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アースガルズの私様  作者: 富良野義正
ネトゲは戦争に入りますか?
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ネトゲは戦争に入りますか?その一

 祖国の敵であるテロリストがはびこるこの荒野は嫌いだったが、汚れていない空だけは嫌いではなかった。空ならどこでもいいわけではない。しかし、この国の雲はどこまでも遠い。


 空以上に安全な場所が存在しないことを、クリス=フォールドは嫌というほど実感していた。足元の何処かにはテロリストは隠れ潜みあらゆる狡猾な手段をもって歩兵を苦しめている。しかし空にはほとんどの攻撃が届くことはない。なのにこっちは爆撃や機関銃による射撃が可能なのである。その一方的な感触は戦争というよりもゲームに近い。確かに初めて敵兵を殺した時に良心の呵責のようなものがあったのは確かだ。しかしその良心は既に数字へと塗り替えられている。そうなれば、後に残るのはスコアを増やすだけの仕事なのである。


 それでもクリスは自らを律しないわけではない。例え音速の壁を越えるような飛行機であっても万能ではない。油断すればどうなるのかはわかったものではない。たとえ撃墜される可能性が0%だったとしても硝煙を相手にする限りは油断するわけにはいけないのである。


 味方の支援要請を受けたポイント付近に近づくと、味方の位置を確認する。万が一にでも巻き込むわけにはいかないからだ。無線の内容からは未だに交戦が続いているらしい。逆に言えば相手とは十分に距離が離れているのだから、気兼ねなく爆破することができる。


 投下と共に味方の確認報告を聞くと再び援護をするために方向を変える。燃料は十分すぎるほどある。まだ幾らか援護できる筈だ。本部にも確認を取り、追撃の許可を得た。JDAM(統合直接攻撃弾)をもう一度お見舞いできるようだ。こうなればテンションもあがらないわけではない。旋回をすると指示された投下ポイントにまで向かった。


 そこまではいつもと同じだった。


 だがその日違ったのは、その場所は少し高度が低くて、そしてけたましいロック音が響いたことだった。最初どこからロックされているのかわからなかった。空は青いばかりで、友軍以外に戦闘機は飛んでない。ロックされるような機影はない。だから地上から狙われていることに気がついたのは、全てが済んだ後だった。


 爆発音と熱が最後の記憶だった。後は無茶苦茶で、クリスには自分の体がどこにあるのかさえわからなかった。燃えたパーツとぐしゃぐしゃになった視界には相棒の姿も映らなかった。ただ熱と、落ちる感覚と鉄ばかりだった……


 思えば、その落ちている時にはクリスは既に死んでいたのだろう。敵の地対空ミサイルは丁度クリスの真下で爆発してコックピットを瞬時に吹き飛ばしたからである。だから既にあの時には、クリスの脳みそは辺りに散らばってよく焼けていた筈なのである。


 だがその記憶も今となっては納得がいくものだった。


 クリスは今、長い橋を渡っていた。両隣には天使のように幼い女の子が鎧に身を纏い彼に付き添っている。まさかだとは思ったが、それが天使ではないことをクリスは分かっていた。ならば先に待つのは神の国だ。全能なる神の住まう場所ではない。もっと不完全な神が住まう、夢にまで見た場所である。


 巨大な城門を潜り巨人も渡れないくらいに大きな壁を通り、その先の素晴らしく煌びやかな建物が並ぶ場所は、間違いもなく伝承の地であるという証拠に他ならない。あえて違うというなら、見える人影は随分と幼い少女ばかりである。少女達はクリスを見ると暖かい視線を向けた。その視線にクリスはこれまでにないほどの誉れと安堵を覚えた。


 更に進むと、巨大な神殿らしい建物が見えてきた。恐ろしいことに黄金をベースに作られた建物で、しかもどこもかしこも細かい細工がされていて、あまりに美しく芸術的な場所だった。アフガニスタンの砂よりも細かいところまで気を配り、ヤンキースのスタジアムよりも巨大で豪奢な場所であるがすぐにわかった。作りは古いのにむしろ最新の更に先をいっているような新しさを感じる。その感覚の原因が人知を超えているから新しく感じるのだと理解するのに時間はかからなかった。


