19、音高男子
私が通った音高は共学ではあったけれど、音楽高校を受験する男子はとても少ない。
さらに学校側も、女子とは違い、将来妻子を養っていくことのできる実力(甲斐性?)がなければ、それなりに弾けていても合格させないとのことで、男子はレベルが高いと言うことが分かる。
上の学年には、本当に天才の人がいた。
伝説によると、その先輩は普段まったく授業には出てこなかった。
ところが、たまたま学校に来た日がピアノの試験の日だった。
「お前、大丈夫か、今日試験だぞ」
と、友だちに楽譜を見せられても、知らない曲だったらしい。
その先輩は、楽譜を見て膝の上で指をポンポンと叩き、そして3番目に呼ばれて試験会場に入った。
その先輩は、さっき見せられたばかりの課題曲を弾いた。
初めて見た楽譜を、サーっと読んだだけで覚えて試験官の前で弾いて見せた。
だけど、途中までしか読んでいなかったので、勝手に「はいここまで」と終わらせて試験会場を出てきたとのことだ。
こういう天才は、合格するらしい。
まあ、この先輩は結局卒業しなかったらしいが。
ということで、私の学年の男子は160人中1人だった。
1人だよ!?
修学旅行は、先生と同じ部屋。
可哀想すぎる。
修学旅行の時、夜中にその男子が私たちの部屋の扉を叩いた。
先生だ!と思って、布団を被った私たちの部屋に現れたのは、学年唯一の男子だった。
ガラリと部屋の扉を開けて彼は言った。
「醤油、ない?」
男子・・・パシリにされていた。
先生、何食べてんだろ。




