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アースガルズの私様  作者: 富良野義正
呪術少女トール メギン
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呪術少女トール メギン その一

今回ホラー回

 アースガルズの宮殿から離れた深い森の奥、昼の光さえ届かないような忌まわしい場所がある。そこに好んで住まうものはいるのだろうか。

 いや、たたずむ小さな家の中に明かりが見える。こんな陰険な場所に好んで住むのは、ニヴル・ヘルの亡霊や忌まわしい巨人を除けば一人しかいないのだろう。

 ゲーム機や漫画やラノベなどが散らかった部屋で胡坐をかいている淀んだ瞳と黒いぼさぼさの髪の少女の前には、ピンクピンクした真新しいステッキが置かれていた。確かにアニメ的な形状だったが、しかしこの暗い部屋にはどこか似つかわしくない。先につけられたハート柄の飾りは、むしろこの部屋の持ち主よりも大分年齢が若いか、もっと年上の男性が好みそうなものであった。



「ふん……やっと完成したか。思った以上に少女ではないか。今時ここまでピンクのステッキなど流行るのか? まあ、日曜の朝ならばありだろうが……」



 『魔法少女のステッキ組み立てキット』を完成させたロキは、ここまで来てこのステッキを使用するのかを迷っていた。巨人の描く少女の理想にルーンや呪いを駆使して造られたこのステッキは、巨人の血を引くロキが使う分には安全だろう。何の問題もなく変身し、何の問題もなく変身を解除できる筈だ。しかしロキは迷っていた。最近リアル系のヤクザやらが出て来る漫画ばかり読んでいたせいなのかもしれない。コスプレでも好んでするようなロキだが、この日に限っては妙に『魔法少女のステッキで変身』することに気が進まなかった。むしろ黒いスーツとサングラスでも着込んでモデルガンでも振り回したかった。



『さあ、唱えなさい! 貴方の心に浮ぶ変身の言葉を! 思いを叫びなさい!』



 直接脳内に語りかける声にますますロキのテンションは落ち込んでいた。確かに不思議な呼びかけで初めて変身するのは王道だが、あまりにも幼い声や妙に鬼気迫るような呼びかけがむしろロキに叫ばせるのを躊躇わせていた。その癖変身したところで少し遊んだら変身を解くしかない。悪の魔女も助けなければならない人々もここには誰一人いないのだ。



「……さて……ともかく……そうだな……変身したらトイレに行けるかわからないし、とりあえずトイレ行っておくか……ってか変身するとき服破けるんじゃないか? ってことは全裸にならないとやばいよな……めんどくせえ……何というか、リアル魔法少女マジめんどくせえ……」



 まるで勉強を開始する時間を一秒一秒延ばすようにロキは立ち上がると声を無視してトイレへと向かった。そして用を終えると、やっぱり部屋で呼びかける声がめんどうで、台所でカップのカキ氷を食べることにした。


 ロキは忘れていた。確かに巨人族のロキには呪いがかからない。しかしアース族ならば、呪いは強く振りかかることだろう。そして呪いとは対象を自ら呼ぶものであり、気がついたときには手遅れとなるのである。




 何故かトールはロキの家の前に立っていた。何故こんな糞みたいな廃屋の前に立たなくてはいけないのかトールには分からなかった。確かにこの薄暗い森の近くに寄ったが、別に悪神に合いたくもない。理由も無いのだから何故こんな場所にいるのか理解もできない。ブラギならば何かと詩にこぎつけるのかもしれないが、それにしても逸早くロキの家へと入らなければならないような気がした。


「入るぞ、悪神」


 ドンと強引に扉を開けて漫画やらが散らかった部屋に足を踏み込んだとき、ロキの姿はどこにも無かった。しかし、おかしなことにトールはロキのことなどどうでもよかった。だからこそトールは意味が分からない。何故自分がこんな場所に寄りたかったのだろうか……

 寄りたい、という言葉が浮びトールは酷く混乱した……何という事だ! 自らが寄りたいからこんな場所に立っているとは!



「何なんだ……またろくでもないことでも企んでいやがるのか……」


『少女よ……選ばれた少女よ……』


 

 自分へと語りかける声にはっとしたトールは床に置かれたステッキへと視線を送った。そのステッキは全体がピンク色で、しかも先にはハートの飾りがあり、更には剣の鍔のようにキリスト教の天使がつけていそうな羽根の飾りがついていた。混乱しながらもトールはそのステッキに近づいた。自分の趣味から酷く逸脱したステッキは、不思議とトールの脳裏に直接語りかけた。


『少女よ……さあ、手に取り叫びなさい! 心に浮ぶ言葉を! そして貴方に眠る真の力に目覚めるのです!』


「真の……力?」


『そうです! 貴方には更なる力が必要なのです……さあ、叫びなさい! 貴方の魔法を!』



 ほとんどトールに意識がなかったのかもしれない。ほとんど無意識にトールはそのステッキを手に取ると、大地を揺るがすような声で叫んだ。



「俺は力が欲しい! だからステッキよ、魂を救う力を俺によこせ! さあ、変身! ☆マジカルマジカルトール★」



 叫ぶと同時に凄まじく黒いのに心地の良い闇がトールの全身を覆った。同時にメギンギョルズとミョルニル以外の全ての衣服が何処かへと消えた。しかし不自然に全身を覆う闇に覆われているのでまったく運営には優しい。その覆った闇から様々な衣服が生まれた。まるで闇を作るために残った光を集めて造ったような、ピンクと白をベースに作ったような服で、ひどくひらひらしたスカートと肩までの短い袖が生まれ、先には真っ白な腕輪が禍々しい闇から生み出された。

 闇から全ての恰好が生み出されると、トールは無意識にポーズを取っていた。



「罰せられるべきアース神族に呪い完了☆ マジカルトールちゃん、ただ今参上!」



 トールが無意識にウインクしなからポーズを取ると、丁度同じタイミングでロキが部屋へと現れた。手には熱さに汗をかいたような麦茶のコップが握られていた。

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