呪術少女トール メギン その八
アースガルズを覆った呪いの一件が解決した後、自らの処遇がどうなるのかロキは分かっていた。
呪いの原因がロキの魔法少女コスプレグッズであることは既に分かっていた。そればかりかこの悪神はトールが呪われているのを知ったうえで数ヶ月も放置したのである。それだけではない。勝手に武器庫よりヴァルキリーの矢を盗み、ローブを盗み、あまつさえオーディンの家来を語った挙句、巨人族の呪いに屈服したのである。且つ呪いがかかっている間はラグナロクが起きないと予言されていた為、黄昏を早めた罪にもロキは問われることになった。もはやこうなると弁護できる者はいないだろう。岩場に括りつけ蛇の毒液を垂らし続けられることもやむない。
しかし……ああ、何という事だ!
最高神オーディンが悪神の悪行の処罰を自らに任せるよう名乗りをあげたではないか!
かくして悪神の運命は全てオーディンに委ねられた。きっと恐ろしい神罰が悪神へと下されることになるのだろう……
「……そうなることは、私様は読んでいたのだ。この事態の責任を一番軽くするには貴様自信が処罰を与えればいいのだからな……私様は分かってて行動したのだ……」
ヴァルハラにあるオーディンの自室。輝かしい黄金の部屋にある大量のコスプレ衣装の一つ、ピンクの魔法少女の恰好を着せられたロキは少し身をちぢこませて言った。既に回復のルーンにより深く淀んだ隈は取り除かれていた。
「分からぬな。我が『義理の』妹よ。ただ私は、ラグナロクを伸ばすが為に呪いを許容したに過ぎない。しかし巨人の呪いは巨人の呪いなのだ。故に自ら呪いを解いた功績に免じ計らったのだ。アースガルズの為に働いたことは確かなのだから」
「ふん! どのような理由があろうが、貴様は私様を計らって自ら罰したのだろ! くそ……貴様、自分のしたことがわかっているのか! 私様にこのような恰好をさせ愉しむ為だけにラグナロクを早めてまで呪いを放置したのだろ! だから私様は貴様のことが嫌いなのだ!」
「わからぬな。しかし我が『義理の』妹ロキよ。随分と簡単に呪いを解いたではないか」
「あれはコスプレグッズで『設定』が全てのようなものだったからだ。コスプレでは魔法少女という設定を重要視するように、呪い自体がラスボスやら魔法やら最終回やらの設定に順ずると取り説にも書いてはあったのだ……」
「そうか。ならば我々も設定を大切にしなければならぬ」
「どういうことだ」
「……当然ロキたんは義理のお姉ちゃんにペロペロされなければダメということだぁぁぁぁぁぁぁぁ! ロキたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんうわああああああああああああ!」
何ということだ!
ついに魔法少女の恰好をしたロキの姿に耐え切れずオーディンが奇声を挙げながらロキに飛び掛ったではないか!
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいああああああああああああ!!!」
「数ヶ月もぉぉぉぉこの瞬間を待ってったのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁひぃぁぁぁぁぁぁぁぁぁうぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
それから何日間か、ヴァルハラにはロキの悲痛な叫びとペロペロという残酷な音が響いた。まさにそれは悪神に与えられるべき恐ろしい罰が下されているとう証だとアースガルズの神々は改めて恐怖と畏敬を最高神に抱いた。
次回未定




