正義の味方はホームレス その十一
決意を固めた翌日。四丁目にある警察署を尚武はみつめていた。
証拠になるのか分からないが黒覆面と手袋はいつもの紙袋に入っている。後は一歩を踏み出すだけだろう。しかし何故かその一歩が踏み出せない。
自分が怖がっていることに尚武は気がついていた。情けないと思いながらも、やはり前には進まない。
「おい、黒覆面ホームレス」
突然話しかけられたので振り向くと、そこには白と灰色の覆面ホームレスが立っていた。
「なんだ、見送りに来たのか」
「昨日の連絡から決意は変わって無いのか」
確認するように白覆面ホームレスが尋ねた。
「大分迷ったがな。すまない、突然のことで」
一度尚武は頷いた。
「もう返したんだな」
確認するように灰色覆面ホームレスが尋ねた。
「ああ、ベルトは返した。だから、私は単なるホームレスになったわけだ」
昨晩、尚武はロキに連絡を取りベルトを返すことを告げた。最初ロキは尚武を止めたが最終的には受け入れた。ベルトは水と洗剤で洗い指定されたベンチへと置いた。今朝にはベルトは無くなっており、ロキの番号にかけると、登録されていないと返された。
「なんとも情けない話だが、どうしても一歩が踏み出せなかった。しかし、白と灰色の覆面を見てやっと踏み出せそうだ。こんな弱い私を笑ってくれればいい」
「黒覆面……違うぜ」
「白覆面……どういうことだ?」
白覆面ホームレスは返答の代わりに覆面を外した。中からはあの少し尚武より年下の男の顔が出て来る。
続いて灰色覆面ホームレスも覆面を外す。やはり中からは、尚武よりも老けた白髪の男が出て来た。
「俺達はお前を送りに来たんじゃない。共に正義を果たしに来たのだ」
「正義を果す……だと? 白と灰色、何かしたのか」
「ああ……如意金箍棒を使ってホームレス狩りを病院送りにしたことがある」
「軽犯罪は幾らでも犯している。懺悔しないといけないことは幾らでも見つかる」
彼等を見て尚武は笑ってしまった。
「白と灰色よ、神器はどうしたんだ」
「当然返した。俺の罪がどれほどかはわからないが、如意金箍棒は押収されるだろうからな」
「同じく。死ぬことを強要されれば、そのままくたばるつもりだ」
「白と灰色よ。まったく、私に付き合う必要もないだろうに」
そして尚武は二人の前に手を出した。そこに二人のホームレスは手を載せる。
「さあ白と灰……いや、私達はもはや単なるホームレスだ。しかし正義の味方であることには変わりない。さあ、正義の味方 《ホームレス》として、正義を果しに行くぞ!」
「「「おお!」」」
掛け声と共に三人の正義の味方は警察署へ堂々と歩き出す。
自らの正義を信じ、悪と戦う為に。




