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9、ピアノが来た日
年子の姉は、あまり欲がなく、お誕生日に欲しいものは「消しゴム!」とか言う子だった。
それが、姉が中学一年の誕生日にいきなり
「ピアノが欲しい」
と、言ったものだから両親がぶったまげた。
当時、実家は貧乏で(今も別に裕福ではないけれど)、とてもピアノを買って置ける経済状況ではなかった。
ピアノを習い始めたおかげで、それまでやっていた器械体操もやめなければならなかったし、ピアノの練習は父の足踏みオルガンでやっていた。
そこで爺ちゃんの出番だ。
ほとんどのお金を爺ちゃんが出してくれて、姉は誕生日にピアノを買ってもらった。だけど、ウチには置き場所がなかったので、爺ちゃんの家の洋間に置かれた。爺ちゃんの家と言っても、同じ敷地内の母屋だから、毎日練習に行ける。
嬉しかった。
私もピアノが弾ける。
だけど、あのピアノは姉のピアノ。
私も、来年の誕生日にピアノが欲しいと言ったら、買ってもらえるのだろうか。
そんなはずは絶対にないと分かっているだけに、とても羨ましかった。
その日のことをとてもよく覚えている。
その姉のピアノは、現在、私の家にある。




