表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アースガルズの私様  作者: 富良野義正
オンラインカードゲームは『基本』無料
111/163

オンラインカードゲームは『基本』無料 その一

今回はカードゲーム回

 アースガルズの宮殿から離れた深い森の奥、昼の光さえ届かないような忌まわしい場所がある。そこに好んで住まうものはいるのだろうか。

 いや、たたずむ小さな家の中に明かりが見える。こんな陰険な場所に好んで住むのは、ニヴル・ヘルの亡霊や忌まわしい巨人を除けば一人しかいないのだろう。


 淀んだ瞳と黒いぼさぼさの髪の少女ロキは制止したパソコンの画面を眺めていた。だが実際は止まっているわけではない。絶え間なく音楽が流れているのだ。


「くそ……しかし、相手の手札は二……パワーは八か……だが動かなければ次のターンには『高天原』の効果でデッキから三枚来ることになる……ここは『ラグナロクを告げるホルン』で『高天原』を割るか……『不幸を呼ぶヤドリギ』を前のターン使ったのが大きいな……くそ、『ラグナ笛』をくらえ!」


 叫びながらロキは画面に表示されている『ラグナロクを告げるホルン』を押した。だがすぐに画面の上から一枚のカードが出される。左の枠にはその拡大があり、そこにはこう書かれていた。『草薙の剣』『相手の神話アイテムを一度だけ無効にする。パワー消費5』


「ああああああああああああああ! うぜええええええええええええええ! パーミッション古事記デッキがああああああああああああ!」


 怒り任せにロキはALT+F4を押した。画面は消えたが、結果はちゃんとリプレイ付でサーバーに残っていることだろう。十ターン戦ったのだから負けても貰えるパック分のカードも増えている。


「くそ! くそが! 大体北欧の巨人デッキは他に比べて重いが多すぎるのだ! ロキを出す前にLPがゼロになるではないか! 何故オーディンサポートは多いのに巨人のサポートカードは少ないのだ!」


 今ロキが怒りをぶつけているのは『ロード オブ アースエイジ』というネット対戦型のカードゲームである。様々な神話や歴史上の国や人物をモチーフにしたカードゲームであり、初期にフレイアのカードが特典に貰えるということから小人や巨人族だけではなくアース族にも幾らか流行っているゲームだった。


 すると、すぐスカ〇プの音が響いた。ロキはマイク付のヘッドホンを頭につけて取ると、途端にトールの叫び声が響いた。


「貴様! どういうつもりだ!」

「な……勝ったのだからいいのだろ! ってか、脳筋の癖に日本書紀デッキなんて使ってんじゃねえ! パーミッションなんて、脳筋幼女に使いこなせるわけないだろうが!」

「最初のデッキで一番強そうだったから仕方ないだろうが! ってか、何で俺が貴様に勝つんだ! 手を抜きやがって!」

「ふん! 本気のデッキなど貴様に使うわけがないだろ! せいぜい私様の手抜きデッキに勝ったことを誇るがいい……くそ! やっぱ腹たって来たぞ! もう一度だ! もう一度私様の北欧の巨人デッキと勝負するのだ!」

「ふざけるな! 貴様の本気のデッキで戦いやがれ!」

「そこまで戦いたければさっさと重課金でもして強いデッキでも組みやがれ! ……って、ちょっと待て。対戦申し込みが来た」


 2Dキャラが歩き回る画面には、筋肉質な全身鎧が立っていた。その横に立っている黒いローブの少女がロキのキャラで、更に右に居る筋肉質の上半身裸の男がトールのキャラである。

 全身鎧の男は、その姿だけで強いことがわかった。全身鎧は課金アイテムのアクセサリーだからだ。ロキのような無料で手に入るような装備とは違う。

 それに敵が出した戦闘の条件は、更に自信を見せているようだった。


「アンティルールか。私様が負けたらフレイアの限定カード、か……またフレイアハンターか」


 このように初心者や無課金の者を狙い、限定のフレイアを奪おうとするプレイヤーが存在していた。ロキもこれまで同じような連中に狩られる対象になったことは沢山あった。

 しかし相手は、一見弱そうなこの無課金少女のプレイ時間をあまりにも見誤っていたころだろう。


「いいだろう……では私様も条件はフレイアの限定カードと……私様の本気ラグナロクデッキを見せてくれよう」

「おい! 何で俺と本気デッキで戦おうとしない! ぶち殺すぞ!」

「黙れ! せいぜい私様とこいつの戦いでも観戦して自らのデッキの弱さでも噛みしめておけ!」


 相手もその条件を受けると、ゲームはすぐに開始した。



 おお……何てことだ!

 ロキの手札は最高に近い状態だったのだろう。しかも『黄昏の炎』の発動から『帰還する神々』までの発動が恐ろしく早い。

 相手は『バイキングの脅威』と『フレイア』の混合デッキだったが、まったく動くことなく、ベルセルクとフレイアはニヴル・ヘルに流されていったではないか!

 そこに『大蛇の揺らす波』の発動と『霧の小巨人』の直接攻撃が入り、成す術なく相手は負けてしまったではないか!


「ふん! 大したこともないやつめ! ほら、フレイアは貰っていくぞ! フフン! 三枚全部貰ってやる!」


 それからロキは再びアンティルールを仕掛けようとする相手の申し出を断りながら永遠と煽りと嘲笑のチャットを流し続けた。このやり取りはGMが注意しにやってくるまで永遠と続き、トールや辺りで見物する者達をドン引きさせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