14.アンラッキー。
その場にいた全員が全力で説得して、黒い杖はなんとか窓から投げ捨てられずに彼女の手の中に戻った。
そして、ミヤと俺はその日も、魔物退治をするために守備隊と合流して”魔の森”に向かった。
森に着くと、ミヤが不貞腐れたように黒い杖に灯りを灯すと昨日と同じ大きさの魔物をおびき寄せて魔法で黒い靄を消し、俺達がその後に止めを刺した。
隊長が率先して倒した魔物を運び出すと何を思ったのか。
ミヤがまた黒い杖に光を灯し、昨日と同じように魔物をおびき寄せ始めた。
おい、なにやってるんだ。
俺の心配を無視するように彼女は、それをさらに光らせた。
すると、バキバキバキッと木が折れる音が響いて、先程よりさらにデカイ魔物が現れた。
引き攣った顔の俺をミヤは無視するように黒い杖を上に掲げると、昨日と同じようにそれを一瞬で消し炭に変えた。
もう気が済んだだろうと声をかけようとした俺を無視して、それから三度、同じように魔物をおびき寄せるとそれらを消し炭にした。
それも毎回、段々とおびき寄せる魔物の大きさが大きくなっていった。
もう、本当にやめてくれ。
魔力切れになったらどうするつもりだ。
俺の内心を無視してミヤは呟いた。
「はぁ、気に入らない。」
そう言葉を発した後に盛大に彼女のお腹が鳴った。
「ミヤ!」
俺がミヤに昨晩、彼女の祖母から貰ったばかりの飴を渡そうとしたが、ミヤは自分で懐から飴を取り出すとそれをガリっと噛んだ。
「クロ。」
ガリガリと飴をかじりながらもミヤは、黒い杖を怒鳴りつけている。
黒い杖が光出した所でミヤが俺を見た。
「竜、手を出して。」
「手?」
俺は訳が分からないながらも手を差し出しすと、そこにミヤが光らせた杖を振れた。
少し熱くなったと思ったら黒い杖の光が消えた。
「どう?」
ミヤが問いかける。
「どうって、何が?」
「ちょっと聞こえてないじゃない。」
<そんなことはない。聞こえてるはずだ。>
「えっ、でも、聞こえ・・・。」
「えっ、今のって・・・。」
「良かった。聞こえたんだね。」
えー聞こえたって、今のが黒い杖の声か?
俺がパニクッていると、二人は珍妙な会話を俺の傍で繰り広げ出した。
<はあぁー。でもなんでこいつに儂の声を聞かせたいんだ?>
「だって誰かに聞こえてないと、痛い人に見られるじゃない。」
<なんだ、その痛い人って言うのは?>
「白昼夢を見てるような頭に花が咲いた人。」
ミヤが変な断言をする。
<じゃ、頭で考えて口に出さなきゃいいだろう。>
ごもっとも。
俺は心の中で黒い杖に同意した。
「だって、たまにクロの言葉を通訳するのがメンドイんだもん。これなら、いちいち通訳する必要ないでしょ。」
ミヤが俺を見た。
それは俺が代わりに通訳しろってことか?
そうなのか?
俺は頭を抱えながらもミヤを引きずって、傍に繋いであった馬に彼女を抱え上げて乗せると、魔物を運んでいる隊長たちより先にそこを離れ、昨日の食堂に向かった。
食堂に着くと、すでに料理の準備がされていて大皿が幾つも並んでいた。
いい匂いがそこかしこから漂ってくる。
ミヤのお腹がまた鳴った。
彼女はすぐに大皿が乗ったテーブルに陣取ると、それを抱えるように引き寄せかき込むように食べ始めた。
ガツガツガツ
ゴックン
パクパク
その食事風景を見ているうちになんだか食欲のなくなった俺は、傍を通った給仕のお姉さんに麦酒を頼んだ。
すぐにお姉さんは頷くと、デカイジョッキに入れられた麦酒を俺の前に運んできた。
「ありがとう。」
俺は持って来てくれたお姉さんにお礼を言って、それを飲み干した。
「あら、素敵な飲みっぷりね。酔わなかったら後でね。」
給仕のグラマーなお姉さんはそう言うと個室のトイレに視線を向けた後、俺達のテーブルを離れて行った。
えっ、今のって?
俺は思わず去って行くお姉さんの大きな尻をまじまじと見つめてしまった。
「ねえ、りゅ・・・う・・・竜。」
俺はいきなりミヤに隣から怒突かれた。
グエッ。
いまの入ったんだけど。
俺はテーブルに突っ伏した。
「ねえ、竜。今の人、なんて言ったの?」
どうやら聞こえなかったようだ。
俺がホッとしのも束の間。
なんでかそこで頭の中に声が響いた。
<酔わなかったらアトでと言っていたぞ。>
黒い杖から告げ口があった。
ミヤに物凄い顔で睨まれた。
おいおい、なんでお前に聞こえるんだ。
<そりゃまあなぁ。声が聞こえるようになるっていうのは、そういうことだからだ。>
はっ、そんなのアリか?
うそだろ。
これから何かを考えるたびにそっちに筒抜けか?
<ハッハッハッ。>
黒い杖から笑い声が響いてきた。
くそっ。
<まあ、そうぼやくな。武士の情けじゃ。誰かの煩悩については、主に聞かれない限りは黙っていてやる。>
おいおい、聞かれなければってことは、聞かれたら全部話ってことだろ。
<賢いのぉ。>
俺はミヤの前に置かれている黒い杖を睨み付けた。
「何、これ食べたいの?」
ミヤから骨付き肉を渡された。
俺は涙目で貰った肉に噛り付いた。
ええい、やけ食いだぁー。
俺はやけくそ気味にミヤの前で山盛りになっている大皿から適当に食べ物を掴むと、口に放り込んだ。
そして、目の端で通るたびにタワンと揺れる給仕のお姉さんの巨乳を見ながら、涙目で骨付き肉を麦酒で胃に流し込んだ。
なんで俺はこうもついていなんだぁー。
<ハッハッハッ。>
物言わぬ黒い杖を物凄い顔で踏みつけたミヤの気持ちが、この時痛いほどわかった俺だった。
ちなみに、やけ食いしている最中に守備隊の面々も戻って来て、昨日と同じようにミヤに粉をかけようとする連中が現れた。
それに怒り狂ったミヤがそこでドデカイ魔法をぶっぱなしそうにそうになるのを止めるため、結局、俺は彼女を担ぎ上げて早々と爺さんの屋敷に戻る羽目になった。
当然、お姉さんの誘いに応えることなんて出来なかった。
トッホホホ。
なんで俺はこうも不運なんだぁ-。
俺の心の嘆きを聞いたクロは、心から嬉しそうに笑っていた。
<フォフォフォフォッ。>