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アースガルズの私様  作者: 富良野義正
ニヴル・ヘル オブ ザ デッド
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ニヴル・ヘル オブ ザ デッド その三

「しかし……ここまで広い空間では落ち着かないではないか……ってか、ニヴル・ヘルの癖に明るすぎるだろ。ソフ〇ップよりも蛍光灯が強いとは……」


 ポテトチップスを食べながらロキは辺りを見渡した。そこはあまりに整った店だった。蛍光灯の白くて強い光が紫の絨毯を輝かし、無機質なパソコンのモーター音と換気扇の音ばかりが響いていた。

 不安を払拭するようにロキは持ち出したコーラを一口飲み、しかし何度もキョロキョロと周りを見渡す。


「くそ……こんな状況では落ち着いてネットサーフィンさえできないではないか……ファ〇ク……とにかく集中しなくては……ってか救援が遅いだろ……しかも武器一つ無いではないか。チェーンソーやショットガンがあるものではないのか……」


 ロキは画面に集中しようとしたが、気がつけば周りをキョロキョロと見渡してしまった。少し換気扇の音がずれれば不安を掻き立てられた。更には『ゾンビの撃退法』や『ゾンビが町に溢れかえった時のマニュアル』などをググっていた。


「こうなったら脳筋幼女を呼び出すか……くそ、私様を四六時中監視している癖に救援が遅すぎるだろ……」




 ――オォォォォォォォ…………



「ひ、ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」


 何ということだ!

 突然ゾンビの大きな声が響いたではないか!

 あまりにも恐ろしいその声にロキは椅子より転げ落ち、ミズガルズ式のスーツの黒ズボンを更に黒く濡らした。

 

――オォォォォォォ…………


「ま、ままままままままままままままひいいいいいいいいいいいいいいいいあああああああああああああああ!! 逃げるのだ! い、意識の無い亡者共がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ってか私様を食べるな! た、食べるなら脳筋幼女を……ん?」


 ふとロキはその声が遠くから聞こえてきていることに気がついた。そしてそれは妙に機械的な反響をしていたのである。


「何だ? どうやら入り込んだわけではないようだが……」



「悪神、今のは何だ!」


 ソフ○ップのようなパソコン売り場へとトールが駆け込んで来た。あの恐ろしい機械的な叫びをトールも聞いていたようだった。


「わ、わわわわわわわわからぬがががががが……ととととともかくくくくくくく外の様子を見るのだだだだだだだだだ」


 ロキはふらふらと起き上がると、棚やら展示されているパソコンやら安売りのポップやらにぶつかりながらショッピングモールの窓へと向かった。



 二階の窓に近づいたロキは……何とも恐ろしい光景に息を呑んだ。



――オオオオオ…………



 何という事だ!

 外のアスファルトの広い駐車場には百を超えるゾンビが立っているではないか! そのゾンビの前には黄色いテープが張られ、その前にには警官の姿をしたゾンビが大勢のゾンビを抑えるように立っているではないか! 更にその前には褐色のコートを着たゾンビが拡張機をロキ達の方へと向けているではないか!


――オオオオ…………



「あ、悪神よ。何だあれは? まるでゾンビが意識を持っているようではないか!」


 後に続いたトールは見渡しながら叫んだ。



「……なるほど、そういうことか」


「だからどういうことだ」


「ゾンビは生前の記憶に沿った行動をするものなのだ。つまりあいつらは私様達がここに立て篭もっていることで生前の通りヤジウマをして生前の通り通報し、そして立て篭もり犯である私様達に拡張機で語りかけているのだ」


「つまり、あいつらは俺達をここから出そうとしているのか」


「そんなわけが無かろう。あいつらは立て篭もりには拡張機で叫び、事件があればヤジウマをするという本能だけで動いているのだ。それ以上の知能的な行動などゾンビができるわけがなかろう」


「よくわからないが……特に問題は無いんだな?」


「少し騒がしいかもしれないがこれ以上の行動はして来ることはないだろうが……しかし気になるではないか……」



 窓から離れてネットサーフィンに戻ろうかとロキは考えたが、足は動かない。これほどの大量のゾンビが外に居て安心することはゲームの無双モード以外には不可能であろう。


「……大丈夫なのはわかったがここから動けないんだな……」


 トールは苦い顔で腰を下ろした。もはやダンベルを上下して筋トレによる時間の浪費は叶わないことだろう。


「くそ……安全だからまだいいが……仕方ない、スマフォゲーで時間を潰すか……ともかく順番に見張るぞ。貴様から見張るのだ」


 ロキも腰を下ろすと胸のポケットからスマフォを取り出した。


「まあいいが……交代しろよ」


「フン! ちゃんと見張りをしてから言うのだ! そういえば、昔落とした無料ゲーが幾らかあったが……今こそ課金をするべきか……」


「おい、悪神よ。ゾンビが鞄みたいなものを持って数体こちらへと来てるぞ」


「フン! ゾンビは生者に反応するからな! 別に恐れることもなかろう! しかし、ちゃんと電波はあるではないか。これならばオンラインゲーも可能ではないか」


「おい、動きは硬いが何か仕掛けているように見えるぞ」


「生前の記憶のせいだろうな。別にふりだから大丈夫であろう。別に気にすることもあるまい」


「仕掛けてから離れたぞ」


「離れたからといって何だというのだ…………ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」


 何ということだ!

 突然けたましい爆音が響いたではないか!

 建物が揺れる、白い砂埃がロキ達の除く窓に広がった。


「お、おい! 悪神! どういうことだ! 何が起きた!」


「わわわわわわわわ、わわわわわわわわわかかかかかかかかからららららひいいいいいいいいいいいい!」


「おい、ゾンビが大勢こちらに来ているぞ! どうなっている!」


 更にスーツを黒く濡らしたロキが何とか立ち上がり、白い煙の立ち上る窓から外を見ると……ああ! テープに隔離されていた亡者達が一斉にロキ達のいるショッピングモールへと歩いているではないか!


「や、やばいやばいやばいやばいやばい! さっきの爆風の音だ! あの亡者共は爆風の音に反応してこちらに向かっているのだ! ってかあの爆風やばいだろ! た、建物に穴が開いただろ!」


「あの爆音は何なんだ!」


「そんな複雑な行動ができると思わなかったが……ゾンビが障害物を爆破したのだ! くそ! 生前爆破を扱えたのだろう! だからこういう立て篭もりは爆破しなければならないという本能と生前の技術の記憶でこの建物の壁を爆破したのだ! とにかく、屋上に逃げるぞ!」

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