オンラインカードゲームは『基本』無料 その三
まさにそれは負のスパイラルだろう。
ロキは六枚のフレイアを手に入れた。しかし六枚は更にフレイアを求める者を呼び寄せた。
その日の夜には、フレイアを六枚かけたアンティルールの試合が申し込まれた。そこにロキが勝つと、また同じように六枚と交換し強力なカードをロキは手に入れた。そしてロキのフレイアは最終的に十二枚へと増えた……
そうした倍々ゲームはしばらく続いた。
フレイアファンクラブはヨトゥン・ヘイムの巨人や小人が主な構成員である。彼らは、散々続いたことを学習する意思がない。それよりも守らなければならないプライドがあるからである。だが彼らにはプライドに見合う知能が無いのも確かだった。
何度か彼等はロキに勝つことがあり、莫大なフレイアカードを手に入れた。しかし当然のようにロキの持つ二倍以上のフレイアが欲しくなってしまった。だから、手に入れた全てをかけてロキに勝負を挑んだ。そして敗れ、フレイアと多数のカードを失っていった……
搾取する日々が続くと、無課金のロキは、何故か重課金のフレイアコレクターとして知られることになった。既にロキの所有するフレイアはサーバーの90%以上を占めていた。しかし、そもそもフレイアは強いカードではないので欲しがる者は多いわけではない。欲しがるのは、重課金をしているのに構築も戦術も微妙な者ばかりである。
「はいはい……『祭壇の生贄』発動。『太陽神の輝き』。『勇猛なるイーグルウォリアー』……私様の勝ちだな。まったく、こいつらも懲りないものだ」
二軍デッキで挑戦者をあしらいながらロキはため息を吐いた。画面の中ではチャットでロキに向けた涙ながらの罵倒が流れていた。GMコールをロキがしておくと、しばらくして前にいた老婆のキャラはふと消えた。
「もうほとんどのカードを手に入れてしまったか……仕方ない、同ランクマッチでもするか……しかし同ランクでも大体相手の戦術分かるんだよな……」
強力なカードはロキを同ランクでは圧倒的な強さに引き上げてしまっていた。しかしランクをあげるにはランクマッチをしなくてはならない。おまけに時々ロキ以上の強さの者も混ざっているので中々あげるのがしんどい。なのでロキは自分のランクをあげるようなことをしなかった。
「脳筋幼女もまったく成長しないしな……デッキ調整してもまったく何も考えもしないとはカードゲームやる気あんのか……」
ロキが愚痴っていると、突然ゲーム内のメールが一件届いた。
どうやら大会の招待状らしく、題名に『アンティルール大会《フレイア争奪ラグナロク》参加招待状』と書かれていた。
「何々……『フレイアを持っている人限定の大会で、全てのフレイアを賭ける代わりに足りない分は他のカードをもらうことが出来る、か……まあ、フレイアなんてあったところで使うデッキなど無いし……』
そう思うとロキは参加希望のメールをなんとなく送ってしまった。
これがロキを貶める為の大会だと知らぬままに……




