名状し難き冒涜的なアースガルズの神様 その十三
町外れの一角に、ある精神病棟がある。
人との関わりが精神病を悪化させるのだろうという考えで創られたような場所で、薬物治療を完全に否定した暗い施設だった。
その夜、一室の鍵のかかった部屋に、一人の男がいる。
男は必死に手帳へ文字を書き込んでいる。
その部屋の壁には英語の文字や古代のルーン文字、中国語などで単語がチョークでびっしりと書かれている。そこに混ざりダビデの六芒星や少女という単語も沢山見られる。
何かを書き終えた男は、その手帳を床に落とし、本だらけの部屋の中央にある椅子に足を乗せる。そこにはロープが一本ぶら下がっている。先は円状になり、人の首一つくらいは入るだろう。
男は、ロープへ手をかけると、そのまま椅子を蹴った。
『コールの遺書
自分が何者であるのか理解してしまった。
命を絶つか、酒びたりになる以外に耐える方法は無いだろう
何故こんなことを知ってしまったのだろうか
あの事件以来、暗闇から暗い瞳が覗いているのを感じる
世界にはあの少女達のような神々が存在しているのだろう
死が救いならば、もはや喜んでニヴル・ヘルに落ちよう
穢れた魂は、穢れた国へ返さねばならないのだ……」
翌日、精神病棟の職員は変わり果てたコールの姿を発見した。
隔離された部屋でコールは大量の酒の瓶を横たえ、多量の北欧神話の資料にまみれながら酷く大きないびきを立てていた。
どうやら自制の為に天井に隠しておいた酒を取り出して飲んだのだろう。開け口のロープを手で掴んで支えの椅子を蹴った、その椅子が転がっているのが証拠だろう。
ある事件に関わって以降、コールは酷いアルコール中毒に陥っていた。アルコール中毒の治療に入院を開始したとき、コールは酷いせん妄状態だった。大量の黄金を見た、少女のような神々に襲われた、教団に命を狙われた、自分は神様の一人だったなどの言葉を繰り返した。
他にも同じ症状の者達が三人ほどいるようだった。彼らは黄金についてよく喋り、そして嘆くように酒を浴びるように飲んだようだ。彼らは黄金が手に入らなかったことが原因だったようだが、そもそもそんな黄金など存在していないのだろう。
コールの言う事件の後、教祖が失踪したことにより教団は解散になったらしい。そのうちの一人、グレイと呼ばれる男はその時に得た資金により缶を売る商売を始めて成功したらしい。
吐瀉物とウィスキーとウォッカの匂いが充満する部屋で職員は酷いコールの姿と、周りに散らばる資料を眺めた。その北欧神話の挿絵は全部黒く塗り潰され、全ての『彼』という文字が『彼女』や『少女』に書き換えられていた。




