ニヴル・ヘル オブ ザ デッド その四
おお……これほど恐ろしい光景はあるのだろうか?
ロキは二階の廊下から下を見ると、ゆっくりとゾンビがロキ達を求めて歩いているではないか。屋上へと先につくことは容易だろう……しかし、屋上のドアがどれほど持つというのだろうか?
「悪神よ! 壁になるものはないのか! このままではすぐに突破されるぞ!」
「ななななななな、何故ショッピングモールの屋上に何も無いのだ! 普通遊園地がある筈だろ! 何故鉄格子さえない! どどどどどどどど、どうすひいいいいいいい!」
何ということだ!
そこには三つの貯水タンクしかない……隠れる場所さえないではないか!
――オオオオ…………オオオオ…………
「段々近づいているぞ! 何か策があって屋上へと来たのではないのか!」
「この状況で何も出来るわけがないだろ! 何故こんな状況で武器の一つも無いのだ! この手の大量ゾンビゲーじゃマシンガンとかチェーンソーとかで倒すものではないか……ひいいいいいいいいいいいいいいい!」
ドンドンという鉄の扉を叩く音が屋上に響く。それから響くゾンビ達の声にロキのスーツのズボンは更に黒色を増した。
「こうなれば仕方あるまい……全員倒すしかあるまい……母上の助けが来るまで耐えるしかないか……悪神よ、覚悟を決めろ」
「無理無理無理無理! ただでさえゾンビは生前より力が上がっているのだ! こんなの倒せるわけがないであろう!」
おお……二人の神々の前に立つ扉は鍵をガチャリと開けられ、中からはゆっくりとゾンビ達が溢れてくるではないか。こうなれば二人の神々の運命は予言よりも明白だろう。こうなればロキとトールはラグナロクにおいてゾンビとなり予言を果たすこととなるだろう……
しかし……ロキは気がついた。何かが空から近づく音が聞こえた。ロキはその音に聞き覚えがあった。
「脳筋幼女よ! ヘリだ! やっと助けが来たのだ!」
「母上のヘリか!」
おお……それはヴァルハラ最新の戦闘ヘリではないか。ゾンビ達は、まさにそのヘリに乗る前にロキ達を捕まえようとしているようだが……しかしゆっくりだった。そうなればヘリの方がロキ達へと近づくのは早い。
地上近くまで降りたヘリにロキとトールは飛び込んだ。刹那、戦闘ヘリは宙へと上がった。二匹くらいのゾンビがヘリにしがみついたが、それをトールがミョルニルで吹き飛ばした。
「俺達は……助かったのか? やはりニヴル・ヘルには二度と行きたくは無い。恐ろしい場所だ……」
緊張が切れたのかトールはずんと崩れるように腰を落した。その衝撃で少しだけヘリは傾き、ミズガルズでは中程度の地震が観測された。
「だから私様は最初から行きたくなかったのだ! 大体助けに来るのが遅すぎるのだ! もっと早く迎えに来ることも出来ないのか! 使えない奴らめ! これだからオーディンと子分のヴァルキリーは……まままままままままま待て! 嘘だ! 冗談だから私様を外に投げようとするな! おい、これもオーディンは見てるのだぞ! ゾンビは止めろ、止めろ!」
こうしてロキとトールは、恐怖が渦巻くあの恐ろしい国、ニヴル・ヘルから生還したのだった。




