01.始まり
古い木造りの屋敷があった。
周りには堀がめぐらされた立派な造りになっていた。
ギャーッ
バタン
バギィ
男が道場から庭に転げ落ちるように出て来た。
「まいった。参りました。」
男はさらに頭を地面に擦り付け、土下座した。
「タクッ、修行が足りん。」
「竜、それくらいにしておけ。」
細マッチョの渋い男が道場の戸を開けて現れた。
青堂 守、26歳、男。
当家道場、27代目 師範兼青堂家の当主だ。
「兄貴!俺が何をしようが俺の勝手だ。」
俺は、その場で跳躍すると戸を開けて道場に入ってきた兄に飛び蹴りをかました。
俺は、青堂 竜、16歳、青堂家次男だ。
ただいま武道高校に通う高校2年生で、身長は182cmで結構長身だ。
武術の達人で今も冷やかしにやってきた自称道場破りの男を蹴り倒して、庭に放り投げたところだった。
そんな俺の飛び蹴りは、あっさり兄の守にブロックされた。
「甘いぞ、竜。」
逆に兄の蹴りが飛んできて、俺に綺麗に決まった。
グエッ
俺は体を九の字に曲げると、お腹を抱えるようにして蹲った。
「守さん。」
青堂 麗華、23歳。
当青堂家の嫁さんで俺の義理の姉だ。
身長165cm、体重55Kg、BHWは80・58・98のなかなかの美人だ。
ちなみに、兄と結婚するまでは俺のあこがれの人だった。
「麗華、なんだ。」
「守さん、やり過ぎです。」
お腹を抱えるようにして蹲っている俺に義姉は近寄ると、俺の背中を撫でて心配そうに顔を覗き込んできた。
「麗華、竜はそんなヤワな男じゃない。」
兄はそう言うと、さらに俺に飛び蹴りを加えてきた。
俺はスックと立ち上がると、それを両腕でブロックした。
「なかなか、腕を上げたな。」
兄は地面にひらりと立つと、もう一度蹴りを放った。
俺はそれを片手でブロックすると、兄の軸足を思いっきり踏みつけてやった。
グエッ
ザマーミロ。
俺がしてやったりと思っていると、道場の戸を小さい手で開けて甥っ子が入ってきた。
「お兄ちゃん。」
青堂 遥、5歳、男。
俺の甥っ子で兄の守の一人息子だ。
「なんだ?」
遥はにこやかに笑うと、元気な声で告げた。
「ミヤちゃんが迎えに来てるよ。」
「おっ、サンキュウ。」
俺は遥の頭を撫でると、玄関に向かった。
庭に引いてある砂利を足でザクザク言わせながら、玄関に続く木戸を背を丸めて通った。
「ミヤ。」
「ヤッホー。」
根岸 都、16歳、女。
バレー部の名アタッカーだ。
身長170cm、体重60Kg、BHW 78・65・90で、いちおう女だ。
なぜか、高校では俺よりミヤの方が女に人気があるようだ。
ちなみに、こいつは俺の幼なじみだ。
「ミヤ。悪いが制服に着替えるてくるから、中でジュースでも飲んでてくれ。」
俺は家の中にミヤを入れると、居間に案内した。
「義姉さん。」
俺が居間にミヤを連れていくと、いつの間にか居間に戻っていた。
「あら、ミヤちゃん、こんにちは。」
「お邪魔します。」
ミヤは肩にかけていたカバンを横に降ろすと、慌てて義姉に挨拶した。
「どうぞ、ゆっくりして行って頂戴。今、ジュース持ってくるからね。」
義姉はそう言うと、トコトコと台所に行くのに居間を出て行った。
「じゃ、ちょっと待っててくれ。」
俺は居間にミヤを待たすと、廊下の端にある自分の部屋に向かった。
この青堂家は、田舎のあるので、かなり広く屋敷の中には長い檜の廊下が続いていた。
もうかなり古いが金をかけて造ったらしく、今だに雨漏り一つなかった。
俺は長い廊下を足音を立てずに自分の部屋にいくと、障子を開けて部屋に入った。
すぐに汗でベトベトになった胴着を脱ぐと、学ランに着替えた。
この辺はかなりの田舎で、都会のようにブレザーと呼ばれるような洒落た制服ではなく、いわゆる黒い学生服なのだ。
俺はミヤが待っていたので急いで汚れた胴着を持つと、部屋を出ようとして足を踏み出した時、何かを踏みつけた。
慌てて足元を見ると、そこには白い髪留めが落ちていた。
「これは・・・。」
俺は思わず落ちていた髪留めを拾った。