 門の前に立つ少女がクリスの姿を見ると、待っていましたとばかりにその扉を開いた。その先には凄まじく広い空間がある。その空間の床も壁も、あまりに美しい黄金の細工である。辺りには戦士を称えるような鎧や古代の武具、戦車や戦闘機を始めとした近代兵器までが装飾品として置いてあった。しかし向かう先にあるのは、奥にある長く真っ白なシーツのかけられた素晴らしい料理の並ぶ長いテーブルと、更に先にある玉座である。


 感動を胸に、そして誇りを胸にクリスは進む。先に座る姿が少女であったとしてもそれが誰であるのか分かっているのだから、感動は変わらない。玉座の前にあるテーブル、その一つだけの椅子の横に立つと玉座の少女の言葉を待った。


「よくここまで来たな。歓迎しよう。勇敢なる戦士よ」


 少女の声はむしろ老人のようにも思えるような重みがあった。綺麗な白髪と右目を隠すような眼帯が長い戦争に疲れた退役軍人のような印象を与える。王錫のように持った大きな槍は、その小さな手の老体を支えているようだ。その足元には綺麗な毛並みの狼が二匹丸くなり、じっと何かを待っている。


「ここが何処か理解しているようだな。当然だ。ここに招待しているのはアースガルズに忠義を尽くす覚悟があり、歴戦の星空を幾度と眺めた者だからだ。今となってはその条件に見合うほどの素晴らしい戦士はそうそう居ない。だからそこ、私は嬉しいのだ。素晴らしい戦士が一人、ヴァルキリーに付き添われ、ヴァルハラの門を潜ったということが」


「やはり、貴方こそがオーディンですか」

「然様。お前の活躍はしかと見せてもらったぞ」


 オーディンの満足げな表情にクリスは安心感を覚えた。そして玉座から離れた場所にも少女がいることに気がついた。右腕を露骨に鎧の下の服に隠している銀髪の少女。その先に手が無いことは服のふくらみから簡単に想像がついた。それそこがクリスの憧れる一人であるテュールであることはすぐにわかった。


「ああ! 偉大なるオーディン様! ずっと十字架にキスをしながら考えていました! 主の国よりヴァルハラに行きたいと! だからこそ、ここまで戦って来れたのです! 想像していた姿とは違いますが、それでも人生の中で一番感動しています! 兵士として銃を手入れするようになって、今じゃまったく報われた気分ですよ!」

「この姿を見ても変化せぬ信仰心、まことに気に入ったぞ。神々にも劣らぬような人格と知性よ。さあ、今日はお前の為だけに宴を用意した。さあ、血肉を燃やす戦はまた訪れることだろう。だが今は杯の酒を飲み干し、存分に肉と果実を食らうがいい!」

「もったえなきお言葉です」


 クリスは椅子に座った。そして胸元で食前の十字を切った。この行為をクリスはまったく拒むつもりもなかった。オーディンが理解していることをクリスは知っているからだ。この十字の祈りの先にあるのは、オーディン本人であるということを……


「んどるゃ、またんかああああああああああい!」


 意識は感動から叫びに向けられる。その先には黒髪の少女がクリスの入った扉の向こうに立っていた。東洋人のようにも見える。少女はドカドカと音を立てるように歩きながらよってくると、少女はクリスの横を通り過ぎ、オーディンの前に立った。


「どういうつもりだ! どういうつもりだあああああああああ!」


 少女の形相は凄まじいものだった。大地を揺らすような叫びというのを具現化したとするならば、まさにこの事だろう……当然だとクリスは思った。別段普通の少女の叫びであってもそう思わなければならないのだろう。ここはヴァルハラなのだから。


「おかしいな。呼んでも無い娘が一人訪れるとは。それもまさか、我が『義理の』妹ではないか。ヴァルハラから最も遠い存在である我が『義理の』妹が、何の不満を漏らすというのだ」


