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8、かがみを見て
ウチでは、声楽も教えている。
もともと私は声楽家なので、こっちが専門。
そのため、ピアノの上に鏡が置いてある。なぜ鏡が必要かというと、自分の顔や口の形を確認してもらうため。
一生懸命歌っていると、時に、酷いというか醜いというか凄まじい表情で歌っていることがある。勿論、私も。
声楽のレッスンの時は、みなさん楽譜と鏡を交互に見ながら歌う。
でも、ジッと自分の顔だけを見て歌うツワモノは今のところいない。やっぱり恥ずかしいのだろうねぇ。
私はやるけどね。
ところが、この鏡。ピアノに来る男子生徒に大人気。
「せんせー、あそこにあるアレ、見せて―」
「アレって、鏡?」
「うん」
「しょうがないな。一度だけだよ」
そう言って取ってやると、生徒さんはしばし見入って
「うひゃひゃひゃひゃ!」
と、大笑い。
その鏡、両面になっていて片面は普通だけど、もう片面は凹面鏡。
凹面鏡に写る自分の顔が相当面白いらしい。
たいていの子は、なぜか鼻の穴を見る。
そんなところ、デカく写して楽しいのかい。
「うひゃひゃひゃひゃ!」の一回が長い。お楽しみいただけたようで、何より。