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アースガルズの私様  作者: 富良野義正
放送主達の黄昏
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放送主達の黄昏 その四

 暗黒と喧嘩凸戦争の覇者



 初めからの少女のリスナーはどれほど残っているのだろうか。配信に記録されるコメントのIDは一週間で変化する。つまり一週間で誰か分からなくなる。もはや少女のシャツが透けるのを楽しみにしていた者達の痕跡は少女の生放送のタイムシフトには残ってはいない。


 アクシンの生放送のリスナーが求めているものは明らかに変わっていた。いや、リスナーの層が変わっていた。そして少女は、別にコミュ人数が増えれば良かったのでリスナーの期待に答えるように振舞ってしまった。


 喧嘩凸を自らするようにもなり、幾らもの配信主を泣かせることに成功した。その度にアクシンの名は広がりコミュ人数も増えていった。


 またこの時代の少女について残っているタイムシフトの動画は、負けた時のアクシンの行動力と脅威が含まれている。


 動画はいつものようにSDKえすでぃーけいJSのアップとクリック音から始まり、次に少し前に流行ったアニソンが流れ出す。


『わこつ』『アクシンわこつ』『また小学校休んでんの?』『くっさ! 乳くっさ!』

「ひでえな。私様の放送のリスナーひでえわ。マジでくさいんだけど、マジでさ」


『リスナーを煽るアクシンをビデオに収めてばら撒きたい』

「だからいい加減SDKから離れろっての! まったく……何が」



~~~~~ここから5分くらいだらだらなのでカット~~~~~



「昨日の続きやるからな。昨日の続き! 絶対今日クリアーするんだからな」


『それよりピーコッコーマンに凸しよう』

「ピーコッコマン? ああ、最近出てきた奴だっけ? 厨房の餓鬼なんて相手になんねえだろうが」


『中学生ってアクシンより年上じゃん』『中学生のビビるアクシン岩場に縛り付けて上から毒液垂らしたい』

「あーあー分かりましたよ。凸ればいいんだろ? 今放送やってんの?」


 ここでピーコッコマンのコミュニティのURLとスカ〇プIDがコメントに張られる。


「んじゃあ、かけるからな。ってか逃げたりしないよな。絶対私様にびびるんだろうしな」

《もしもし》


 幼さが残る声が動画に流れる。それこそ中学生配信主ピーコッコマンの肉声である。


「もしもしじゃねえよ。お前、なんか面白いことやれよ」

《は? ああ、アクシン? アクシンかよ》

「アクシンかよじゃねえよ。早くやれよ」

《うるせえよお前がやれって。いきなり何? スカ〇プかけて面白いことやれって、頭おかしいんじゃねえの》

「お前の方がおかしいだろ! 面白いことやるから放送してんじゃねえのかよ!」



~~~~ここからこんなやり取りが20分続くのでカット~~~~~



《じゃあコミュ爆破してよ。そうしたら俺の負けでいいからさ》

「お前がコミュ爆破しろよ。そこからだろうがよ!」

《何? 小学生だからびびってんの? びびって》



~~~~カット~~~~~~



《ねえねえ分数もわかんねえの? マジで? マジ????》

「うるせえ餓鬼が! くたばりやがれ!」


 そう言ってアクシンはスカ〇プを切ってしまった。それからピーコッコマンの笑い声が少女のパソコンから流れているのがわかる。


『アクシン負けたwwwwwwww』『中学生にフルボッコwwwwwww』『wwwwwww』『分数も知らない不登校小学生wwwwwww』

「黙れ! 分数など知らなくても生きていけるわ!」


 アクシンの怒りも虚しく、沢山の『w』の文字が流れていく。まさに激流のような流れはアクシンがこの喧嘩凸に負けたことを如実に示していた。


 だが、この暗い瞳の少女がこれだけで終わるのだろうか?


「何が聖徳太子だ! 何が地図記号だ! あの餓鬼、絶対に許さねえからな……リアルで泣かせてやるからな!」


 この敗北の動画は単品でもあがっている。というのは、この動画には恐るべき先があるのだ。




 次に映るのは、若い男の姿だ。いや、幼いと言っていいだろう。彼こそが最近名が売れ始めている中学生配信主ピーコッコマンである。動画は彼が中学生らしい笑顔で笑っているところから始まり、すぐにスカ〇プの着信音が響く。


「ん? 凸か? ああ、小学生じゃん。マジで懲りねえな」


 そう言ってピーコッコマンはカチャリとマウスをクリックするのが映っている。


《聴こえる? ヒデヨリ君、聴こえる?》


「………………」


 間違い着信か? いや、そんなことは無い筈だ。いや、間違いではないのは如実に少年の表情から笑顔が消えた事から分かる。


《お前、本名ホンダヒデヨリだろ? 市立…………中学校の(動画消去対策で中学を特定する音声が消されている)》

「おま……な、何で!」

《どうだ? 本名ばれされた気分は! なあ、なあ、どんな気分だ!》


 何てことだ! どのような方法を取ったのかは分からない。だがアクシンはピーコッコマンの本名と中学校を特定したのだ!


「いや……だ、だから何だよ! ヒデヨリが何なんだよ! てめえ、そんなんで俺がびびると思ってんのかよ! それくらいでよ……」


 彼の言葉から段々と弱気の色が伺えるようになる。当然だ。こんな煽り合いをしているのに本名がインターネットでばれるのに恐怖を覚えない中学生がいるのだろうか。


《別にビビんなくてもいいから。とりあえずお前、推薦受験するつもりだろ? だから学校がちゃんと判断できるように連絡しておいてやったぜ。感謝しておけよ》

「は……ま、そんなことできるわけねえだろうがよぉ! いい加減にしろって……」



~~~~それから暫く個人情報の垂れ流しの為カット~~~~~~



「う……うう……」

《なあヒデヨリ君、どんな気分だ? 恥ずかしい趣味を暴露されてな? なあ、その写真もう放送で写しちまったぞ? なあ、なあ?》


 何てことだ! もうピーコッコマンはもう反撃する余裕も無いくらいにボロボロだ! この光景には笑って見ていたリスナーさえアクシンにドン引きしている!


「ちょっと、開けるからね」


 突然ドアのノック音が響き、顔を真っ青にしたピーコッコマンの母親が入って来る。


「だから……勝手に入ってくんなって言ってるだろうがよ!」

「あんた、今学校から電話が来て、ネットで悪いことしてるんですって。先生がやめないと推薦取り消しもありえるって連絡が来たの」

「な……な、そんなの、関係ねえだろ! 配信は配信で、インターネットのことだけだろうが!」

「あんたがそう言ってもね、みんなそう思わないの。あんた何やってんの。どういうつもりなの」



~~~~これから半泣きのピーコッコマンと親との口論が続く~~~



 なんと酷い光景なのだろうか。


 普段粋がっている中学生の男子が、あのアクシンを倒した男が、生放送の画面の前で泣きながら叫び、親が困惑した表情で説教じみた事を言っている。


 その中で、一人の大爆笑が響いている。


 ニヴル・ヘルの女王が訪れる者を祝福するような禍々しい笑い声とニヴル・ヘルに落ちた者のような悲痛な泣き声はノンカットで録画されている。別の動画サイトならば無修正版がアップロードされているのだろうが、BANが怖ければこれ以上の詮索はしないほうがいいのだろう。

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