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17.東西妖魔とおやじたち

 俺たちが爺さんの屋敷に戻ってくると、その建物から見知った人物が現れた。


「おまえ・・・。」

 爺さんがあんぐりと口を開けて馬上で固まった。


「父さん!」

 ミヤも同じように固まっている。


 な・・・なんで、シンイチ叔父さんがここにいるんだ?


「まあ、さすがね。もう討伐出来たのね。」

 そんな発言をしたミヤの祖母をシンイチ叔父さんが抱き上げて、馬から降ろした。


「もちろんです、アイリス。」

 嬉しそうなシンイチ叔父の声に爺さんが我に返ると慌てて馬から降りた。


 後ろにいた俺には、爺さんからの殺気がシンイチ叔父に向かって飛んでいた。


「おい、なんでお前がここにいるんだ?」


 爺さんの声をマルッと無視したシンイチ叔父さんは、ミヤの祖母をそのままギュッと抱きしめた。

「お怪我がないようで安心しました。」


「おい。いい加減にアイリスを離せ、伸一しんいち。」

 何時までもくっつている二人に爺さんの眉間にブチッという文字が浮かんだ。


 ミヤの祖母がシンイチ叔父さんに両腕を離してくれるように声をかけると、彼は抱擁を解いて彼女の腰に手を回した。


 シンイチ叔父さん、相変わらずだなぁー。


 何とも言えない空気の中をミヤの父は溜息を吐くと、シンイチ叔父さんに声をかけてくれた。

「伸一、取り敢えず屋敷に入らないか?」

 ミヤの父は率先して歩き出した。


「わかったよ。相変わらず細かいなぁ、ノブは。」


「お前はほんと昔っからアイリスさん以外は、なにも見えてないよな。」

 ボソリとミヤの父からそんな呟きが聞こえた。


 全員で屋敷に入ると、そこにはさらに守備隊の隊長と副隊長がなんでか俺たちを待っていた。


「あなたたちも来ていたの。」

 ミヤの祖母の呟きにシンイチ叔父さんが敏感に反応した。


「アイリス、追い出しましょうか?」

 シンイチ叔父さん、いつもながら反応がすごいなぁ。


 俺は思わずシンイチ叔父さんの一途な行動を眺め、それに対して彼の行動を見事にスルーしているミヤの祖母を見てある意味感心した。


 ミヤの祖母はシンイチ叔父さんの声に答えることなく応接間にいる全員に座るように言うと、白い杖を出して目の前に食事とお茶を出してくれた。


「とりあえず食べながら状況を説明して・・・。」


「アイリス、東はもう妖魔討伐は終わっています。」

 シンイチ叔父さんがミヤの祖母の視線を自分に戻そうと彼女の話を遮ると、見えない尻尾をぶんぶん振って、褒めて褒めてと彼女を見ている。


「まあ、さすがシンイチね。それで西は?」

 彼女はニッコリ笑ってシンイチ叔父さんを褒めると、すぐにミヤの父に視線を向けた。


 視線を向けられたミヤの父である信夫はシンイチ叔父さんに睨まれながらも、なんとか東の妖魔退治を終えたと説明した。


「ミヤ。」


 ミヤが祖母の問いかけに黒い杖を出し、俺を見た。


 はいはい。


 俺が通訳すればいいんだろう。


<洞窟はここからすぐ近くの”魔の森”に現れる。>


「洞窟はここからすぐ近くの”魔の森”に現れるって。」


「お前、杖の声が聴こえるのか?」

 爺さんがなんでか大慌てで俺に聞いてきたので、俺は素直に頷いた。


「いつからだ?」


「えっと、そうだな。東の妖魔討伐前には聞こえるようになってたよ。」

 隊長たちとミヤの両親がいるのでソーセージが絡んだ件の説明が出ないようにそう答えた。


 そんな俺の説明を聞いた爺さんは、なんでか何かを考え込んだ。


 なんだ急に?


 なんかあるのか?


「そうか。」

 爺さんはポソリとそう言って、黙り込んでしまった。


「何かあるのか?」

 俺は急に不安になって爺さんを問いただそうとした。


 するとミヤの祖母が見かねて説明してくれた。


「黒い杖の声が聞こえるということは、杖と繋がっているっていうことなのよ。」

 俺が不可解な顔でミヤの祖母を見た。


 なんだその繋がっているっていうのは?


「そうね。一番わかりやすいのは・・・今まで杖がミヤだけの魔力を貰っていたのだけど、今度は杖があなたとも繋がっているので、杖はあなたからも魔力を貰えるようになったというのが一つあるわね。」