 オーディンは少女をあざ笑う。『義理の』を強調しているのはまさに立場を分からせるための突き放しなのだとクリスは思った。突き放したのならばその手が届くことはない。


「我が姉上様よぉ、よくもやってくれたな? いや、その瞳が節穴だとあざ笑ってやろうとも思ったが、しかし今となってはそのような気もさらさら起きん。ヴァルハラの選別者の瞳がそこまで節穴では、ラグナロクの先に待つのは、完全なる崩壊なのだろうな」

「資質を『義理の』妹であるお前が問うか? いいだろう。言い分を聞こうではないか」

「この男が来る前に、もう一人ヴァルハラを訪れた戦士が居た筈だ。その男は戦争に行き、闘争を繰り広げ、そして激戦に散っていった。傷まで負っていた筈だ。それなのに、何故クリスがニヴル・ヘルに向かっている!」

「戦場に赴き闘争を繰り広げ激戦に散ったクリスはお主の近くにいるではないか」

「こいつじゃねえよ。クリス=J=クリスだって分かって言ってんだろうが!」


 クリスはその名前を聞いたことがなかった。しかし何かの愛称であるのは確かなようだ。となれば、同じアフガニスタンに派兵された者であると考えた方が自然なのだろう。


「クリス=J=クリス? 聞いたことの無い名だな。クリス=フォールドは私の眼前におり、他のクリスは今頃この神殿でラグナロクに備えておることだろうが、クリス=J=クリスの名に覚えはないなあ」

「とぼけているのは分かってんだよ。今朝方もう一人ヴァルハラに入って裁判を受けた者がクリス=J=クリスってわかってんだろ?」


 オーディンは軽く顎へ手を当てて首を傾げた。そして業とらしく唸ると、ポンと手を叩いた。


「そういえば今朝、確かに一人このヴァルハラを訪れた者がいたな。しかしこのオーディン、無数の物を見渡すが故に物事を忘れるように勤めておる。ならばどうしてニヴル・ヘルに送った者を覚えていられるのだろうか、はなはだ可笑しいではないか」

「だから、何故送ったって聞いてんだよ」

「答えるまでもあるまいが。かの者はひたすらにキーボードを叩いていただけではないか。戦場へと赴き死を交えたこともあるまい。そのようなものがヴァルハラに留まるなどありえるものか」

「そんなのだったら、この男だって変わらないんだろうが! 話は聴いているが、こいつも操縦席弄ってただけだろうが!」

「現代戦争はゲームに近いという。しかしゲームと戦争が違うのだと理解しないわけではあるまい」

「近いならばクリス=J=クリスは残すべきだっただろうが! こいつよりも!」


 黒髪の少女はクリスを真っ直ぐ指した。この少女が誰であるのかクリスにはわからなかったが、あまりに激しい物言いに恐れを覚えないわけではなかった。最高神オーディンに楯突くほどにこの少女が戦士と認める者は果たしてどのような人物なのか。


 だがオーディンの影が一段と深くなったようだった。そして分かりきった興味の無い回答をつらつら答える学者のようにオーディンは淡々と口を開いた。


「クリス=J=クリス。1993年生まれ。本名はクリス=マッケンジ。会社員の息子としてニューヨークに生まれる。以降の来歴は省略。2009年のMMORPG『ヨトゥン・ヘイム』の公式ラグナロクバンクェットでチーム優勝。個人成績では準優勝。以降毎年開かれる大会で優勝をはじめとした優勝を重ねている。大学には進学せずに『ヨトゥン・ヘイム』の賞金と親の財産で生活していたが、普段摂取していたコーラとポテトチップスによる動脈硬化による心臓麻痺による死亡」

