抱き付いている。


 花婿がマリッジブルーってあるんだな。


 俺は変なことに感心しながらよくわかっていない様子の遥を連れて、先に式が開かれる講堂に向かった。


 そこには懐かしい顔をした面々がいた。


「隊長!」


「よう久しぶりだな。」


「あれ、副隊長は?」


「さすがに誰もいないわけに行かないから、あいつは留守番だ。とは言え、二次会では合流するよ。」


「そうですか。」

 そう言えば、なんで隊長たちはシンイチ叔父さんの味方をしていたんだろ。


 本当だったら王子である爺さんの方に味方するんじゃないのか?


 ふとそう思ってそれを聞いたところ、隊長は遠い目をして色々あったんだとしか言わなかった。


 シンイチ叔父さん、一体隊長に何したんだ?


「お兄ちゃん。」

 遥がザワザワしてきた会場に気づいて俺の袖を引っ張った。


「そうだな、もう席に行こう。」

 俺は遥を連れて親族席に座った。


 そのすぐ後にはミヤ達もやって来た。


 教会の鐘が鳴って荘厳な雰囲気の中、ミヤの父に連れられた彼女の祖母が現れた。


 目の前ではシンイチ叔父さんがさっきとはうって変わって、満面の笑みで彼女を見つめていた。


 ミヤの父からシンイチ叔父さんに渡された手を二人はお互いに固く握りあうと祭壇に振り向こうとした瞬間、扉をバタンと開けて爺さんが飛び込んで来た。


「その結婚、待っ・・・。」

 最後まで言い終える前に白い杖を手に持った花嫁が、教会の外まで爺さんを弾き飛ばした。


 爺さん、恥ずかしすぎだよ。


 俺と遥は他人の振りをすることにして、すぐに視線をそらした。


 それから式は滞りなく終了し、花嫁と花婿を送り出した俺達は、またあの酒場で打ち上げをしている。


 ちなみに未成年の遥は、ちょっと複雑な顔のミヤの父とミヤの母が先に連れて戻ってくれた。


 もちろん元の世界に送ったのはクロだ。


 なので今は、この間の再戦をミヤとジョッキ片手に繰り広げていた。


「よし、今回私が勝ったら竜は私の花婿だからね。」


 なんか不穏なことを聞いた気がしたが頭が回っていなかった俺は、そのまま手にした酒を飲み干してテーブルに突っ伏した。


<不憫だな、小僧。>


 胸ポケットに収まっていたクロからそんな声を最後に聞いて、俺の意識はそこで途切れた。


 チーン。


 カンカンカーン


 無情にも戦いの幕はそこで降りた。

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