†ブラギ~漆黒の完全なる終焉《ラグナロク》を謳いし吟遊詩人《ポエマー》~† その二
ロキは散らかり穴だらけの座敷部屋の中央のちゃぶ台にノートパソコンを開いた。これだけでも被弾しなかったのは不幸中の幸いだろう。おかげで14日という期間にパソコン購入という手間をかけずに済んだのだから。
「ともかく、まず神々のみならず9つの世界の住人にうけるのではと思う文章を書いてみろ」
「だけどぉ、神もペンもぉありませんよぉ? 口頭でいいですかぁ?」
「却下だ。詩をMP3で配布というわけにはいかぬだろう。キーボードくらい打てるだろ?」
「はあ……きーぼーどですかぁ」
パソコンの前にちょこりと座ったブラギは、タイムスリップした原始人が未来の道具を見て混乱している図そのままだった。前に点滅するメモ帳を眺めながら目を白黒させている。だが思い立ったようにキーボードの一つを押した。
「ああ! 何で書いてある文字と別のが出るんですかぁ! ペンで書かないのはすごいけどぉ……あれ? あれ?」
「分かった……紙とペンだな。くそ、リアルメモ帳なんてあるのか……仕方ない、チラシの裏だが、ここに書け。ボールペンは……糞嫁の書斎にあったな……」
諦めたロキは神々の集会の知らせの紙とボールペンを持ってくるとブラギの前に置いた。さすがにボールペンの使用法は分かるらしく、ブラギはスラスラと文章を書いていく。一通り書き終わると、ペンを置いてロキを見た。
「できましたぁ」
「どうだ……うぇ」
一行目からロキは悲痛な声をあげた。
文章は凄まじく綺麗な文字で、神々が称えるほどの力強さを感じさせる。
チラシの裏に書かれたブラギの詩は、前編がそのような素晴らしい文字で書かれているのが人目でわかる。それだけでも美しさに惚れ惚れとする者は後を絶たないだろう。以下がその文面である。
『黄金なる聖地 アースガルズの桃源郷は
エデンに与えられた実よりも甘美で
かの国で語られる神の国より白く
最高神の英知は世界の果ての滝よりも深い
金色に漂うのは朝霜の小川よりもゆるりとするハープの音色
世界樹の根さえも照らす……』
「い、痛てええええええええええええ! 痛てええええええええええ!」
ここまで読んだ自分の精神力を褒め称えてよいと思うほどにロキは倒れてむず痒い背や四肢をばたばたと暴れさせた。そして頭を抱えぐるぐるとさえ回った。
「どうしたのですかぁ……あぁ、悪神にはぁアースガルズの詩がぁ効くのですねぇ。まさか呪いでもないのにぃ痛がるなんてぇ、驚きです」
「違う、違う! ま、待て、もう一回見て……やっぱ痛てええええええええ!」
ブラギの詩によりロキが暴れたことでミズガルズでは普段より頻繁に地震が起きたことを知るものは少ない。だがロキは誓ってしまったので最後まで読まなくてはならない。文章を読み終わったとき、ロキはもう全身がくたくたになってしまっていた。
「はぁ……はぁ……やべぇ……これはやべぇ……誰だこんなやつを放置したのは……何故こんなになるまで放置してしまったのだ……」
「悪神の反応でぇ私の詩の素晴らしさとかぁ再認識したのですけどぉ」
「駄目だ! これは読まれないし売れない! 流行らない! 断言させてもらおう!」
「何がいけないんですかぁ」
「全てだ! 全て! だが、これをどうにかすると誓ってしまった……落ち着くのだ。私様は数々の困難を乗り切って来たではないか……まずだ、この文章はエロが足りない。そうだ、まずそこだ……」
「エロぉ……ですかぁ?」
「そうだ。エロは全てを救う。誰もが買うのはエロを求めるからだ。具体的には……ここをこう変える」
『黄金なる聖地 アースガルズの桃源郷は
大きな胸に与えられた実よりも甘美で
かの国で語られる夏場の水着から露出する女子の肌より白く
最高神のスカートの下は世界の果ての滝よりも深い
金色に漂うのは少女のパジャマよりもゆるりとするパンツ
世界樹の根さえも照らす……』
「あの、まったく意味がわかりませんけどぉ。漂うゆるりとするパンツって想像もつかないんですけどぉ」
「細かいことは気にするべきではない! 全てを支配するような響きがパンツという用語には篭められているのだ!」
「私に詩の響きを説教されてもぉ、説得力ありませんよぉ?」
「詩ではない! サブカルについての説教だ! 後はこの黄金やら金色ってのが駄目だ。黄金なんて、ださすぎて加齢臭まで感じさせる! 黄金を全て闇にする! それも小難しい闇に変えるのだ!」
ロキはボールペンを動かして書き替えて行く。
『深遠なる漆黒の聖地 アースガルズの桃源郷は
大きな胸に与えられた実よりも甘美で
かの国で語られる夏場の水着から露出する女子の肌より白く~だが闇色の~
最高神のスカートの下は世界の果ての滝よりも深い
最も深き†ダークネス†に漂うのは少女のパジャマよりもゆるりとするパンツ
世界樹の根さえも堕とす……』
「もう原型留めてないと思うんですけどぉ。それに、深遠なる漆黒の聖地って、巨人に攻め落とされたアースガルズの隠喩ですかぁ? それに、このダークネスの前後の記号、これなんですかぁ?」
「違う! この良さが分からないから時代から乗り遅れているのだ! しかし、詩自体がくさいからどうしても中二病方面にいっちまう……いや、むしろこいつをサブカルに染めるには一番早いのか? そうだ……その方針ならば勝機がある……!」
「何ぶつぶつ言ってるんですかぁ?」
「いや、貴様の育成プランだ。後はどうやって皆に見せる? いや……14日後には、かのイベントがある……」
策略家となったロキの思考は大きく回る。これならば誓いは全て果たすことができる。
それからブラギはロキの家に泊まり、日々ロキと共に詩を書き続け、皆に読まれる為の策略に没頭したのである。