「立派な戦士であり、戦いに身を置き、そして命まで賭して絶命した。ならばヴェルハラに招待されるには十分過ぎるのではないか」

「言わんとしていることはわからないわけではない。しかしヴァルハラには不向きな者だ。さあ『義理の』妹よ。これ以上の申し送り、聞くつもりはない」

「ああん、玉座に腰掛けてるからって偉そうにしてんじゃねえぞ。ゲームを闘争と認めないのは時代遅れなんだってわかってんのかぁ? ラグナロクに参戦できないようネットに恥ずかしい写真アップしてやろうかああん?」

「いい加減にしろ、下郎が!」


 黙って見ていたテュールは少女の額に額を突きつけつと、凄まじい形相で睨んでいるのが分かった。


「ああ、誰かと思ったら、私様の娘に腕を噛み千切られたテュール様じゃないか。あんまりこの私様を嘗めると、ラグナロクの前にもう一つの手も失くすぞごらぁ」

「黙らないとその糞みたいな顔、ラグナロクよりも前に胴体より離れることになるぞ。まずオーディン様の御前及びヴァルハラでの『おふざけ』、謝ってもらおうか」

「黙れよ。剣しか脳の無いか〇わ幼女がよ、こちらとて欠損萌え属性はないんだ……ふんにゃ!」


 クリスは美しい剣戟というものを見たことが無い。東洋の侍や中世の騎士が日々の鍛錬により会得するような技術の本物は時代の流れに消えてしまっているからだ。だからこそ、この武神が黒髪の少女に放った楕円の光は余りに早く、そして美しかった。

 しかしその素晴らしい一撃も綺麗な楕円を描くだけで紅く染まることはない。黒髪の少女の首があった場所を通ったそのずっと下に当の少女は腰を落としていた。


「ちっ……外したか」


 テュールは舌打ちすると、その美しい剣を腰の鞘へと収めた。


「な、なななななななななんんんん!!!!! わわ、わわわたし、おま、お前私様を、だだ、誰だとお、おもももももも!!!」


 叫びに近いような少女の言葉には既に空の威勢と怯えばかりが映っていた。先ほどのまでの態度がまるで嘘のようだ。おまけに黒髪の少女を中心に何やら水溜りのようなものが広がっていくのが分かった。だがクリスは黒髪の少女の失禁を笑うつもりはなかった。兵士ではない者が生命の危険に晒されたとき、正常の精神が保てるものではない。むしろあの一撃を避けた少女に関心するほどだ。


「……静まれ!」


 この騒ぎも凄まじいほどの威光に一瞬で時を止める。この命令に逆らえる者は存在しないのだろうと思うほどの圧力にクリスは指一つ動かすことが出来なくなっていた。

 声の主であるオーディンは続けて何かブツブツと呟いた。それもすぐに済むと、深くため息をついた。


「このヴァルハラに我が『義理の』妹の小水を四散させるわけにはいかない。故に非蒸発のルーンを唱えた。これで暫く間、このヴァルハラにおいて一切の液体は蒸発しないことだろう。さてテュールよ、下がれ。お前の雄志は買ってはいるが、いささか血の気が多いからなあ」

「……命拾いしたな、悪神」


 蔑むように失禁した少女を見下ろすと、くりると振り返りテュールは元の位置へと立った。またオーディンの深いため息が響いた。


「我が『義理の』妹よ。お前が提案に赴いたことは嬉しいが、しかし私を納得させるには至らなかった。だから一つチャンスをやろうではないか。一つ、同じようにMMORPGにうつつする者を選別してやろう。その者がMMORPGをすることにおいてヴァルハラに相応しいと私が判断したならば、お前の願いを聴こうではないか。そうだな……期限は三ヶ月だ。しかし果たせなければ、一日ばかり私の言うことを聴いてもらおうではないか。誓えるか、その条件を」


