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19.異世界からの帰還

 グビッ

 フゥー


 俺は目の前に置かれたジョッキの酒を一気飲みした。


 やっと爺さん念願の妖魔退治が終了し、いつもの店で守備隊の面々と只今、打ち上げの真っ最中だ。


 ちなみに、本隊から零れ落ちた初級クラスの妖魔は、守備隊の面々と俺、それに復活したミヤと彼女の祖母が加わると、あっという間に駆逐されてしまった。


 そして、もうすぐ元の世界でも夏休みが終わる。


 なので、俺とミヤも今日の騎士団との打ち上げが終わったら、向こう側に戻る予定だ。


 もちろん今回はクロがいるので、前回みたいにこっち側の人間の記憶から向こう側に戻った人物の記憶が消去されることもなく、それどころか向こう側に戻った時に、俺達がいなかった空白時間の辻褄合わせもクロがあっさり出来ると断言していた。


「あら、もう空なのね。はい、どうぞ。」

 この間から誘われ続けている巨乳のお姉さんが、新しいジョッキに並々と注がれた麦酒を持って来てくれた。


 背中にムニュッという感触がして、横からジョッキが俺の目の前に置かれた。


「さあ、じゃんじゃん飲んでちょうだい。」

 俺は背中のムニュッを堪能しながら、ジョッキに注がれた酒を喉に流し込んだ。


 はぁー、背中のこの感触。


 ムフッ、たまらん。


<うむ、その気持ちはわかるがそろそろ離れたほうがよいぞ。>


 頭の中にクロの声が聞こえた。


 途端、どこかで聞いた声がして、隣にドンとそいつが座った。

「ちょっと、こーんな端で何してんの?」


 目が据わっている。


 よく見るとミヤの手には半分空になったジョッキが握られていた。


 へっ、まさか飲んだのか、それ?


 ヒィッーク。


「ちょっとそこのおねえさん。ワタシのものに勝手に触わらないでちょうだい!」


 おい、いつ俺がワタシのものになった。


 寂しいことにその宣言の後には、背中のムニュッがなくなった。


 逆に俺の腕にしな垂れかかるミヤの胸は、ムニュッではなく・・・。


<それ以上考えん方が身のためだぞ。>


 俺はクロの助言に従って思考を目の前のジョッキに戻した。


 くそ、もうこうなれば飲むだけだ。


 俺は諦め次いでにその場で立ち上がると、腰に手を当てヤンヤと喝采を受けながら一気飲みを披露した。


 ウォッシャー


「いいぞ、小僧。」

 さらに守備隊の面々から催促のヤジが飛んだ。


 もう一度やろうとすると、なんでか俺の隣にいたミヤが立ち上がって俺と同じことをし始めた。


 おっしゃー。


 プッハァー。


 ミヤは泡だらけの口元を袖で拭うと、俺にニヤリとした視線を向けた。


 ムッ。


 よし、その勝負、受けて立とうじゃないか。


 俺はジョッキを巨乳のおねえさんから受け取ると、一気に酒を喉に流し込む。


 どうだ!


 ミヤも負けじと受け取ったジョッキに口をつけた。


 それから俺とミヤの一気飲み対決が始まった。


 いいぞ、ヤレヤレ。


 周囲から勝手なヤジが飛ぶ。


 かなり飲んだがミヤは微動だにしない。


 くそっ、ミヤめ。


 サルなのか?


 俺は何杯めかは定かではないが、最後にはミヤに飲み負けてテーブルに突っ伏した。


 恐るべし底なし女。



 パッタン。



 うーん、頭が痛い。


 俺は頭痛でおもわず呻き声を上げた。


「はい、竜くん。お水よ。」

 なんでか隣で義姉さんのやさしい声がして、隣にある机にコップが置かれた。


「おい、麗華。酔っ払いなどほっておけ。未成年なのに夏休みだからって酔っ払うなんて、言語道断だ。」

 兄貴の声が頭にガンガン響いて、思わず頭を手で押さえた。


 それでも続くお小言に俺は呻きながらも、目を開けた。


「いいかげん寝てばかりいないで道場の掃除でもしろ、竜。」

 兄貴はそういうと水の入ったコップの隣に雑巾を置くと、心配そうに俺を見ていた義姉さんをつれて部屋を出て行った。


 俺の開いた眼には、自分の部屋が映っていた。


 あれ、いつの間にこっち側に戻って来たんだ?


<酔いつぶれて爆睡中にだな。>


 えっ、なんでクロ声が聞こえるんだ?


「お兄ちゃん、ミヤちゃんが来たよ。」

 起き上がった俺の部屋にミヤを連れた遥が現れた。


「遥!」


「おはよう、お兄ちゃん。」


「まだ着替えてないの、竜?」


「へっ、なんで着替える必要があるんだ?」


「別に夏休みの宿題を見せて貰う必要がないんな・・・。」


 そうだった。


 夏休みの宿題!


 俺は頭痛に顔を顰めながらもタンスからTシャツを出すと、それに手を通した。


 それにしてもなんでこいつはあれだけ飲んでも酔わないどころか、二日酔いにすらならないんだ?


<そりゃ体質だな。>


 ああ、そうかよ。


 俺は負け感に打ちひしがれながらも宿題を片付けるためにミヤについて、自分の部屋を後にした。


 それにしても俺って、せっかく異世界にまで行ったのに良いことが何にもないとか、ホントついてないな。


<まだまだこれからの方が酷くなるぞ。>


 嫌なクロの予言に俺の心はもう折れる寸前だ。

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