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アースガルズの私様  作者: 富良野義正
アリス イン ザ ピッチ ダークネス
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アリス イン ザ ピッチ ダークネス その五

 今が幸せなのかアリスには分からなかった。綺麗なドレスと宝石に飾られ、豪華な部屋で暮らし、一食どれほどするかわからない食事を毎日食べ、まるで貴族になったような生活を二週間もしていて、自分が幸せであるかわからなかったのだ。


 クリスタルの欲求は昔よりも収まったのに、今でも確かにある。もしも前に出されたら抑える自信は無い。それでも昔に比べたら大分収まっている。


 鏡を見る彼女はもう美しい。だがその美しさは貴族や俳優の美しさに近い。何か違う美しさだ。


 いつみても、真っ白な筈の鏡の向こうが暗く感じた。何がそんなに暗いのかわからなかったが、それでも暗いのだ。


 その暗さに負けそうになると彼女は無性にあの二人に会いたくなった。脳筋少女と悪神の二人は、彼女のいい話相手で、とても綺麗で、純粋であるように見えた。まるでピンクのレオタードを着て踊る幼少の自分を見ているようだった。二人を考えると暗闇の自分が辛くなり二人がうらやましくなるが、その妬みも二人に会えば消えてしまう。


 トントンという音が聞こえると、やはり二人の少女が入って来た。まるで神の国から派遣されてきたような天使のような二人。


「お二人さん、今日は遅いのね」


 まだ少し悠長ではなかったが、それでも口にすることがアリスには出来た。紛れもない自分の言葉で、妄想のようなものは含まれていないと思っている。


 だが今日はおかしなことに、二人の少女は黙っていた。そしていきなり前に肘

をつき、腰を下ろし、前に茶色く膨らんだ封筒を置き、そしてまるで神に祈りでもささげるかのように額を大きく床につけた。


「申し訳ございませんでした!」 


 突然のことにアリスは動揺した。彼女達は自分にこれだけのことをしたのだ。仮に殺されることになってもアリスはむしろ喜んで首を差し出すべきだと思うほどに。着ている服だって、アリスの何十倍もの価値があってもおかしくは無い。


 悪神は額を床につけたまま、大きな声で語り始めた。


「貴方は巨人だと思ったのは、我々の勘違いです! 軟禁状態にしたこと、誠に反省しております! この封筒は謝礼であります! 以上より我々を許していただきたい! そしてこの事、誰にも話さないで頂きたく思います!」

「あの……悪神さんも、脳筋幼女さんも、どうしたのですか」

「誰にも話さないと誓っていただけますか」

「え、はい」

「では確かに誓いを訊き遂げました。このホテルもあと一週間は滞在可能です。お送りした品物は全部さしあげます。ではこれにて失礼します」


 二人の少女は揃って立ち上がると、回れ右をして、そのまま走って廊下に消えてしまった。


 二人の去った後をアリスはまるで幻覚でも見ていたかのようにぼーっと見ていた。それから少女達が自分の前に現れないとは思いもしないで。

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