「いいだろう。誓おうじゃないか。しかし、お前にも誓ってもらおうじゃないか。私様の条件を」

「誓って何のメリットがある。私は、お前に何も要求はしておらんだが」

「信頼だ。この条件における私様の勝利は、最高神オーディンが口にした時ではなく、そう思った時なのだと。もう一つ、必要な物資は惜しみなく私様に提供するのだと」

「なるほど……いいだろう。誓おうではないか。しかし、他に報酬をとは思わぬのだな? 我が『義理の』妹ならば、首くらいは要求するものだと思っていたのだがなあ」

「誓ったな? 理解しないままに! どのような勝負であっても最高神がこの私様に負けたという事実はアースガルズの崩壊を招くのだぞ!」

「対象はこれより探そう。そう時間の掛かるものではあるまい……しかし我が『義理の』妹よ、ここまで譲歩したのだ。一つだけ願いを聞いてもらおう。丁度近くにある杯を飲んでもらおう。二人の前に揃って出されたものでなくては飲めぬのでな」

「……いいだろうさ、我が姉上様よ」


 塗れたジーンズのまま黒髪の少女は立ち上がると、近くのテーブルに置かれた一つの杯を一気に飲み干した。その姿をオーディンはまるで慈しむように眺めていた。


 なるほど、とクリスはこの黒髪の少女の正体が誰であるのか気がついた。横暴なその言動は、アースガルズの神であり、そしてアースガルズに忠誠を誓っていないのならば、それで納得がいく。


 黒髪の少女は蒸発せずに塗れた口元を手でぬぐうと、また無礼にもオーディンを睨みつけ、そして人差し指で指して言った。


「覚悟しろ、オーディン! このロキ様が、必ず恥をかかせてやるからな!」




 歓迎の終わった後の玉座に残るのは二人だけである。狼のゲリとフレキは既に庭に放たれていることだろう。


 豪奢に飾られた食事は半分も減っていない。大量に用意された食事が減っていないのは単純に食べる者が少ないからだろう。昔ならばこれでさえ足りなくなったのだろう。しかし今ではオーディン信仰が塗り替えられ、そして戦争で消えるものは波がなく淡々と減るようになった。昔のような数日で終幕を終えるような戦争の時代は終わりを告げたのである。


 だがそれだけではない。神々も一種の惰性を覚えたせいもあるのだろう。ラグナロクに備えることもギャッラ・ホルンが響くことも既に昔話のようなものだと思っているのかもしれない。だがいずれこの永遠の時間にも終焉は訪れる。そうなったときに果たして神々は平常心を保つことができるのだろうか。


「関心しませんね。このような戯れを、あの悪心と交わすなどと」


 苦言を漏らすようにテュールは言った。この武神はまったく心配しているようだ。しかしそれはオーディンの愚かさを嘆いているわけではない。あくまで自らの感情と素直な感想を述べているだけなのだ。


 そのことをオーディンも理解している。この片目の少女はニヤリと口元を綻ばせるとまったくの傷の無い白い脚を組んだ。短めのスカートの中は、当然暗闇となって見えない。


「既にこの賭けは勝利しているのだ」

「どういうことですか」

「我が『義理の』妹はゲーマーを戦士と言い、賭けを挑んだわけだ。故にヴァルハラに相応しいものと認めるならばと答えた。ならばヴァルハラに相応しい者とは誰だ? それは戦士ではあるまい。勇猛の戦い、自らを省みず戦い、アースガルズに尽くす者がラグナロクに必要となる。故にヴァルハラに相応しいのだ。戦士であることは、結果に過ぎないのだよ」

「なるほど……どれだけゲームが出来たとしてもラグナロクには役にも立たないということですか」

「これより科学技術が勝ればそれも成り立つまい。しかし、戦争慣れしていない人間族が同じ姿の者を撃てるものか」

「そこまで考えられて挑まれたのですね」

「私も真剣なのだよ……さて、確かに我が『義理の』妹の小水、処理をしたのだな」


 テュールは眉を顰めた。その理由を分からぬほど短い付き合いではないのである。


「ご指示の通り全て瓶に収めてご寝室へと運びました。しかし、どうされるのですか」

「もちろん使うのだよ」

「使うとは…………」

「さて、三ヶ月後が楽しみよのう」


 オーディンは微笑んで玉座の肘掛にもたれかかった。少女には大きすぎる玉座は、まるでオーディンの壮大な計画を予言しているようでもあった。

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