表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アースガルズの私様  作者: 富良野義正
勉強少年の逃避行
118/163

勉強少年の逃避行 その二


普段降りる街の駅を通り過ぎ、更に先にある別の大きな街で彼と少女は降りた。彼女は電子マネーを持っていたが、彼は片道の切符だけを買っていたので追加の乗車賃を払った。黄昏は既に過ぎて夜になっていた。彼はおかしく感じた。終わりの時間を茜色に見ていたはずなのに、気がつけば終わりの時間の真っ只中に立っていたのだから。


「君、家に帰らなくていいの」


 そう尋ねてから彼女の名前を知らないことに彼は気がついた。しかし態々聴くのもセクハラのように思えてしまい、尋ねることはしなかった。


「問題ない。私様は十八歳以上だからな。何なら身分証明書でも見せてやろうか」

「仮に成長ホルモンの分泌異常だったとしても、小学生と大人を間違えたりはしない」

「私様を疑っているのか! ほら、見てみろ!」


 ジーンズのポケットから少女は何かカードのようなものを取り出した。驚いたことに運転免許書であり、確かに写真には少女の顔が貼られている。名前の部分は少女の指で隠されていて見えなかったが本当に十八歳以上であるようだった。


「すいません。まさか年上だったなんて」

「ふん! 分かったら年上の命令は聞くものだな! さっさと辺りを警戒して進むのだ!」


 そう言うと虚勢が何処かにいってしまったかのように少女は腰を屈めて辺りを見渡し始めた。しかし辺りを歩くサラリーマンは彼等の顔を見ようともしない。車も流れるばかりだった。


「ともかく、このまま歩き続けるわけにもいかないね。どこかで夕食でも食べましょうか。けど、あまり高いところは勘弁してください。学生であまりお金が無いんです」

「フン! どこか店に入って食べるなど、リア充でもやっていればいいのだ! それより小人や巨人に見つかる前にさっさとネカフェに隠れるぞ!」

「ネカフェって……」

「マ〇ボーならこの辺りにもあるだろうな! ともかく、何処でもいいからさっさと入るのだ……あそこにあるではないか」


 確かに二四時間営業のネットカフェがビルの一階から数階にかけて経営されているようだった。

入り口の前に立つと彼は躊躇いつつ足を止めた。


「どうしたのだ。何故入らない」

「ネットカフェってテレビでしか見たことがないんです。初めて入るので少し緊張して……」

「は……貴様、別にメイドカフェやドロドロのスープの出るラーメン屋に一人で入るわけではないのだぞ。ってか、ミズガルズの都会の若者は基本的にネカフェで暮らしていると聞いているのだが」

「まさか。ネカフェ難民って言われる人はいるらしいのですが、友人には誰一人いません」

「まあいい。さっさと入るぞ! 身分証明書はあるな!」

「はあ……」


 少女に流されるまま彼は暗いネカフェの受付へと脚を運んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