「あれ、でも俺。それほど腹減らないけど。」


 そうだ。


 ミヤほど食べたいとは思っていない。


 まっ、確かに以前よりは食べるようになったが、ミヤの異常な食事量に比べると普通だ。


「それは、たぶん魔力量はミヤの方が多いからでしょうね。でも、ミヤも以前ほど食べなくなっているんじゃないかしら?」

 ミヤの祖母の質問に彼女が素直に頷いていた。


「そう言えば、そうかも。」

 ミヤが肉に噛り付きながらそんなことを言った。


 ぜんぜん説得力がないな、今のその発言。


「そのうち食事量も以前に戻るわよ。」

 ミヤの祖母がそういいながら、ホッとしたようで肩の力を抜いていた。


「良かったわね、ミヤ。」

 そこに大盛りのちらし寿司を持った黒髪の女性が部屋に入って来た。


「おかあさん!なんでここにいるの?」


「そりゃ、信夫さんがいるからよ。」

 ミヤの母はそう言うともって来たちらし寿司をテーブルに置くと、それをミヤの父によそってあげた。


「ありがとう、莉愛りあ。」

 ミヤの母は嬉しそうに夫の隣に座ると甲斐甲斐しく世話をする。


 その周囲にだけ大量のハートが飛び交っていた。


「でっ・・・守備隊の方は、どんな状態なのかしら?」

 ミヤの祖母が義娘が持ってきたちらし寿司を食べながら守備隊長と副隊長に顔を向けた。


「洞窟が出現次第、討伐にすぐ出発出来るように準備は終わっています。」

 隊長と副隊長もちらし寿司をてんこ盛りにした皿を顔の前まで持ち上げるとスプーンを使ってかき込むように、それを食べた。


 途中”美味い、うまい。”と二人とも連発していた。


「よし。じゃ残りは洞窟にいる妖魔だけね。」


「お義母さん。西の妖魔討伐が終わったんですから”ちらし寿司”を食べたら、私と信夫さんは帰りますからね。」


「おい、莉愛りあ。まだミヤがこっちにいるんだ、私は帰らないぞ。」


「信夫さんは明日から出張でしよ。仕事どうするんですか?」


「いや、それならミヤだっ・・・。」


「あの子たちは学生で今は夏休みがあるんですから問題ないでしょ。あなたはそうはいかないじゃありませんか。」


 ミヤの母はそこまで言うと、ミヤの祖母を振り向いた。


「お・義・母か・あさ・ん。」

 一瞬、ミヤの祖母の肩がビクリと跳ねた。


 俺もその時のミヤの母の笑顔を見てしまい、思わず恐怖で心臓がはねた。


 こ・・・怖い。


「わ・・・かっているわ。食べ終わったらすぐに家に戻してあげますから。」


「ならシンイチも・・・。」

 爺さんの話は隣から割り込んだシンイチ叔父さんの声に遮られた。


「俺は帰りませんよ、アイリス。」

 シンイチ叔父さんはミヤの両親に俺達の面倒は自分が見るからとそう言うと、ニッコリと爺さんとミヤの祖母を見た。


 爺さんはイラついた顔でミヤの祖母は半分諦めたような顔で了承していた。


 まっ、俺も爺さんと二人よりシンイチ叔父さんがいる方がいいから爺さんの目線を無視して、シンイチ叔父さんがこっちにいるのに賛成した。


 俺達はそれからすぐに食事を終え、ミヤの両親を見送った。


 その後は隊長たちと洞窟が出現した時の討伐隊と俺達の連携の仕方を打ち合わせると、彼らも早々と屋敷を後にした。


「これで後は洞窟の出現を待つだけだな。」

 爺さんが考え深げな眼でミヤの祖母が出してくれた酒に口を付けた。


「そうね。もうすぐ決着をつけられるわ。」

 ミヤの祖母も酒が入ったグラスを持って窓辺に行くと、いつの間にか登っていた月を見ながらそれに口をつけた。


「アイリス、冷えますよ。」

 窓辺から部屋に入ってくる風がまだ少し冷たい。


 シンイチ叔父さんは自分が羽織っていた上着を脱ぐと、それを彼女の肩に掛けた。


「ありがとう。」

 ミヤの祖母の笑顔にシンイチ叔父さんの顔が真っ赤になった。


 それをソファーで見ていた爺さんは酒をグイッと煽ると、自分も窓辺に歩いていって二人の間に割り込むと、彼女がかけていた上着をグイッと脱がして自分が着ていた上着を脱いで、それを彼女の肩に掛けた。


「おい、何するんだ!」

 シンイチ叔父さんの手が爺さんの肩を掴んだ。


「ああぁ。お前こそ父親に逆らうなんて百万年早いわ。お子様はもう寝ろ!」

 爺さんがシンイチ叔父さんの手を払いのけた。


「俺がお子様ならあんたは、今にも死にそうなクソ爺ぃだろ。アイリスに近寄るなよ。」


「はぁあ、俺とアイリスはお前が生まれる前からの知り合いだ。お前になにか言われる筋合いはない。」


「何を言ってるんだクソ爺。アイリスを裏切ったあんたの出る幕はもうないんだよ。」


「裏切ってなぞいない。」


「裏切ってるだろ。」

 二人はお互いの襟首を掴んで睨み合った。


「じゃあなんで姉さんの後に、俺が生まれたんだ?」


「そ・・・それは・・・。」

 爺さんが口ごもった。


 パッタン。


 今まで窓辺でお酒を飲んでいたミヤの祖母が二人を止めようとしていた手を止め、シンイチ叔父さんが生まれた理由ウンヌンの所で、部屋から出て行ってしまった。


「「アイリス。」」

 爺さんとシンイチ叔父さんはお互いの掴んでいた手を離すと、二人とも出て行ったミヤの祖母を追うように居間からいなくなった。


「寝るか。」

 俺とミヤも居なくなった三人を追うようにそこを後にした。


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