正義の味方はホームレス その八
翌日の夕方。尚武はロキの指令を受けて五丁目の公園へ向かった。そこで子供が木の上に鞄を引っ掛けてしまうからである。
予定の時刻に黒覆面と手袋をつけて向かうと、確かに三人くらいの子供が木の前で頭上を見上げていた。そこには確かに引っかかっている鞄がある。
だがそこまで来て尚武は困った。いくら怪力とはいえ木登りはしたことがない。こうなると、木を慎重に揺らして落としたほうがいいだろう……
すると、いきなり尚武の肩にぽんと手が置かれた。驚いて見ると、そこには昨日の白覆面ホームレスが立っていた。
「よう、黒覆面ホームレス……俺に任せてくれないか」
尚武は覆面から出ている彼の瞳を見た。そこから強い正義の意志を感じると、一度頷いた。
鞄は簡単に如意金箍棒で落とされる。少年達はそれをさっと拾うと一度お礼をし、鼻を押さえてさっと行ってしまった。遠くからは『くせえ! くせえ!』という子供達の声が聴こえる。
そのまま二人の覆面は人目のつかない公園の隅に行くと覆面を取った。
「助かったよ、白覆面。私では手に余ることだった」
「いや、俺こそ。昨日はすまなかった。俺は正義を焦っていたようだ。一人で全ての正義を成せるわけもない」
白覆面の中の人は尚武と同じくらいの年齢で、皺が目立つおっさんだった。煤けた顔はまさにそこまで顔を洗っていない証拠だろう。
尚武は手を差し出した。すると白覆面はその手をがっしりと握った。
「白覆面ホームレスよ、共に戦おうじゃないか」
「こちらこそ頼む、黒覆面ホームレスよ! さて、これからどうだ? 実はカップ酒を何本か買ってきたんだ。期限は切れているが焼き鳥もある」
「まるで絵に描いたような浮浪者の酒盛りだ」
「いいじゃないか、正義の仲間よ!」
こうして二人は近くの土手で一晩中カップ酒と焼き鳥を交わし合い、特撮ヒーローについて語り合った。




