02.怪我
「瞳。」
これは俺にとって苦い思い出だった。
高校に入ってすぐの頃、俺はたまたまグランドの不整備で足を挫き、保健室に担ぎ込まれた。
俺にして見ればこんなけがは、道場で日常茶飯事に起こっているので大したことはないと言い張ったのだが、助っ人を頼んで来たサッカー部の部長が試合に出られなくなると大変だからと大騒ぎして、無理やり連れて行かれた。
「まあ、どうしたの?青堂君。」
保健室のグラマー美女、全男子高校の憧れの人が俺の足に手を這わせた。
「星野先生、竜が足を捻ったようなんです。」
俺の足を触る先生をサッカー部の部長が、心配顔で後ろから見ていた。
俺はすぐに練習に戻りますと言ったのだが、あの巨乳を揺らして”念のため、医者に行きましょう”と言われて断れず、結局、薬の匂いがプンプンする病院に連れて行かれた。
病院に着くと、星野先生は心配だと診察室まで一緒についてきた。
診察室には、いかにも神経質そうな顔の女医が白衣を着て座っていた。
女医は俺を見て少し目を瞠った後、質問をしてきた。
「どうしたの?」
「グラウンドで足を少し痛めました。」
「わかったわ。ズボンを脱いでそこに横になって。」
俺は言われるまま、傍に置かれていた簡易ベットにズボンを抜ぐと横になった。
女医は両足を隈なく触ると、また質問をしてきた。
「痛めたのは足首だけかしら?」
質問の間も、なぜか足首だけでなく太腿までサワサワと触られた。
「はい、肩を少し打ちましたがたいしたことは・・・。」
俺の答えに女医は目をキランと光らせた。
「大したことがあるかないかを判断するのは、医者である私よ。肩を見るから上着も脱いで頂戴。」
俺は起き上がるとしかたなしにTシャツを脱いだ。
早くここからおさらばするのには、言う通りにした方がいい。
しかし、これでパンツ一丁だ。
なんとも恰好が悪い。
俺は診察室まで一緒についてきた星野先生をチラッと見て、そんな事を考えた。
女医は、今度は俺の肩や胸を撫でまわし始めた。
「あなた、何かスポーツをやっているの?」
女医はその質問の間も盛んに俺の肩や胸を撫でまわしてきた。
「ハァー、いろいろ・・・。」
質問の間も手が俺の胸を這い回るので、それが気になってしかたなかった。
「そうなの、いろいろなスポーツをしているのね。」
女医は、質問しながらなおも胸を触る。
気がつくと、その手がだんだんと下半身に近づいてきた。
おい、ちょっと待て。
どこまで触る気だ。
さすがの俺も何か言おうとすると、後ろから違う声が聞こえた。
「あのぉー。」
星野先生が心配して、女医に話しかけたようだ。
「なにかしら?」
女医は不機嫌そうに答えた。
「そのー、怪我は大丈夫でしょうか?」
「ああ、これね。大したことはないわ。これだけ鍛えてあるなら、三日もしないうちに腫れも引いて治るでしょう。」
女医は名残惜しそうに俺の胸から手を離すと、キーボードで何かを打ち込んだ。
「湿布薬を出しておくから、三日間は腫れが引いても貼っておきなさい。億劫がってほったらかさないように。」
女医はそう言うと、服を着終えた俺を名残惜しそうな目で見てきた。
「ありがとうございました。」
俺はお礼を言うと、星野先生と連れだって診察室を出た。
「よかったわね。たいしたことがなくて。」
星野先生の手が俺の手を握った。
「はい。」
俺は隣で支えてくれている彼女の胸が腕に触る感触が気になって、生半可な返事をした。
「青堂様、青堂様。」
なんとも言えない気分になった時、案内が入った。
「ちょっと、そこの椅子で待ってて。」
星野先生は傍にあった椅子を指差すと、湿布薬を取りにロビーに向かった。
俺は椅子に腰かけると、頭の下で腕を組んだ。
今頃になって、練習の疲れが出てきたようだ。
自然と瞼が重くなる。
「青堂君。」
俺の事を誰かが揺すった。
「あっ、先生。」
「眠そうね、大丈夫?」
星野先生は屈んで俺を覗き込んで来た。
俺の目の前にボリューム満点の胸が・・・。
俺は、大慌てて椅子から立ち上った。
星野先生はそんな俺の態度に少し笑むと、二人で病院を出た。
帰り道、星野先生は自分のアパートに寄ろうと言い出した。
「でも、・・・。」
俺がマンションの前で躊躇すると、星野先生は俺の腕を掴んで引っ張った。
あのボリューム満点の胸がまたポヨンと腕に触る。
俺の理性が・・・。
そんな俺の心の内を知らない星野先生は、さらに強く俺の腕を引いた。
「ねえ、気にしないで。どうせ一人暮らしで誰もいないんだから。」
「しかし・・・。」
渋る俺に、星野先生はさらに腕に胸を押し付けると、憂い顔で囁いた。
「私の部屋に来るのは、イ・ヤ?」
イヤじゃないです。
俺の理性は、ここで呆気なく、煩悩に変わった。