バーチャルリアリティゲームに入ったら普通出られませんよね その四
ロキ達六人パーティはニヴル・ヘルから続く道を、レベル30から使用可能な速度増加魔法の最大レベルをかけながら進んでいった。この魔法によりスレイプニルよりも早く移動できるようになるので、一日も掛からないうちに目的地であるアースガルズへと到着する予定であった。
「ふ、ふははは、ははははははははははは!!!」
しかし……何ということだ! まるで発狂したように、フレイは雑魚モンスターのPOPを見た途端に襲い掛かっているではないか!
「これはテストだ、これはテストだ、剣を振れるのかというテストだ、テストなのだ……」
いや……フレイだけではなく、テュールも呟きながら突撃しているではないか!
二人のテンションは、まるで待ちわびた海開きになって発狂したように喜ぶサーファーように、あまりに喜々としていた。
「……ブレス オブ パワー」
任務を忘れたような二人に支援をかけるのは……おお、フェンリルではないか。あの狂犬は、まさにテンプレレベルの補助職を演じているではないか!
「我が妹とフレイよ……随分はしゃいでいるではないか」
その光景を、何と脳筋である筈のトールは自然と眺めているではないか。筋肉質の男の体をしているトールの腰に巻かれたメギンギョルズやミョルニルは、そもそも現実の彼女が持つものと同じ性能であるので、少し振るっただけで飽きてしまったのである。
「……あいつらが一番オーディン討伐を妨害しているではないか……おかげで今日中にヨトゥン・ヘイムに到着するのものか……」
この中で、一番浮かない顔をしているのは……当然ロキであった。この最新VRゲームはほとんど現実と同じ感覚を体験させるものであるので、逆に言えば引き篭もりであるロキにとっては2000年前の土地を歩いているのと同じ感覚であった。そしてそんな場所を歩くよりは、家に帰ってネトゲをやりたいに決まっているのである。
「まあ、問題ありません。急いで歩けばヨトゥン・ヘイムの名も無き巨人の都市には一時間も掛かりません。ダンジョンなどに潜らなければ大丈夫でしょう」
「もうさっさとオーディンを倒しに行きたいのだというのに……あいつら置いていってもしまいたいくらいだ」
「ロキ様の言う通りだと思います」
「黙れシギュン!」
こうしてこのパーティはだらだらと岩場だらけの道を進みながら、結局日暮れ頃にヨトゥン・ヘイムの名も無き都市に入ったのだった。




